第17話 ロマンには華がない
夏休みも終盤。
授業が始まっている学生もちらほら出てきて、学内も賑わいを取り戻しかけているこの頃。
サークルや有志団体に所属しているものは一大イベント、黒白学祭に向けて既に準備に取り掛かっている者もいる。
1回生では有名な変人3人組もまた然り、学祭で何かを企んでいる様子だった。
「なあ汰百、20日って空いてるか?」
「20日か……バイトもないし、暇だけど何かあるか?あー何なら久しぶりに3人で遊びに行くか」
各々サークル活動や課題レポートやらで、この頃遊ぶ機会もあんましなかったからな。
僕の方も羨まがれることなのか、近頃は淀川さんらとドタバタしたり、中野教授や宇佐先輩に捕まって研究や衣装作りを手伝わされたりしていた。
楽しくないと言えば嘘になるが、女性陣に気を使ったりして正直肩がこっる。
虎史や裕馬とも昼食以外だと会えてなかったから、夏の終わりくらいは一緒に遊びに行きたい。
「近場がいいよね。京都や神戸のタイツでも見に行くか?それか東京なんかに――」
頭の中でタイツを膨らませていると、それを破くように虎史が入ってきた。
「……いや、やることは決まってるんだ」
「……へぇ。どんな?」
「ああ。俺らの合同制作の為に旅でも行かないか?」
「旅って、具体的にはどこ行くんだよ」
「2泊3日で京都の嵐山に行くんだ。京ガールのタイツも拝めるし、制作のアイデアも浮かぶだろう?・・・・・・どうだ?」
2泊3日の京旅行―――予定も空いてるし、たまには頭の中をタイツ一色にするのもいいか。
ここの所、目に生気が宿っていないと言われる。ピチピチのタイツを拝めてないからだろう。
バイトも荒川に頼んだら変わってくれるだろう。
その分、お土産代の出費が響くが仕方ない。
「わかった。そっちも進めないとヤバいし行くか」
「おっし。細かいのはグループに送っとくから見とけよ。じゃあまたな」
「たまには野郎3人でパーッと行こうや」
「おぉ、漢3人でパァーっとて……男だけで?」
こういうのって男女グループで行くもんじゃないのか?
それは合同制作の方に女子は少なからずだがいたはず。
虎史なら強引に誘っていても可笑しくはないのだが、どうしたというのだ。
いやでもまぁ、別にやましいことを想像している訳ではないんだし、タイツ一筋なのも変わらない。
だが男三人水入らずというのは華がなさ過ぎる気がしないことも無い。―――というか絶対に枯れている。
京都ということは旅館に泊まるわけだし、露天風呂なんかもあるはず。
風呂を創意工夫で覗いたり従業員のミスで混浴というのもお決まり事も無きにしも非ず。
もちろん、風呂場ではタイツを履いていないから興味はないが、脱ぎ忘れて履いてくる輩がいるかしれない。
まあ、虎史なら思いつきそうだし、何なら暖簾を入れ替えたり先回りして風呂場に穴を開けることもしかねない。
その無類の変人が女性を呼ばないとは気の迷いか。
「虎史が女子を誘わないなんて珍しいな。僕はそれでいいが大丈夫か」
「何言ってんだよ。誘わないとは言ってないぞ」
「ま、そうなるわな。旅にタイツがな――」
全く女子が来ないと旅に虎史がする訳がないんだ。
誰でもいいから女とお近づきになってあわよくば付き合いたい。
さらには履いているタイツを力づくで破りたいなんて考えるヤバい奴だ。
こいつのことだから、「旭や中野教授を呼べばいいだろ?お前の方が仲良いんだからな」って言われるのがオチだと思っていたんだが―――。
「お前が誘うんだよ。平野く〜ん」
「――ちょ、僕に女友達を期待してどうするんだよ。虎史の方がいいだろ」
「いるだろ……なぁ?」
女は任せたという期待とできるよな威圧する目を向けられる。
こうなった虎史に言っても仕方ないことは理解している。
かと言って漫画の主人公のようにただあちら側から来るのを待つほど他力ではない。
「ち、しょうがないなぁ……」
「サンキュ、じゃあ当日楽しみにしてるよ」
虎史の為にも旅行に華を添えるため、ポッケのスマホに登録されてある数少ない女友達の番号を漁った。
初陣だから、逃がす訳には行かない。
まずは確実に釣れるものから釣っていくしかない。
プルルル プルルル――
中野教授は応答不能?
