44話目 小さな幼馴染とセ〇〇ス?

 目を覚ますと、愛が隣で寝ている。


 前にも同じことがあったな。


 その時は、僕が寝坊して学校に遅刻しかけた……。


 急いで立ち上がりながら、枕元に置いているスマホで時間を確認すると5時過ぎ。


 安心しつつ、愛を見る。


 愛の顔が少し赤い気がして、額に手を当てると熱い。


 体温計を取り出して愛の脇に挟むと38.9もある。


 急いで琴絵さんにスマホで連絡したけどでない。


 もう少ししてからもう1度連絡するとして、今は愛の看病をしよう。


 汗をかいたままにすると、体調が悪化するから愛の体を拭こう。


 1階の脱衣所に行きタオルを取り、それをお湯で濡らしてよく絞り自室に戻る。


 起こさないようにそっと愛の夏用の犬の着ぐるみパジャマのファスナーを下ろして脱がす。


 上下の下着の色は白で、純粋な愛に似合っている。


 愛は下着を見られるのは平気だけど裸を見られるのは恥ずかしがる。


 下着の上から丁寧に体を拭いていく。


 代わりのパジャマはないから、僕が中学の時に来ていた体操服を着させた。


 ぶかぶかだが何も着ないよりはましだろう。


 額に冷えピタンを張り、それと汗をかいている時は塩分と水分を補給できるようにポカリンスエットも用意してと。


 熱があっても愛は食欲があるから、起きた時に食べる用の梅粥を作りに1階に下りる。


 キッチンに行き炊けているご飯で梅干し入りのお粥を作る。


 お粥を載せたお盆を持って、部屋に戻ると気持ち良さそうに寝ている愛。


 その寝顔を見ていると眠たくなる。


 お盆を机の上に置き、目覚ましを30分後にセットして隣で横になり目を瞑る。


「らぶちゃんとこうくんがとうとうやったわ。急いでパパに連絡しないといけないわね」


 すぐに、聞き覚えのある声がする。


 目を開けると、目を輝かせている琴絵さんが僕達を見ながら耳にスマホを当てていた。



「パパ、らぶちゃんとこうちゃんがセ〇〇スしたの。間違いないわよ! だって、らぶちゃんのパジャマがベッドの近くに転がっていて、らぶちゃんがこうちゃんの中学のジャージを彼シャツみたいにぶかぶかに着ているのよ! これでしてないって言われても、ママは信じられないわ!」



 急いで立ち上がって、琴絵さんからスマホを奪う。



「琴絵さんが言っているようなことはしてませんよ」

『分かってるよ。ママのいつもの勘違いだよね』

「はい。そうです。朝目が覚めたららぶちゃんが隣で寝ていて、高熱で汗をかいていたから着替えさせただけです」

『朝から愛ちゃんとママが迷惑をかけてごめんね』



 さすが物分かりが良い利一さん。


 問題なのは。


「この時間市役所は開いているかしら。婚姻届けをもらいに行く前にこうちゃんの両親にこのことを話さないといけないわね。ママとしたことがうっかりしていたわ。それから、らぶちゃんとこうちゃんはセ〇〇スをしたから子どもが産まれてくる準備をしないと」


