第13話 もう一度
「…なるほど。そういうことですか。随分といい性格してるんですか」
「そりゃどうも。怒られると思ったんだけど、変人なだけあって度量が広いんだね〜」
「怒ってもいいですか」
「冗談だよ。まぁ、個性的な旭や浪速くんと付き合ってゆくならこんなでへこたれてたら困るわね」
この人が修羅場の発端だとわかり、最初こそ文句でも言おうと思っていたが話すとなかなか個性的な人だった。
中性的な容姿と大人びた雰囲気も相まって人の目を引く存在で若干周りの視線が気になるがこのくらい慣れている。
「そういえば、浪速のことはなんで知ってるんですか?何かちょっかいでもかけられて」
「違うから。サークルの関係でちょくちょく顔を合わしてるだけで、その時に平野くんのことを話していたの」
虎史が僕のことを他人に話すなんで、一体何を話しているのか―――
「タイツ……が好きなことっとか、女の子の顔より脚を見てるってことや色々と」
アイツ人のことべらべらと話しすぎたろ、少しは旭を見習ってだな。
「旭も変わってるところがあるから、合わせたくないって言ってけどね」
女なんて信じた僕が馬鹿だった。面倒臭いが良い奴だと思っていたのに、あの脚はただ餌だったのか。
「まぁ、ただの照れ隠しだと思うけどね……ね、平野くん」
「はい、なんすか」
「イライラしないの、2人とも君のことを馬鹿にしているわけではないんだから」
「いやいや、宇佐さんだから広まってないだけで十分NG発言していますよ。あの不良とコミュ障ちゃんは何も考えてないんだから」
僕なら耐えれるけど、これがただのオタクや変人ならうつ病になっているぞ。
人の視線を気にしない虎史ならまだしも、旭なら痛いほどわかるんじゃないだろうか。
「平野くんの個人情報はさておき、修羅場の方はどうするつもりなの」
「さておきって……鎮火はしないですよね」
「淀川さんは知らないけど、純恋の方は納得するまで燃え尽きないんじゃないかな。君もよく知っての通り」
僕もそれを思いついていた。僕の前だとナヨナヨしているくせに、変なところで暴走してスタミナ切れで素を出すのがお決まりだろう。
聞いた感じでは、宇佐先輩の前では素を出しているのに少し驚きと同時に感動もあった。
あのコミュ障ガールに仲のいい同性の先輩ができるなんて想像もつかなかったからだ。
大学生になっても親しそうにしている子を見かけなかったから、元モデルの淀川さんなら話が合うと思っていつか合わせようとしてたんだけどな。
知らないところで最悪の初顔合わせを済ませていたとは予想外だけど、一旦置いておこう。
「どうせ僕がトラブらないと解決しないんだろうけど、何をしたらいいか分からないっていうのもありますかね」
アイデアがあればすぐ行動に移すんだが、あの二人が曲者なだけあって何をすればいいのか全く分からない。
悩みきった表情をしている僕を見て、目の前にいる小悪魔が何かを企むように上がった口角を手の甲で隠した。
「それならさ、もう一度デートに誘えばいいんじゃない」
「中野教授も言ってましたがそれはまずいですよ。苛立っている2人にデートを申し込んでも意味が無いし、寧ろ悪化するだけじゃ」
それに軽率に相手をおだてて修復したところで無意味に決まっている。
あの二人とは今後も友達でいたいしタイツも拝みたい。まだまだ鮮やかなタイツに彩られた大学キャンパスは序奏に過ぎないんだから。
それに、中野教授もだが女性はなんですぐにデートに結びつけたくなるだ。宇佐先輩がメルヘンチックな思考の持ち主とも思えないが。
「いや、2人同時にデートに誘えばいいんじゃない。」
「え………んっと2人同時って、2人1緒にデートするってことじょないですよね」
「その真逆なんだけど、ゴチャゴチャしてるよりは2人同時に攻略する方が手っ取り早いと思ってね」
軟派な発想だと思うが意外にありなのではと錯覚してしまう。
このまま何も進まないよりはマシなのだろう。
「でも先輩、それを成功させるほど僕はトークや気遣いができるわけじゃないんですよ。それで失敗するより一人一人を呼び出した方が理想的じゃ―――」
「1人でヤル気ィー?私も手伝うから大丈夫だから安心してよ」
「手伝うっていっても、宇佐先輩がデートプラン考えてくれるんですか?」
「プランは平野くんが立てないと意味無いでしょ。私がすることは女性的な意見と旭のコンディションを良くするくらいかな」
それだけでも随分心強いのだが、なんでかモチベーションが上がらない。
不満がある訳では無いのだが、どこか不安を感じている。
…それとも見返りを求めているところがあるのかもしれない。
「それと平野くんへのご褒美を用意するとかかな」
「……ご褒美、ですか。僕が喜ぶものなんてそうそうないと思い…」
「私と純恋のコスプレでどうかな、デザインは任せるから好きなの着せれるわよ」
……旭と宇佐先輩のコスプレ、だと…?
