第19話 NO SERVICE

馬代通り付近にある旅館に来ていた。

あれから金閣寺や龍安寺に行ってみたがタイツを履いた人はそれほど居なかった。

ちらほらと履いている子はいたが足が太かったり寸胴だったりと質が悪かった。

裕馬もカメラを新調していたのに、制作で使うのと金閣寺前で撮ったの以外使っておらず、フロント横の椅子で真っ白になっていた。

元々旅行にどれだけ来るかが分からないこともあり、2部屋予約していたらしいが男3人だけの為1部屋にした。

外見は小洒落たカフェテリアのようで、和紙で作られた傘が外やフロント等に多く飾られているのが特徴的だった。

虎史のことだから女性受けも狙って、こんな穴場も旅館にしたのだろう。

浅はかな考えだが、悪くない。


「おい、部屋の鍵貰ったからチャチャッと荷物おきに行くぞ」

「あ、あぁ。裕馬も白くなってないで行こうよ」

「……うぅん、タイツがないんです」


ここまで落ち込まれると居た堪れなく、淀川らと一刻も早く合流したい。

旅行中も直々見回したり、彼女らのTwitterやらを覗いたりしていたが特に何もなかった。

もしかすれば、旅行中に1度も顔を出さないなんてこともあるのでは無いかと思ってしまう。

宇佐先輩の性格上、流石にこのままってことは―――。


「おい、部屋についたぞ!いつまで立ってるんだよ」

「あぁ、ごめん。そ、そういえば、晩飯ってどうなるんだっけ?」


無心で部屋まで歩いてきてしまったのか。

どうせ京都を満喫し過ぎて、何処かの旅館かで一休みしてるんだろう。

明日には鉢合わせを装ってくるだろうし、今日は考えるのを辞めおう。


「あぁ、飯は19時くらいにずらしてもらったからまだ来ないぞ。その間に風呂なり絵や写真のチェックでも――」

「風呂にしよ。なぁ、裕馬も風呂がいいよな」

「うん、別に写真のチェックくらいならいいけど」

「僕は嫌なんだよ。描き直しは明日にして今日は楽にしたい」


何なら旅行後までやりたくないってのが本音だ。

前回、大学付近に住んでる友人の家で泊まり込みで制作活動をすることになった時は徹夜までする羽目になったからな。

主に虎史のリテイクと裕馬の油っこい飯による胃もたれのせいなのだが、普段から作業をしていない自分にも責任はあるのだから何も言えなかった。

だが、今回の旅行は普通に過ごしたいのだ。

明日は旭達とも合流しつつ、京都の街並みをバックに淀川さんのタイツを眺めていたのだ。


「風呂か、ラーメンやらで汗もかいたしちょうどいいな」

「おし、なら行こうよ。ほら、モタモタしてたら置いて行くよ」

「ちょ、さっきまでボーっとしてた奴が何言ってんだよ。行くぞ、裕馬」

「えぇ、ちょい待てよ。部屋の鍵は?」

「開けっぱだろ!おぉぉい、鍵置いてけ!」


・・・・・・


大浴場の前、いつもなら緊張せずに入るのだが、旅行先で男女の暖簾が入れ替わってるのが鉄板だ。

この後、白タイツを履いた女性らが着替えている所に入り、きゃあぁぁぁっというか悲鳴と同時に赤いサイレン音が鳴り響き、警察沙汰になるんだろうな。


「まぁ、暖簾が入れ替わってる訳なぁんて……」


目の前に髪の長い人影が見え、男女逆転していると思っわれた。

だが、それは髪を結んでいる中年男性がバスタオルで拭いているだけであった。


「 脅かすな……いや、露天が混浴とか」

「そんなんならお前ら呼んでないよ。万が一混浴なら、淀川さん達を呼べとか言わないし」


パンツ1枚になりながらトラブルネタを考えていると横でシャツを脱いでいる虎史にツッコまれた。

確かに、淀川さんや旭の裸なんて興味無いがその後の旅行が気まずすぎる。

―――待てよ。


「いや、でも、蒸れタイツは拝めたのでは……」

「……裕馬の前では言うなのよ。風呂場でプロレスされるなんて地獄でしかないかんな」


男が裸でプロレスとか、しかも巨漢の裕馬に裸で取っ組み合いなんてもってのほかだ。

吐き気のする中、ドスドスと相撲取りが走っているような振動が近づいてくる。


「虎史!!鍵投げつけて逃げるとか卑怯すぎるだろ」

「うるせぇ。一足先に行くかんな」

「あ、ちょっ早いって」

「汰百も置いてくなって」


浴場の扉を開けると白い湯気がこちらに向かってきた。

