第3話 及川 vs 杉本 2



なんだ。



なんなんだ。



何が起きてる。



なんだこいつは。



「ふぉいふぉまをまえら!こいてぅをたたっだす!」


(おい、おまえらこいつを叩き出せ!)



杉本は両手で鼻を押さえながら


リング脇にいる練習生に大声で怒鳴った。



杉本に言われたのだから行かねばならないと


頭では理解していても


あまりの出来事に、足がすくんで誰も動けない。



練習生達は少しづつ


じりじりと及川を取り囲んでいく。


及川はそんな事は気にもかけず


道場をぐるっと見渡し、


血だらけで横たわる杉本に


「あれ、もしかして選手お前だけ?」


と、まるで友達かのような物言いで


杉本に問いかけた。



杉本は下から及川を睨みつけた。



“くっ”



だめだ。



ここにいる連中全員でかかっても



こいつに勝てねえ。



杉本は今までの喧嘩の経験から


力の差をすぐに理解した。



及川はつかつかと杉本に近づきしゃがみ込む。



また息がかかるほど十分に顔を近づく。



「リング上がれよ。教えてやるよ、プロレス」



杉本の目を見ながらそう言った及川の顔は


笑顔だったが


その真剣な眼差しは


恐ろしいほどの熱を放ち、


そして何もかも吸い込んでしまいそうなほど


透明だった。



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