#22 まじかる☆シトラスの宿命

「まる!」


 僕と苺坂さんは駅へ辿り着き、まるやプロ魔法少女の方々と合流を果たした。


「柚希くん! 良かった、無事だったんだ!」

「まるこそ。……なんか、顔色悪くない? どうしたの?」

「えへへ、ちょっと張り切り過ぎちゃって!」

「この子は将来有望ですわ、私が直々に指導してあげたいくらい」


 ん?

 誰だこの人。


 綺麗な赤い髪はみるくにそっくりだけど、胸のあたりがどうしても似ても似つかない。


「おっ、おおおおかおかお母様!?」

「お母様!? みるくのお母様ぁ!?」

「ご機嫌麗しゅう、シトラスのご子息よね?」

「えっ、ええ、まあ、はい……」


 き、気まずすぎる!


 ついさっき振った子の母親と遭遇する羽目になるとは……


「えっ、ということは貴女がベリーレッド……?」

「そうだけど、それが何か?」


 このちょっとだけ高圧的というか、なんとなく上から目線な感じはみるくそっくりだ。

 それによく見ると目元のあたりとかも似てるな、みるくは母親似か。


「あ~、その、母がお世話になっておりました」

「そ~~~~~~~~~なのよ! あの子ったら史上最強だなんて言われていますけどね、普段はほんっと~~~~~~~~~にだらしの無い人でしたわ! まあ、そういう少し抜けてるところも愛嬌だと捉えられるのでしょうね。私には到底真似のできないアピールでしたもの」

「お母様がここに居るってことは、まさか変身されたのですか?」

「当たり前ではありませんか」

「聞いてよ! ベリーレッドね、ヴィランの軍勢を一人で一掃したの! 凄くない!? 凄すぎない!? いやぁ、さすが元ナンバーツー魔──」

「シトラスが居なくなってからはナンバーワンです」

「さすが元ナンバーワン魔法少女だよねぇ~!」


 一人でヴィランの軍勢を一掃したって、現ナンバーワン魔法少女の標さんと同じ事をやったの?

 引退してる身でありながらなんてパワフルな人なんだ……


「いいえ、私だけの力ではありませんわ。アナタが持ちこたえてくれたから私が応援に駆けつけることができた。大海原さん、いえ、オーシャンブル―、アナタのおかげです」

「あらっ、あららっ! ちょっと聞いた!? ベリーレッドから褒められちゃったよ!」

「聞いた聞いた。まるも戦ってたんだね」

「うん、きっと柚希くんも戦ってるだろうと思って」

「そっか、ありがとうまる」

「えっ、なんで?」

「まるが居なきゃみんなを守れなかった。僕はもうヴィランに殺される人を見たくないんだ。だからまる、みんなを守ってくれてありがとう」

「へへっ」


 その刹那、横から鋭い視線がッ!


「私も戦ったんですけど、柚希と一緒にね!」


 僕の名前を妙に強調して主張する苺坂さん。


「柚希!?」とまるが目をまるくして驚く。


「そうだね、ありがとうみるく」


「みるく!?」とまたもやまるが目を丸くして驚く。


「あら……」と怪しげな笑みを浮かべながらベリーレッド。


 隣でみるくは勝ち誇った表情でまるに視線を向ける。


「んなぁ! なぁ~! どういうことなの!?」

「まあ? 共に戦う中で? 特別な絆が芽生えちゃったというか?」


 みるくさん、悪あがきを止めなさい。


「じゃあじゃあ! ボクのことも下の名前で呼んでよ!」

「呼んでるだろ」

「じゃあボクも柚希くんのこと下の名前で呼ぶ!」

「呼んでるだろ」

「詰んだぁ!」


 むしろこれまでずっとみるくの一歩先に居たとは考えられないものか。


「ちょいと若人さん方」


 この場では聞き馴染みの無かった、だけど僕にとっては耳に慣れた人の声が割って入ってきた。


「ご歓談のところ悪いんだけど、状況は良くないよ?」

「標さん、どうしてここに」

「まあいろいろあってね。だから結論から言う、楽天学園理事長、棺連理。奴が今回と二週間前の一件の黒幕だ」


 待て待て待て待て、どうして突然棺理事長の名前が出てくるんだ。

 しかも理事長が黒幕って何だよ。

 あの人は魔法少女統制局の副局長で、魔法少女を養成する楽天学園の理事長だろ。

 魔法少女の一番の理解者で、魔法少女が全幅の信頼を置くべき味方じゃないのか。


「狙いはシトラス先輩を蘇らせる事」


 僕だけじゃない、この場に居た全員が驚きの表情であったり声を上げる。


 いや、ベリーレッドを除いて。


「その為にはゆずくん、君を殺す必要があるらしい」

「ど、どういう、ことですか……?」

「理事長はヴィランと結託し、魔力とDNA情報が近いモノを用いて、魔力の持ち主の記憶と意識を転移させる術を手に入れている。シトラス先輩を蘇らせる、その依り代としてゆずくんが都合が良いんだとさ」

「なるほど。柚希はまじかる☆シトラスと血縁関係にあり、既に魔力を体内に宿している。確かにその目的としては都合が良すぎる存在ですね」


 流石みるく、理解が早くて助かる。

 僕は既にちょっと置いてけぼり気味だ。

 あっ、あの顔、まるもイマイチ分かってないな。


「だが、まだゆずくんの身体にはゆずくんの意識が残っている」

「それを消す為に殺す、と?」

「その通り」


 その先の話を要約すると、棺理事長がヴィランの主戦力舞台を率いて僕を目標に攻めてくるらしい。

 それを今ここに居る魔法少女で迎え撃つのだと。


「で、これが一番の問題なんだけど」


 何の問題があるんだろう?

 ベリーレッドとルミナスという、過去と現在のスーパーヒロインが揃っている。

 パパパっととっちめて終わりだろうに。


「私とレッド先輩は戦闘に参加できませんっ☆」


 その年で〝てへぺろ〟はキツイ。


「どういうことですか? よりにもよってこの場の最高戦力の二人が戦えないって」

「あんのクソアマ、魔法少女の変身を解く術を持ってるんだ。いつだっけな、五年くらい前にプロ魔法少女のまじかるパクトがアップデートされてさ、新型って呼ばれてるやつなんだけど。レッド先輩もギリその頃現役でしたもんね?」

「ええ、そうだけど?」

「だから私とレッド先輩が戦おうにも即座に変身を解かれちゃって生身を晒し、ヴィランに嬲り殺されて即脱落ってワケ」


 理解はできた。

 事情は難しそうだったけど、とにかくこの二人は戦えない。


「あれ、待ってくださいよ。汎用まじかるパクトは? これだって所謂新型じゃないんですか?」

「あぁ、確かにそうだね。……あれぇ!? じゃあシトラス先輩の旧型のパクトを持ってるゆずくんしか戦えなくない!?」


 マジで?


 僕一人でヴィランと戦うの?


 ドクター・レオンでさえ僕一人なら捨て身の魔力爆発を使うしか無くて、みるくと共闘してようやく五体満足で乗り越えたっていうのに?


 しかも今回は一体じゃないんでしょ?


「まあ私がおかしなことを言っているのは重々承知だけどさ、ごめん、こればっかりは仕方無いわ。何せ魔法少女の未来が、即ちこの国の未来が懸かってるし!」


 本気か、自棄か。

 標さんの真意が僕には分からないけど、他に選択肢は無いってことだよな。


 腹、括るかぁ。


「みるく、これを使いなさい」


 ベリーレッドがみるくに古びたまじかるパクトを手渡す。

 薄汚れていて塗装もほとんど剥げている、炎や苺をモチーフにした装飾もなんとか残っているって程度。


「これは?」

「私が新人の頃に使っていたまじかるパクトです」

「お母様の!? では、お母様にしか開けられないのでは?」

「苺坂家が独自に開発した特別製です。苺坂家の血を引く者であれば使えるようにプログラムされていますの。私が初代ですから、二代目のみるくへ、みるくに娘が生まれればその次の代へと引き継げるように」


 苺坂家はお金持ちだろうとは思っていたけど、ちょっと度が過ぎたお金持ちの可能性が出てきたな。


 というか独自にまじかるパクトって作れちゃうものなんだ。


「ただし、そのまじかるパクトには私の魔力も込められています。汎用まじかるパクトとは比べ物にならない程の出力になってしまいますから──」

「大丈夫ですお母様、戦いながら慣れます」


「よろしい」とベリーレッドは微笑んで頷く。


 なんとか戦力が一人増えた。

 しかもみるくだ、大幅な戦力増強だぞ。


「ま、待ってください! じゃあボクは戦えないってこと、ですか……?」


 まるは寂しそうに切り出す。

 あんなにヴィランを怖がっていたまるが戦えないことを悔しがっているなんて。


「まる、明日の朝、話したい事がある」

「……今じゃ、ダメなの?」


 今でも良い。

 本当は僕の想いを今すぐ伝えたい。


 だけどそれじゃダメなんだ。


 魔法少女としての義務を果たさなきゃ、個人的な都合は後回しだ。


 まじかる☆シトラス乱道柚子が始めて、まじかる☆シトラス乱道柚希がピリオドを打つ物語。

 この戦いが、付けるべきケジメなんだ。


 誤った選択をした母さんの罪、最強の力を受け継いだ僕への罰。


 行こう、清算へ。


「朝、寮の中庭で待ってる」

「柚希くん!」


 背を向ける僕へ、まるは引き留めようとする。


 続く言葉は「一緒に」でも「行かないで」でも、僕は振り向かず背中で否定の意を表すだろう。


「勝てたら、胸、触らせてあげる!」

「うぉい!?」


 振り返っちゃうだろ、それは。


「だから負けるな!」

「もちろん、みんなを守る、絶対に勝つ」


 まるのおっぱいを触る為に。

 そして楽天学園と魔法少女の、ひいては世界の未来を守る為に。


 溜息を吐くみるくと標さんを後目に、僕は、僕の命を狙わんとする棺連理ヴィランの元を目指した。

 後を追いかけてきたみるくに後頭部を思いっきり叩かれたが、今回ばかりはまるが悪いと思いませんか?


「すみません、今更なんすけど、何でレッド先輩がここに居るんすか? 引退してる元魔法少女が変身しただなんて、統制局に知られたら大変なことになると思うんすけど」

「仕方無いじゃない。休日だというのにみるくに電話が繋がらなかったんだもの。何かあったんじゃないかと思って駆け付けたの、悪い?」

「うわぁ、さすがシトラス世代っすね……」

「ベリー世代」

「ははっ」


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