第14話 女神コーデ
日曜日、雲一つない晴れ晴れとした絶好のダブルデート日和だ。
ベタに駅前の銅像を目印に待ち合わせをしている。
淀川さんにチケットを渡してから、ちょくちょくLINEが来ていたがほぼスルーした。
旭の方は宇佐先輩が誘ってくれたらしく、あっさりと承諾してくれたようだ。
見かけどうり何事もスマートに遂行してくれる優秀な女上司みたいな人だ。
デートプランも女性の意見として都会の小洒落たカフェやカップルの多そうな遊園地をオススメしてくれたが遠慮させてもらった。
僕がもしも、人生で彼女ができた際に計画していた美学のデートを実行することにした。
今からそれを実現できることに体を鳥肌が収まらない。
しかし、待ち合わせの時間を30分過ぎているが2人とも来る気配がない。連絡も帰ってこないってことは来る気がないのかな。僕の分のチケットも淀川さんに渡してしまったから、一人で入場もできないからな。
仕方ないと思い、駅の改札口に向かおうとしていた。
その時―――。
「何、平野くんも今来たところなの?」
「普通は先に来てるもんじゃないのかしら、相変わらずデリカシーやらが分からい人ね」
改札口から2人の美脚、いや美少女が舞い降りてきた。
黒いジャケットを羽織り、スラットした脚が映えるジーンズを履いて颯爽と歩く元モデル。
横には白Tとデザインスカートでスポーツルックに着こなした今時ギャル。
「スポーツパーカーにゆったりしたパーカーか……悪くないわね。ただ、今回は遊園地とか動き回るわけじゃないんだからもう少しキッチリしたの着なさいよ」
「それには同意するかな〜。顔は悪くないんだからもっと軽めのシャツとスキニーパンツ履くだけでマシになるのに、勿体ないな」
この2人の隣を歩くんから頑張ったっていうのに、この言われようだ。
確かに言われてみればそうなのだが、ここで心をへし折られている場合ではない。
「そ、そうだな。それよりもファッション・ショーまで時間があるみたいだけど、どこに行くのかな」
「そうね。コスプレ喫茶とか言ったら帰るわよ」
「コスプレ喫茶でもいいけど……平野くんがデートらしいところに連れってくれることを期待してるよ」
コスプレ喫茶やデパートは連れってたうちに入らないのか。
なんか心臓あたりを射抜かれた気持ちだ。
ファッション・ショーが始まるまでの間のプランは立てているが、ひとまずこのまま行こう。
プランは着いてから伝えるしかない。
ここのいるだけで現役JDの罵倒で疲弊している精神がすり減っていくの痛感した。ヨロヨロになりそうな脚を目的地に進めた。
・・・・・・
駅から徒歩15分。
ショピングや飲食とともに散策も楽しめる、と宇佐先輩がオススメしてくれた大阪の都心、憩いの場「大阪パークス」。
道中遠いだの何があるのだのグダグダと罵詈雑言を一身に受けていたため、体感では待ち時間以上に感じた。
「平野くん、何つったてるの。ショーまで時間ないんだからどうするの」
「え、まず3階に上がって……」
「ショーの後にお茶するならショッピングだよね。平野くんの好みとか気になるな〜」
エスカレーターへの1歩もズッシリと重く感じる。
宇佐先輩は旭と来たことあるらしいが、淀川さんも新鮮味が無さそうだから来たことあるんだろう。
僕もココには来たことあるが、アニメ映画を見に来たりタイツ女子を見に来るぐらいだ。
ショッピングしたい〝店〟はあるが、疲れ切った今の状態ではあまり行きたくないな。
「あ、じゃああそこのkoalaって店はどうかな。カジュアルなジージャンやパンツがあるよ。あっちのmo-tenなんて大人びたスカートが多いから淀川さんに似合いそう」
一応2人が好きそうな店もピックアップしていて正解だった。
僕はあまり興味の無い店だけど、程よく時間を潰せるだろう。
着せ替え人形にはさせられそうだけど。
「へぇ〜、平野くんにしてはいい感じのセンスしてんじゃん。早速行きますか」
旭は気に入ってくれたようだ。淀川さんは―――。
「私は……そうね」
一瞬、僕の方を見てふとニヤついた気がした。
そして、目線をある店にロックオンした。その先は――。
「私はあの店を覗きたいけど、旭さんにも似合いそうな華々しくて白を貴重にしたものが多そうだけどどうかしら」
「あ、良いかも。平野くんもあそこでいいかな」
「え、あそこって女性専用の見せじゃ……」
