第5話 お揃い

 付き合って三ヵ月記念日は、お揃いのものをあげたかった。大学の卒業式まで、残り二ヶ月。雪乃は就職、私は大学院に進学予定だった。環境が変わって疎遠にならないよう、そばにいなくても安心できるものを贈ろうと思った。


 ペアネックレスなら、普段使いできていいかも。

 いくつかの店を巡り、雪乃に似合いそうなデザインを探した。


 オニキスとダイヤモンドの色違い。ステンレスでできた月に、ジルコニアの星。


 カップル向けの商品だからか、ユニセックスのデザインは少ない。ブルーとピンク、黒と赤。ごついチェーンも気になる。


 雪乃は傘の柄を壊してしまうほど握力が強い。耐久性はほしいものの、男物のチェーンに違和感を覚えた。付け替えは有料だろうか。腕組みをしていると、横から店員が話し掛けた。


「ペアネックレスをお探しですか? 先ほどから真剣に見られているので」

「はい。か……」


 彼女という言葉が紡げなかった。


「彼氏とお揃いにしたくて」

「こちらの商品はいかがでしょう。カップルに一番人気なんですよ」


 二つ合わせるとハートマークが浮かぶ定番商品だ。可愛いデザインに憧れるが、ピンクゴールドはお互いの好みではなかった。やんわりと断り、店内の奥に進む。


 似たデザインがあれば、お揃いにできる。数ある天然石の中から、雪乃と共有したいものを選んだ。

 ブルームーンストーンのペンダントトップ。白く濁った石は、光が当たると青白い輝きを放つ。大切な人の危険を察知し、危険を回避してくれる効果を持っていた。


「恋愛成就と、家庭運も期待できるみたいだよ」


 渡すときに石の説明をすると、雪乃の耳は真っ赤になる。


「嬉しい。大切にするね」

 

 私より少しだけ粒の大きい石を撫でていた。

 小箱を開けたときは無言だったため、気に入らないのだと思った。どんな表情をしたらいいか分からないほど、驚きと感動が混同したらしい。


 紛らわしいけど愛おしい。私も自分のペンダントを撫でる。


「それで、いくらしたん?」

「忘れちゃった」

「慧さん、正直におっしゃい」


 目が笑っていない。私は観念した。材質はシルバーだから、ごにょごにょ……


「高っ。学生が出す価格じゃないよ」

「どうせ諭吉さんが飛ぶのなら、チェーンで妥協したくないもん」


 私が反論すると、雪乃は強硬手段に出た。


「雪乃、レシート取らないで!」

「だーめ。夕食は私が払う。お昼はしぶしぶ割り勘にしたんだからね。こういうときにバイト代を使いたいの」


 流れるような所作でレジに向かう雪乃。椅子に置き忘れているスマホと自分の荷物を取り、彼女を追い掛けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る