第2話 及川 vs 杉本 1



息のかかるほどの距離で


下から見上げる杉本。



上から見下ろす及川。



身長差はゆうに30cmはあった。



杉本は及川の目を見据えてじっと見た。



全く動じていない。



このでかい女は


不躾に他所の敷居を勝手に跨いでおいて


何の反省の弁もなく、その上悪びれてすらいない。



その態度に無性に腹が立った。



杉本が軽く啖呵を切った。



「おねーちゃん、かわいいね。入門希望?」



年はどちらが上かわからないほど


二人とも幼い顔つきだった。



実際及川は整った顔立ちをしていた。


かわいくもありきれいでもある。



杉本も顔立ちは悪くないが


長年のワルが染み付いた、


一見してワルだとわかる顔をしている。



身長が高い事も癪だが


こいつの顔立ちも気に入らない。


そんな心持ちが


すぐ素直に顔に出てしまうのが


杉本だった。


その様子を見て


かわいらしいなと思った及川は


黙って杉本を見下ろしながら


口に笑みを浮かべた。



「あ?何笑ってんだてめえ!」



言うのと同時に杉本の右手がぬっと出て


及川の左の乳房を鷲掴みにした。



「このデケエチチひねりちぎんぞごらぁ!」


そう言って杉本は


及川の目を睨みつけながら


思い切り力を込めて


乳房を握り押しつぶすように締め上げた。


今まではこれで大抵の女は怯んだ。


しかし今回はそうではなかった。


杉本が乳房を掴んだ右手に力を加えた瞬間、


及川は頭を杉本の鼻めがけて振り下ろした。



予備動作が全くわからないほど速い動きだった。


「ぬはんっ」



及川の頭が杉本の鼻にめり込み


杉本の鼻は一瞬で砕け、


両の鼻の穴から鮮血を放ちながら


杉本は後方に吹き飛んだ。



飛び散る鮮血とともに体が吹き飛ぶ中、


意識まで吹き飛びそうな激しい痛みが


顔面に広がる。



咄嗟に両手を顔にやったため受け身が取れず


背中からばたんと音を立てて倒れ込んだ。


鼻から噴き出る止まらない血が


両手から腕に伝わり


さらに両肘からぼたぼたと足元の床へ落ちる。



背中も顔も痛い。


しかしそれよりも今


自分の口から出た、


今まで聞いたことのないような


子犬のような少女のような声が


恥ずかしくてたまらなかった。

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