第1話_E2089・部屋21
高校を卒業すると、俺らは全国に点在する地下の施設に閉じ込められる。
通称【箱】。皆がそう呼ぶので、正式名称はよく分からない。
ここに住まう人全員に部屋が割り当てられるのだが、残念なことに個室ではなく2人1部屋である。
部屋にはベッドにクローゼット、少しの収納が付いたテーブルとイスのセットが人数分の2つずつ。そこまで広くはない。
現在の時刻は朝の6時過ぎ。今日は嫌な夢を見てしまい特に早く目が覚めてしまっていた。
7時にならないと施設内の照明は点灯しないので、部屋の中は真っ暗だった。
「おー、優秀なんだなゼロって」
この前のテストの結果をイスに座ってぼんやりと眺めていると、いつの間にか起きていたサジに後ろから覗き込まれていたようであった。
「お前が馬鹿なだけだろ」
そう言うと俺は、端末の角を軽く2回叩いてスクリーンを消した。
「褒めてやったっていうのに、失礼な奴だなぁ」
…ああ、ずいぶん鬱陶しい奴と相部屋になってしまった。
同室のサジは、感情が希薄な俺らと同じとは思えないくらい、表情豊かでお喋り好きだ。だから、落ち着いた雰囲気のこの箱では、特に目立っている。
それから彼は、地上にいた頃に女々しい顔!と散々からかわれてきた俺と比べても、ずいぶん可愛らしい顔をしている。
が、可愛いと言われると凄く怒る。…まあ、嫌なのは分からないでもない。
「なあ、ゼロって高校に友達とかいなかったのか?」
サジはいつの間にか俺のベットに腰を掛けてつくろぎ始めていた。
「いない」
「…あー、ゼロは友達作らなさそうだもんなぁ。
じゃ、連絡先交換してる人とかもいない?」
「いない」
例え血が繋がった家族だろうと、地上の人間とコンタクトを取ることは禁止されている。
となると、俺が端末に追加している連絡先はそれこそサジくらいしかいない。
「というのも俺さ、人を探してるんだよね。少しでも手がかりが増えればと思って」
「誰を探してるんだ?」
「高校の頃の友達!…だったんだけど、すげーエリートで。俺が馬鹿だったから同じところに行けなかったんだ」
優秀な生徒が集められる箱があるらしいと噂には聞いていたが…。確か研究所のようなものが併設されていて、設備もすごく整っているらしい。
まあ、俺程度の学力では声がかかるなんてことは無かったが。
「なんだ、馬鹿って自称してるじゃん」
実際、ここで行われるテストは難しい。さっきは馬鹿だと冗談では言ったが、絶望的で救いようない馬鹿というわけではない。
その言葉にサジは不機嫌になるでもなく、笑った。
「ま、実際そうだからな」
表情がころころと変わって、見ているだけでも不思議な気持ちになる。
「直接そいつと連絡は取れないの?」
目が合う。サジはバツの悪そうな顔をした。
「そいつが行った箱って、機密情報が多いみたいでさ、駄目なんだって」
「へぇ。そうなんだ。
…それって、嫌われてた訳じゃなくて?」
サジは少しむっとして返す。
「別れる時に、会いに来て、絶対にだから…って言われたけど」
サジは友人の声真似でもしたのだろうか、台詞の箇所が変に高い声だった。
にしたってその台詞。何というか、
「恋人?」
「や、違う違う。俺らに恋愛感情なんて無いだろ」
ここぞとばかりに仲間ヅラをしてくる。
「お前ならあってもおかしくないけどな」
まあ、確かに。サジが誰かに恋しているなんてちょっと考えにくいところはある。
「俺も完璧って訳じゃあ無いんだ。」
サジは何故か満足気にうんうん頷いていた。
「しかし、連絡がついたところでどうやって会うんだ?」
サジはちょっと照れながら答える。
「どうにかここを出ようと思ってるんだ、具体的に考え付いてる訳じゃないけどな」
…考えたことが無かった。俺は、この施設の中で一生暮らしていくものだと思っていたから。
「ゼロ、お前も来るか?」
多分、冗談で言ったんだろう。でも、
「そうだな、行こうかな」
「ありゃ、マジかよ」
脳裏に焼き付いている、血と、笑顔。
「俺も会いたい人がいる」
会いたいというのは必ずしもポジティブな理由ではない。
正直思い出したくもない記憶だが、それはたまに悪夢になって襲い掛かってくる。
どういう形になろうと、きっといつかは決着を付けないといけない。
「へぇー、意外だな。まあ、計画はもう少し情報を把握して整理できてからだけど。
その時はゼロも手伝ってくれよ、…なんせ、俺は馬鹿だからな」
そう言うとサジは勢いよく立ち上がって、クローゼットのほうへ歩き始めた。
少しぼんやりとしてから、俺も続いて着替えをするために立ち上がった。
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