つまり僕が望めば、二人の選んだデニールのタイツを拝む事ができるというのか…?
「コスプレするだけ…ですか?」
「んー確かにそれだけじゃ曖昧かな…。じゃあ、コスプレした私達にしてほしいこと、なんでも一つだけ聞いてあげるよ」
「僕は何をすればいいですか」
「モチベ上げやすくて助かるわ」
傍から見れば宇佐先輩に操られている変態ピエロに見えるが、本人さえ良ければそれで良いのだ。
「それじゃ、平野くんの思うデートプランを考えるのと淀川さんのことを上手く誘うのを頼めるかな」
「いいですね。この後予定がなかったら早速プラン立てませんか」
「いいけど、それじゃあまず服装から―――」
・・・・・・
大学の中庭にある芝生の広場。
晴れ晴れとして野原を駆ける風邪が気持ち日なのだが、そこにどんよりと雰囲気を露わにする女性がいた。
周りの草花を枯らすように錯覚するほど、黒々とした後光が見える。
予想外の訪問者のせいで授業サボることになった挙句、見知らぬいちゃもんをつけられたことにイラついている。
これだから人と関わりたくなかったのだ。コンビニで買ったサンドイッチを頬張りながら黙々を食べていると問題を中心人物がよそよそしく声を掛けてきた。
「淀川さん、良かった一緒昼食でも――」
「生憎様、先客がいるからパスさせてもらうわ」
「そんな人何処にも見当たらないんだけど、ほんとに存在するの」
悲しいものを目の当たりにしているように、こちらに慈愛のある目でを向けてきた。
平野くんといるとイライラが増している。
サンドイッチを掴む手がじわじわと強くなり、挟んでいる具がはみ出してきている。
「ほっといてくれないかしら。私よりも彼女のところに行く方が先決だと思うんだけど」
「それは後で行くけど、まず淀川さんに言いたいことがあるんだけど」
許可も出していないのに横に座り込んでくる。
一緒に昼ごはんをしようとしているのかと思ったが、彼はポケットから白い封筒を出し、渡してきた。
中身を確認すると休日に開催されるファッション・ショーのチケットだった。
「これ何かしら、私を誘ってるの?これこそ彼女に――」
「旭も誘うよ。でも淀川さんも誘う」
彼の言葉を疑った。
劣悪な状況下にある2人とファッション・ショーを見に行こうと言っているのだ。しかも、私が所属している事務所のショーだった。
彼のことだから知っていていやっているのだろう。
「あなた、何言ってるのか」
「わかってるよ。来るも来ないも淀川さんが決めていいから、それじゃあショーの1時間前に集合だからね」
そう言い残して、彼は立ち上がってサークル棟のある方へ立ち去った。
問い詰めようと思ったが、サンドイッチの具で汚れていた手を見つめて、追いかけるのをやめた。
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