……そう言えばこの時間は講義でスマホを手元に置いてなかった。
ならば、次は同時に2匹釣れるものを。
「も、もしもし……ど、どうしたの?」
「あ、旭、急に悪いんだけどさ、来週の金曜から3日間って空いてるかな?」
「来週……金曜って……サークルくらいし、しかないけど……何か約束してた、け」
サークルがあるってことは宇佐先輩も行けるってことか。
合同合宿なんてことになれば、コスプレサークルのタイツを見放題っていうことになる。
これは中々の大群、もしくは2匹が釣れる予感がする。
「いやさぁ、虎史達と京旅行するんだけど良かった一緒にどうかなってね。サークルの人も誘っていいからさ」
「え、りょ、旅行だ……よね……に聞いて、みるから……後で返事するね」
「オッケ、一応時間と場所は送っとくから見といて、じゃあね」
「う、うん……またね」
―――これは、釣れたな。
宇佐先輩のことだ。こちらの思惑を察して後押しもしてくれるだろうし、本人も宇佐先輩が一緒なら虎史らが居ても来るはずだ。
時間と場所もさりげなく、強引に伝えておいたしな。
さてと、1匹目は、いや3匹目は少々難易度は上がるものの可能性は無きにしも非ず。
しかも1級品のタイツだが、釣るための
「なんのよう?私から平穏な日常を奪っている人は着信拒否なのだけど」
「なら問題ないな。1分でいいから話を聞いてくれないか?」
「わかったわ。30秒あげるから早急にお願いね」
30秒もあればタイツを履いた脚を数十人は視認できる。
そう思えば30秒なんて長いものだ。
「20日から3日間を京都で過ごすんだけど、一緒に来ない?旭も来るし、見た目も味も確かな喫茶店やインスタに投稿すれば間違いなしの穴場の絶景スポットもあるんだけ――」
「間に合ってます。はい、30秒経ったわね。また大学で会いましょ」
―――フッ、彼女も成長したな。
前までは「大学で会いましょ」なんて言葉は出なかったからな。
照れ隠しで素っ気ない態度を取っていたが、旅行に来てくれるはずだ。
後で個人の方に日時や場所を送っておこう。
悲しいことに打てる手は全て撃ち尽くしてしまった。
虎史のようにメアドやフォローワーから漁っても無意味なのだ。
あとは当日になってからのお楽しみという訳でた。
20日にあるタイツ達を心待ちに、中野教授が熟睡する研究室に向かうのであった。
・・・・・・
ピンク色の看板が目印の異色サークル。
前回までは机や床も見えないほどものが散乱していたが、平野の助力で机が見える程度には片付いた。
そんなサークルで1人、人目も後目に妄想に耽っている女の子がいた。
「宇佐先輩、きょ、きょきょぎょ京都に行きませんか」
「落ち着きなって、ほら手が止まってるよ」
旅行に誘われてから、返し縫いの速度と部屋の温度が徐々に上がっている。
京都の通りでお茶し、羽織を着て白塗りでおめかし、清水寺の上で接吻するという妄想をリプレイしていた。
哀れというか愛くるしいというか、この妄想を叶えてあげたいのは定かではない。
だが、学祭というビッグイベントを前にしたサークルにとって、現状では色恋沙汰をしている暇はない。
特にコスプレに熱心にのめり込んでおり、衣装作りのほぼ全てに携わっている旭に抜けられるのはかなりの痛手だ。
「…………旭さぁ、申し訳ないんけど、京都はまたの機会でいいかな」
「そ、そうですよね……い、行きます…………あれ、行かないん、ですか?」
「私らが京都に行く意味ないしね。これ以上は気弱な女の子ってより、ただの拗らせストーカーだよ」
彼女は行けないという現実を和ますために言ったジョークだが、旭にとっては始めて客観的に言われた言葉だ。
ニヤニヤと強ばった笑みを浮かべていた顔から、血の気が引いていた。
健康的で艶のある肌が真っ白になり、Tシャツのホワイトと同色している。
そこからは語らないでおこう。
普段の彼女なら正論を曲げていく突進力と派手で整った顔から来る気迫で妄想を実現させている彼女だった。
だが今は、宇佐の言葉から手先は微動だにせず、ドライアイになりかねないほど前を見続けている。
他の部員達が来たあとも唖然とし凍りついていた。顔を覗き込む人もおり、陽気な姿しか知らない人には物珍しいんだろう。
そんな彼女ほうって帰る訳にも行かず、彼女は宇佐先輩の自宅に2泊3日することになった。
淀川に関しては音信不通と、何をしているのか……。
女性というものは分からないものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます