第8話 -8- 由鬼那 vs 杉本
リングに向かってくる由鬼那に慌てた杉本。
「ちょ、由鬼那さん、違うんです!ちょっと待って下さい!」
杉本はリングから降りて由鬼那の元に駆け寄ろうとした。
「そこにいろ」
低く、野太くしわがれた声で
ぼそりとつぶやくように由鬼那が言った。
リングを降りようとしていた杉本がピタッと止まる。
ダメだ、ブチ切れてる。
こうなったらもう何をやっても無駄だ。
とりあえずここで大人しくしておく他はない。
杉本はリングに降りるのをやめて、
ロープのそばで直立不動になった。
道場の入り口に近い側のロープ際に杉本、
反対のリング奥側のロープ際に及川がいる。
二人が無言で見つめる中、
由鬼那は松葉杖をその場で放り出し
骨折している側の足をリングにかけ
三段目のロープをぐいっと掴み
のっそりとリングに上った。
リングに上ってすぐ、杉本を睨みつけると
すぐ横で直立不動になっている杉本の腹を
ギブスと包帯を巻いた骨折している右足の膝で蹴り上げた。
杉本は、ぐはっ、といいながら崩れ落ち
リングに両手と両膝をついた。
崩れ落ちた勢いで
杉本の鼻血が再開し、リングに血が滴る。
なおも由鬼那は無抵抗の杉本を攻め続ける。
右手で杉本の髪を掴み上に引っ張り上げると
杉本は膝立ちの状態になった。
杉本の横っ面に由鬼那の左エルボーがまともに入る。
杉本はリングに崩れ落ちた。
よそ者を勝手にリングに上げて
好き勝手に試合をしたら
最悪の場合、死ぬかもしれない。
死ななかったとしても
自分のように首を痛めて
長期のリハビリになるという事も
十分ありえる。
いきさつはこの際後回しだ。
こいつには今しっかりと心と身体に
教えておく必要がある。
なぜリングは神聖でなければならないのか。
リングに上がるということがどういう事か。
女子プロレスラーに限った話しじゃない。
リングは命をかけて戦う場所だ。
適当にあがっていい場所じゃない。
あれほど言っても、あれほど身体に教えても
お前はまだわからないのか。
崩れ落ちて仰向けになっている杉本の脇腹を
ギブスをした右足で容赦なく蹴り続ける。
杉本がたまらず丸まる。
そこから何度も何度も蹴られ続ける。
くそう。
なんでこんな事になっているんだ。
杉本も、そして由鬼那も、そう思っていた。
その時、
及川が杉本に声をかけた。
「おい、杉本」
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