5話目 幼馴染達のファンクラブ
1時間目の終わりを知らせるチャイムを聞いた瞬間、立ち上がる。
愛の様子を見に行くために保健室に行こうとしていると、廊下から10人くらいの女子がやってきて僕を囲む。
目力の強い女子が僕の方に1歩近づく。
「わたくしたちは王子様ファンクラブのものです。あなたに話がありますの。少し時間よろしいでしょうか?」
「何?」
「王子様に近づかないでほしいですわ」
「王子様ってじゅんちゃんのこと?」
校門で純が女子達にそう呼ばれていたのを思い出して聞いた。
「そうですが、わたくしたちの王子様にちゃんづけをしないでほしいですわ!」
周りにいた女子達が「そうです。そうです」と言いながら頷く。
「なんでじゅんちゃんをちゃんづけしたら駄目なの?」
「王子様にちゃん付けは似合わないからですわ」
「似合う似合わないは知らないけど、じゅんちゃん本人が嫌がってないからいいんじゃないかな」
「……それはそうですけど」
「王子様ってあだ名の方がじゅんちゃんは嫌そうにしていたよ。じゅんちゃんに聞いてみる? ちゃんづけと王子様って呼ばれるの、どっちが嫌か?」
「……」
「僕は今から聞きに行ってもいいよ」
「…………申し訳、ございません」
目力の強い女子はもっと自分の意見を押してくると思ったけど、言い返してくる所か後退る。
そして、鼻をすするように、今にも泣きそうに瞳を潤ませたというか泣いた。
「
「あたし達が鳳凰院さんの意思を受け継いで戦いますから、休んでいてください」
周りにいた女子が目力の強い女子を励まし始めた。
この間に抜け出そうとしたけど女子達に気づかれて囲まれる。
どれだけ純が格好いいか説明し始めた。
褒められるのとは気分がいい。
純は格好いいだけではなくて可愛い所があると話そうとしてると、休み時間が終わる。
2時間目の終わりを知らせるチャイムが鳴る。
今度こそ、保健室に行こうと廊下に出る。
10人ぐらいの男子がやってきて僕を囲む。
無視して通り過ぎようとするけど行き先を阻まれる。
「用事があって急いでいるからそこをどいて!」
強めに言うけど男子達は動こうとしない。
角刈りの髪型をした男子が目前にくる。
「俺達は、矢追たんファンクラブのものだ。即刻お前は矢追たんから離れろ!」
僕の話を無視して自分の意見だけを言う角刈り男子に苛つく。
「僕とらぶちゃんは好きで一緒にいるんだよ。他人がどうこう言うことではない」
「調子に乗るなよ! 矢追たんはお前のものじゃない! みんなのものだ! お前には少し痛い目を見てもらうことにしよう!」
一触即発の空気で今にでも男子達が殴ってきそう。
男子達の体つきがよくて、1対1でも勝てそうにない。
だから、戦うのではなくて、攻撃を避け続けることにした。
近づいてきた角刈り男子の拳を避けると、後ろにいた男子に当たり鈍い音がした。
「何でおれを殴るんだよ!」
「お前がそこにいたのが悪いんだろ! 俺は悪くない!」
「は⁉ ふざけんな! 意味わかんないこと言ってんじゃない!」
男子同士が服を摑みあって喧嘩して始めた。
その隙に保健室に向かおうとした。
「何をしている! お前ら!」
でも、騒ぎを聞きつけた体育の男の先生に捕まり僕と角刈り男子達は休み時間が終わるまで説教受けた。
3時間目の終わりを知らせるチャイムを聞いた瞬間、廊下の反対方向に走り窓から出る。
廊下から行けば、愛、純のファンクラブと会ってしまう確率が高いので、外から保健室に行くことにした。
反対側の校舎にある保健室に向かって走る。
「……じゅんちゃん」
「……らぶちゃん」
開いていた窓から保健室に入りベッドのカーテンを開くと、愛と純が寄り添うように寝て、寝言で互いの名前を口にしていた。
「……」
天使が2人いるよ。
天使だから人で数えるのはおかしいのか。
そんなのどうでもいいぐらい2人が超絶に可愛過ぎる。
僕は幼馴染達のマジ天使な寝顔をチャイムが鳴るまで眺め続けた。
昼休みになると愛、純のファンクラブの人達が入ってきた。
「逃がしませんわ」
窓から逃げようとしたら純のファンクラブの女子達に回り込まれて通せん坊された。
「逃げれると思うなよ」
出入口は愛ファンクラブの男子達がいるから逃げられない。
僕を中心にして、愛のファンクラブと純のファンクラブが対面に立ち、両者は僕のことを睨む。
「授業が終わったからといっても、はしゃぎすぎるなよ」
面倒ごとに巻き込まれたくないのか現国の先生は早足でその場を去る。
2つのファンクラブを合わせると20人以上いて教室が狭く感じる。
目力の強い女子が僕に向かって語気を強める。
「さっきの時間どうして教室にいなかったのですか? わたくしたちはあなたを探しましたわ」
「保健室に行ってたよ」
「怪我をしたんですの? それとも、病気にかかっているんですの?」
目力の強い女子の声音が少し優しくなる。
「僕じゃなくて、らぶちゃんが体調悪くて保健室で寝ているんだよ」
「矢追さんはいつも無駄に元気な人なのに、体調を崩すことがあるのですわね」
「バカにするな‼」
怒気を孕んだ声を出したのは幼馴染を馬鹿にされた僕ではなく、愛のファンクラブの髪が角刈りの男子。
「お前矢追たんを馬鹿にするな!」
角刈り男子は僕を通り越して、目力の強い女子の所に行き睨みつけた。