檜で作られた浴槽と室内に名前の知らない橋と京風味の街並みが見られるん大浴場。

露天風呂がないのは少し残念だが、虎史が女子風呂を除く心配が無いのはいいことだ。

木の香りがほのかに香り、詰まった思考を緩和させられている気がした。


「ふぅぅぅ。久々の温泉もいいもんだな」

「おい裕馬、入る時はゆっくり入れよ。お湯がかかるだろ」

「ゆっくり入っても一緒だろ。それにお前らしかいないんなら気を使うことも無いし」

「気はつかえよ。眼鏡が濡れるだろ」


裕馬の体格で一気に腰を下ろしたせいで、お湯の波が顔に直撃した。

眼鏡を掛けてる人からしたら、相当ムカつくんだろうな。

僕はかけてないから関係ないけど。


「それよりさ、何でこの宿にしたのさ」

「何か不服でもあったか?」

「いや、女子受けも良さそうだし観光名所も近くにあるから良いんだけどさ……虎史ならそれだけじゃないだろ」

「ふぅ、流石だな。汰百くん」


そう言うと、濡れた眼鏡が光を反射させ、悪役の様に裏のある笑みを浮かべた。

―――この男風呂、何かある。

女子風呂に通ずる隠し通路や覗き穴があったり、近場にタイツを履いた女子が多い隠れ家があったりするのかもしれない。

もしくは、宇佐先輩と組んで風呂場で合流する手筈になっているのかもしれない。


「実はな――」

「実は……」

「―――ここ、外国人の女性が多いんだよ」

「ほほう」


外国人の宿泊率が高いということが多いということは、写真や映像ではない生の外国版タイツが見れるということか。


「こうしちゃおけん。俺は上がるぞ」

「待て、体洗ってないぞ。そんなこと――」

「いや、そういえば僕らが入ると同時にタイツを履いてた金髪の女性がいたよう……ガゥワ」

「それを早く言ってよ」


虎史の頭を踏んで、ガラガラの扉の方へと走っていった。

裕馬が扉を外す勢いで開ける。その隙間をサッと抜けて、速やかに浴衣を着た。

女子が着ればサービスシーンになるが、生憎淀川さんも旭もいないので今回はサービス抜きだ。

その代わり、海外の蒸れタイツを拝見しよう。


・・・


温泉上がりの通路をニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべる2人とそれを隠す1人が歩いていた。

京都に居るというのに、海外を思わせるようなタイツであった。

女性陣には申し訳ないが、これだけでも京都に来たかいがあったというものだ。

虎史も笑みを隠さず、さらけ出せばいいものの。


部屋を開けると、物で乱雑した部屋が目の前にあった。

僕が急かして風呂場に向かったせいか、3人分のカバンの中身がぶちまけられている。

そろそろ仲居さんが晩飯を運んでくる時間になる。僕らは一息つくまもなく、部屋を片付け出した。


「そうだ汰百」

「なんだよ。そろそろ飯の時間だから机開けようよ」


麺系が続いていたから、妙にご飯に期待してしまっている自分がいた。

虎史の話を聞きつつ、机に散らばっているのをカバンに押し込んでいた。


「あぁ、飯食ってからでいいから今日描いた分を見せてくれよ」

「いや、明日の分とまとめて見せるからさ。ほら、楽しみは最後にって」

「お前の性格上、渋って旅行の後に見せるだろ。何なら今見せてくれてもいいんだけど」

「……飯の後に見せるわ」


晩御飯は京都ならではの食材を使った豪勢なすき焼きと刺身の盛り合わせが出てきたが、味わう暇もなくかき込んだので味は覚えていなかった。


虎史のリテイクの恐ろしさを理解している僕は、飯の途中にチェックをしてもらった。

案の定、膨大な修正点と質を上げるための要求をされたので直様作業に取り掛かった。


「おい、汰百もアニメ見ようぜ」

「寝るまでに終わらせるって言ってるから、ほっとけって」

「はぁ、付き合い悪いなぁ。おぉ、Wi-Fiが繋がった」


裕馬らが横でくだらない談笑をする中、隣でメキメキと作業をし、終わる頃には2人は就寝していた。

こっちは頑張ってんだぞと起こしてやろうと考えたが、どっと襲ってきた睡魔に飲まれ、寝むっていた。

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