第8話 二年目の春
何度目か分からない緊急事態宣言が発令され、大学は五月から休校になった。図書館も再び利用できなくなると、修論が書き進められない。文献調査は、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧できる本を読み漁った。先が見えない不安で精神は急降下する。
一方、雪乃は社会人二年目の試練にぶつかっていた。
「仕事がきついよぅ。後輩が入ってこないから人手不足なの。パートさんは別の階に配属されるし」
いいじゃん、スキルアップできていて。大変だからこそ、成長できていることもあるんじゃないかな。口に出しかけた心の声を、喉元に閉じ込めた。彼女にやつあたりしても仕方がないと分かっているのに。
大学院で履修した教職の講義は、新しい知識が身に付いている感覚を得られなかった。提出を求められるのは、動画を見た感想、動画をきちんと見ているか確認するためのレポート。対面授業であれば必要ない課題の山が恨めしい。
忙しそうにしていても、利用者と会話できる雪乃が羨ましかった。介護等体験で行った特別支援学校では、感染対策で生徒との交流はゼロだった。現場の声を知らないまま、秋の教育実習に行くことは不安でしかない。
そんなとき、連絡をくれたのが月草さんだった。四年前から交流のある、ネット上の知り合い。趣味の創作について意見をくれる、頼れるお兄さんだった。同じ夢を追う、同志でありライバルだと感じていた。親近感はあれど、恋愛感情はなかったはずだった。
なのに七つ年上の彼の言葉は甘く響き、気付けば電話の誘いを受け入れていた。
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