2 早い子は10歳から、平均年齢11.5歳のタナー段階Ⅱから受けられる医療。

 タナー段階Ⅱ(陰毛が少し出始めた)以上とされてからは『二次性徴抑制療法』を選択することが視野に入ってきます。

 ここからの療法は、精神科医の診断とセカンドオピニオンに基づき医療チームの一員か、医療チームに依頼された内分泌科、小児内分泌科、泌尿器科or産婦人科、といった専門医が行うべきとされるものになります。


(二次性徴抑制療法については、このワードで検索するだけでも当事者やアライによる啓発を意識した情報サイトは多く閲覧できます。

 ですが大抵の場合は情報源が曖昧であったり「未成年」とひとくくりにされており、ここで年齢別の段階的な療法に関して混乱する可能性があります。

 ……実際筆者もそこに翻弄されてしまってやらかしました。本稿を制作するに至った動機でもあります。

0話目にて『学会のガイドラインとその改定内容を優先してください』としたのはこれが療法を受けられる年齢規定に関してもっとも正確かつ確実なものを明記しているためです。)


 ただし二次性徴抑制療法は12歳未満であれば、医療者側には慎重に判断するよう求められています。

 また2年程度を目処として性ホルモン療法へ移行か中止を検討すること、とされています。(そして15才未満での性ホルモンへの移行は推奨されていません)

 なので概ね、12歳から15歳の間で2年程度続けられるものと思ってください。

 これは可逆性のある治療法です。療法をやめれば再び二次性徴が始まります。

 ……しかしこの療法には大きな問題点があります。

 現時点(2021年11月)で保険適用外です。(というか、次の回で扱う性ホルモン療法もジェネリック薬はありますが、執筆時点では保険適用外)

 すなわち全額実費であり、注射で1回4万5000円(同年同月時点)相当としているクリニックもあります。これを12ヶ月2年間打ったとして、108万円、消費税含めたら120万近くになります。(現時点で、国民健康保険適用外の自由診療および薬品類には消費税が付与される。保険適用がされることで満額負担から、消費税非課税の状態で負担額は3割まで下がる。)


※2024年8月29日追記:ガイドライン第5版にて「二次性徴抑制療法は身長や骨形成に影響が見られる」との記述が追記されています。

また、AMAB(もしくはMtF、トランス女性)の「男性性機能に永続的な影響を及ぼす可能性が示唆」されています。(これは要するに、精子を作る機能に悪影響が出る、ということです。長期的に見て自身と血縁のある子供を持ちたいと希望したときに備えて凍結精子等を採取しておく、といった選択に影響が出ます。)

 一方で将来的に子供を希望しない当事者の場合、身体的な変化(例えば声変わりなど)は今後の生活において大いに影響するものでもあるため、そのあたりを含めて本人がどのように生きたいのかをきちんと設計し、またある意味で覚悟が必要なものではあります。

 詳しくは日本GI学会「性別不合に関する診断と治療のガイドライン 第5版」の記載を参照してください。


 また、二次性徴抑制療法はタナー段階Ⅳ(5段階中の4です)以降は性徴が進みきってしまっているためこの療法を二次性徴の遅延目的で受けることはできません。

 つまり、悪く言えば遅すぎても早すぎても使えない高額な薬です。

 一方で長所として、15歳以降に選択可能な『性ホルモン療法』を実施した際の副作用やストレスが軽減されるというメリットがあります。

 

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