女子達は目力の強い女子を助けたいけど、体の大きい角刈り男子が怖くて黙っている。
「…………わ、わたくし、はまち、が、った、こと、いって、ませ、ん…………」
泣きながらも自分の意見を言う目力の強い女子。
でも、そのことを角刈り男子は気にせずに顔を目力の強女子に近づける。
「何が間違ってないんだ? 言ってみろ! 早く言え!」
「…………」
身動き1つもせずに目力の強い女子は固まる。
失神しているのかもしれない。
このまま、話を続けても状況がややこしくなる。
男子達にはこの場から去ってもらうために行動をしようとすると。
「……やおい、さんは、元気過ぎるから、怪我を、します。だから、無駄に、元気って、言い、ましたの」
目力の強い女子は震えた小さな声で言う。
「そうなんだよ。矢追たんは元気良いのは可愛い所なんだけど、元気過ぎて怪我をしてしまうのが本当に心配になるんだよ」
聞こえない箇所が結構あったけど、角刈りの男子にはそうではなかったらしい。
角刈り男子は険しかった表情を緩めた後、深々と目力の強い女子に向かって頭を下げる。
「すまん。俺の早とちりだった。許してくれ」
目力の強い女子はポケットからハンカチを取り出して、そのハンカチで涙を拭いて笑顔を見せる。
「大丈夫ですわ。気にしていませんから」
「そう言ってくれたら助かる」
全員の注意が僕から逸れているから、足音を立てずに教室を出ようとすると両肩に手の重みを感じた。
「わたくしの話はまだ終わってないですわ」
「俺の話はまだ終わってないぞ」
振り返ると、目力の強い女子と角刈り男子の手が乗っている。
角刈り男子の手は汗でぬるぬるしていて気持ち悪くてその手を払った。
「いってー⁉ 何すんだよ‼」
勢いよく払い過ぎたようで、今度は角刈り男子の怒りが僕に向く。
「人のこと殴ったんだから、殴られても文句ないよな!」
「急に肩を摑まれたからびっくりしたから不可抗力だよ」
角刈り男子の手が気持ち悪かったからなんて、素直に言えば火に油を注ぐようなもの。
それっぽく言い訳をする。
「うるせー! 殴らせろ!」
怒りは収まることなく、角刈り男子は僕の襟首を掴もうとしたので避ける。
何度も僕の服を掴もうとするが避け続けていると、頭に血が上った角刈り男子は近くの机に置いていた鋏を手にする。
「ちょこまかとうっとうしいんだよ! これでもくらえ!」
それを迷いもなく僕の方に振り下ろされ……『バン!』と教室のドアが急に開いて、音に驚いたのだろう、角刈り男子の動きが止まる。
教室にいた全ての生徒が音の鳴った方に視線を向けた。
そこには珍しく眉間に皺を寄せた愛が出入口で立っていた。
僕のクラスに愛が来る時は純がいつも一緒なのに今はいない。
視線を角刈り男子の方に向けると、純の後頭部が映る。
「いつの間に……ぐはっ!」
純の背中越しに角刈り男子の呻き声がした後、『バタン』と人が倒れる音が聞こえた。
今の状況を確認するために右にずれる。
角刈り男子は仰向けで倒れていて何が起こったのか分からないのか呆然としている。
「こうちゃんを傷つけたらしばく‼」
「ヒィ―――」
右目に殺意込めて角刈り男子を睨む。
角刈り男子は悲鳴を上げながら床に手をつけて立ち上がろうとしたけどすぐに尻餅をつく。
床に尻をつけた状態で後退り、人とぶつかる。
「こんな所で立つなよ。邪魔だろ。今すぐそこをど……」
文句を言いながら後ろを振り返った角刈り男子は固まった。
それもそのはず、角刈り男子が好きで好きでしょうがない愛が自分を険しい表情で見ているから。
角刈り男子の顔が青ざめ、愛に向かって土下座をした。
「すいませんでした!」
「らぶに謝らなくていいよ! ぶつかったのは全然痛くないから! でも、鋏を人に向けるのは駄目だよ!」
「すいませんでした!」
「らぶにじゃなくて、こうちゃんに謝って!」
「本当にすいませんでした」
僕の方を向き床に頭を擦りつけながら土下座をする角刈り男子。
「こうちゃんを殺そうとした。しばく!」
「じゅんちゃん、僕は大丈夫だから」
怒りが収まらない純が角刈り男子の所に行こうとしたから、後ろから両腕を掴んで止めようとするけど止まらない。
僕を引き摺りながらも、角刈り男子に近づいていく。
「しばく‼」
「じゅんちゃん落ち着いて」
「落ち着くなんてできない‼ こうちゃんを傷つける奴は全員ぼこぼこにしばく‼」
「じゅんちゃん!」
怒りに身を任せている純に向かって、大きな声で叫ぶ。
「……」
純が立ち止まる。
腕から手を放してその手をお腹に回し優しく抱きしめる。
「じゅんちゃんが僕のために怒ってくれているのは嬉しいけど、僕はどこも怪我をしていないから落ち着いて」
「…………」
「じゅんちゃん、僕のために怒ってくれてありがとう」
「……おう」
強ばっていた純の体から力が抜けたような気がした。
「お腹空いたな! 今日はじゅんちゃんの大好きな甘くてふわふわ卵焼きを焼いてきたから早く弁当食べよう」
そう言いながら、純から離れる。
自分の席に行って手提げ袋を持ち、空いた手で純の手を握る。
「今日は他の場所で食べよう」
手を引っぱると純は抵抗することなくついてきてくれた。
出入口に行くと、そこにいた愛が純の手を握り僕達は教室を出た。
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