淀川さんが指定した店は女性専用のものを取り扱ったBUTCHという店だ。
実はと言うと、僕もあそこに連れていきたかったのだ。
普段は人目を引く派手な服を好む旭に自然とタイツを纏わせれる機会だと思った。
あわよくば横に淀川さんを並べて、豪華絢爛なタイツ二大女神を拝みたかったのだが、予想以上に疲れているので休憩したい。
それに、旭の目の前でタイツの魔力で緩みきった僕を見せるとバレる可能性もある。
「いくら僕でも遠慮しとくよ。そこのベンチでゆっくりしとくか――」
「男性の意見も欲しいから着いてきて。それに荷物持ちもいるでしよ」
「そうだよ。たまには私たちに合う服を選んで見るのも悪くないでしょ」
「え、僕はいいかっら――」
ショッピングの際に男性の意見が通る訳もなく、2人に腕を組まれる形で入店することになった。
店内には女友達やカップルで来ているのが大半で、夏祭りや海に向けてのコーデから上はブラから下はタイツまでなんでも揃ってるいる。
「ふーん、僕が選んでもいいんだよね」
「あら、ヤル気が出てきて何よりだけど、際どいものは遠慮するわ」
「私も露出度高いのは控えてね。それ以外はお任せね」
それ以上露出させたら、公然わいせつを強要したことで無所にぶち込まれるよ。
太ももまでパンツを先週履いてた人がそれ以外露出するには、卑猥なアパレル店に行かないと無理だろう。
「そんじゃ、旭はこのスカートにシャツで、淀川さんはブラウスとデニムかな」
「ふーん、じゃ試着してくわ。 …………平野くん、わかってるわね」
「うぅ、わかりました」
淀川さんが試着室に向かうのを見て、その後ろを着いていく旭にすかさずあるものを渡した。
「あ、旭、ちょっと待って」
「な、急に話しかけられると、素が出ちゃう。な……何かな」
「旭にはこれも試着して欲しいんだけど、いいかな」
「別に構わないけど、平野くんはこういうの嫌いじゃないの」
突拍子のない珍質問に、思考がフリーズ仕掛けたが何とか再生した。旭は僕が脚フェチだと思っているのか。―――ピンポン。
どこからかクイズ問題を正解した音がしたが、多分そうなんだろう。
高校の時からの付き合いだけど、いつそう思わせてしまっていたのかは不明だ。
「いや、特に嫌いじゃないけど旭が嫌なら試着しなくていいよ」
「いや、別に、あ、そうなんだ……なら着替えくるね」
旭は受け取り、試着室に向かった。どこかしこりの取れたようなスカッとした表情をしていた。
よっぽど僕が脚フェチじゃないのが嬉しいのだろう。
変人なのは向こうも承知しているはずだが、何とか誤魔化せたようで助かった。
そうこうしてるうちに、試着室のカーテンが開いた。
中からノースリーブの黒いブラウンと白のフレアデニムとモデル体型の長い脚ですらっと統一感のあるカジュアルなコーデになった。
「モノトーンコーデなんて、チョイスはいい感じね。タイツも渡さなかったし上出来だわ」
「このコーデにタイツは似合わないからね。僕はタイツ馬鹿だけど目利きはちゃんとしている」
普段着でタイツを生かすにはなかなか至難の技だからな。
僕もそれなりに勉強しているけど、こういうのは女性に試着してもらわないと実現できないな。
「あ、平野くん、おまた〜って古いかな。どう?」
旭にはゆるめのTシャツにデニムショートパンツ、デニール60の黒で引き締まった体と褐色肌を引き立たしてみた。
ヘルシーな雰囲気で程よく色香もある。
「うん、いい感じだよ。旭はやっぱりタ……」
「ぐふっ」
タイツと言いかけてしまった。淀川さんの方は笑いを堪えている。
これが虎史や荒川ならゲンコツを食らわすのだが、今のコーデと美脚がマッチしている彼女にはお見舞いできない。
「タって何?どこか変なところある」
「いや、バランス良く着こなせていて、流石旭って感じだよ。子どもっぽく見えないからバッチリです。はい」
「そ、そうかな。平野くんのセンスがいいんだよ」
「あ、ありがと……これでいいんだよね」
「えぇ、上出来なんじゃない」
旭のタイツ姿を拝めたのは不幸中の幸いだが、一気にどっと疲れた。
ファッション・ショーの間、いびきを掻いて寝てしまいそうだ。
2人は僕が選んだコーデを気に入ってくれたのか、そのまま着てお会計に向かった。もちろん、支払いは僕になっていた。
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