 さっきからテンションの高い琴絵さんの方。


「らぶちゃんが熱を出していて」

「2人の結婚式は和式と洋式だったらどっちがいいかしら。こうちゃんはどっちがいい?」

「どっちでもじゃなくて」

「そうね! どっちもするのもありね!」

「そうじゃなくて」

「心配しなくても大丈夫よ。結婚式はママ達がどうにかするから、お金のことは心配しなくていいわよ。もちろん2人の子どもにかかるお金も任せてほしいわ」

「琴絵さん、話を聞いてください」

「……」


 話を聞く気になったのか琴絵さんは黙って、僕の顔を見てすぐに口を開く。


「琴絵さんじゃなくてママでしょう!」


 それから琴絵さんは僕と愛の未来設計を語り始めた。


 時間はどれぐらい経ったのか分からない。


 僕と愛の子どもの名前を何にしようか話し始めた時に、利一さんがきてくれた。


「ママ帰るよ」

「まだ、話したりないからもうちょっと待ってほしいわ」

「帰ったらキスしてあげるから帰るよ」

「わかったわ! 先に帰って、お帰りのキスの準備をしておくわね。早く帰って綺麗に歯を磨ないといけないわ!」


 琴絵さんは小走りで帰って行く。


「ママと愛ちゃんが迷惑をかけてごめんね」


 利一さんが申し訳なさそうに言う。


「らぶちゃんは慣れてますけど、琴絵さんは慣れないですね」


 その言葉に利一さんは苦笑する。


 利一さんは寝ている愛を抱えようとするけど寝返りを打って避けられる。


 なんとんとか抱えることができたけど、手足をバタバタと動かして暴れたのでそっと下す。


「……」


 いつも冷静な利一さんだけど、娘に拒否されて悲しそうに項垂れた。


「パパなんでここにいるの?」


 目を覚ましたら愛が利一さんに聞く。


「愛ちゃんはは熱があるから今日は学校をお休みにするよ。家に帰ろう」

「嫌だ! こうちゃんとじゅんちゃんと学校に行くの!」


 愛が抱き着いてくる。


 その光景を利一さんが羨ましそうに見てきたからこの場所に居辛い。


「ここでらぶが我儘言ったら、優しい幸くんは困ってしまうよ」

「こうちゃんが困ってしまう?」

「そうだよ。愛ちゃんを学校に連れて行ってあげたいけど、愛ちゃんの体調が心配だからどうしたらいいか分からないって」


 利一さんは僕が思っていることを的確に言った。


「だから、幸くんを安心させるために家に帰ろう!」

「学校に行きたいけど、こうちゃんを困らせたくないから、学校は休むよ!」


 帰ったはずの琴絵さんがやってきた。


「ママの友達が事故にあったから今からその友達が運ばれた病院まで行ってくるわね」


 利一さんが返事をする前に琴絵さんは出て行く。


「今日大切な会議があって会社を休めないんだ……幸くん本当に頼みにくいんだけど、今日1日らぶのことを任せてもいいかな?」

「いいですよ」

「本当にごめん」


 頭を下げる利一さん。


「気にしなくていいので、頭を上げてください」

「ありがとう。らぶちゃんのことをお願いするよ」


 もう1度頭を下げてから、利一さんは部屋を出て行く。


 尊敬している人に頭を下げられると申し訳ない気分になるな。

 


★★★



 今の時間は8時を過ぎていて、いつもなら純の家についている時間。


 愛の看病のために休むと言えば、純も休むと言うだろう。


 急いで純を起こしに行かなくてもいいけど、一応学校に行くのか確認しよう。


 純の部屋に着き、体を何度か揺すると目を開いた。


「こうちゃんおはよう。らぶちゃんは?」

「らぶちゃんが38.9の熱を出したから、学校を休んで看病しようと思うけどじゅんちゃんはどうする?」

「私もらぶちゃんを看病する」


 純は勢いよく立ち上がり着替え始める。


 夏用猫の着ぐるみパジャマのチャックを引っ張って、上側の下着が見えた所で純の動きが止まる。


 僕に視線を向けた純はみるみる耳を赤くしていく。


「1階で待ってるね」



 部屋を出てリビングに行くと、純の父親の恭弥さんが不思議そうに僕を見ている。


 平日なのに制服ではなくTシャツとジーパンを着ているから。


「らぶちゃんが熱を出したんで、僕とじゅんちゃんは学校を休んで看病します」

「そうか」


 恭弥さんは立ち上がりキッチンに向かい、湯呑を渡してきた。


 その湯呑の中にはお湯が入っていて、生姜の匂いがした。


「らぶちゃんに飲ましてやれ」

「ありがとうございます」


 温かいまま愛に飲ましてあげたい。


 また後から純を迎えにくればいいだろうと思い、玄関で靴を履いているとジャージ姿の純が階段から下りてきた。


「どうした?」

「恭弥さんが生姜湯作ってくれたから、温かいうちにらぶちゃんに飲ましてあげたくて持っていこうとしていたんだよ」

「……」


 気まずそうに言葉に詰まらせた。


 恭弥さんの話題になると純は毎回こうなる。


 別に純は恭弥さんのことが嫌いではないと思う。


 ただ、純も恭弥さんも不器用で、親子の距離感が分からないだけ。


 僕達が小学生の時に死んだ純の母親こと小泉音暖のように、僕が2人の緩和剤のような存在になれたらいいんだけど上手くできていない。


 2人に仲良くなってほしい気持ちは確かにある。


 それ以上に、余計なことをして純に嫌われたくない気持ちの方が強くて行動するのに躊躇う。


「こうちゃん、らぶちゃんの所行こう」

「そうだね。らぶちゃんが起きているかもしれないから急いで行こう」


 他人の僕が家族の問題に口を出すのはややこしくするだけだと、心の中で言い訳しつつ純について行く。


 外に出ると愛の家の前でスーツを着た利一さんがいた。


 僕と純が挨拶をすると、「らぶのことをよろしく」と深々と頭を下げてから駅の方に向かって歩いていく。


 できる大人みたいで利一さんは本当に格好いい。


「……なんかいい匂いがするよ!」


 部屋に入ると、ゆっくりと体を起こしながら愛がそう言う。


「恭弥さんが生姜湯作ってくれたよ」

「生姜ぬ飲んだことないけど、生姜好きだよ!」

「生姜好きだったら、生姜湯も好きになれると思うよ」


 愛に湯呑を渡すと一気に飲み干して「美味しい!」と叫ぶ。


 飲み終わった湯呑を受け取ろうとすると、渡さずに「おかわり」と言ってきた。


 スマホで調べたら作り方は分かるけど、愛が美味しいと言った生姜湯を再現することはできない。


 味見をしておけば作れていたかもしれないと後悔。


 今から純の家に行けば恭弥さんは家にいるかも。


 純に愛のことを任せて、純の家に向かうと恭弥さんはいた。


 愛が生姜湯を美味しくておかわりしたいと言ったことを伝えると、少し頬を緩ませながら生姜湯を作り始めた。


 またおかわりをしたいと愛が言うことを考えて作り方も聞く。


 お湯にすりおろした生姜を入れるだけというシンプルな作り方。


 キッチンの上に蜂蜜が置かれていることに気がつく。


 恭弥さんは甘いものが苦手、愛が甘いものが苦手なことを気づいている。


 だとすれば、甘党の純のために用意したものだろう。


 恭弥さんの不器用な優しさが早く純に伝わればいいな。

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