第7話 小川のせせらぎ
体育祭当日。最後の見せ場、部活対抗リレーだ。第1レースはノリノリだが歳は隠せない小川校長の走りを陸上部のリレー精鋭達がカバーし1位であった。仲の悪いバスケ部とバレー部が2位争いを繰り広げる中、硬式野球部がバットを担いで抜いていく。サッカー部は普段手を使わないせいか、ボールパスに失敗し、ラケットをバトンにするテニス部に抜かされて番狂わせのビリであった。
第2レースは卓球部が格好的には速いはずだが、裸足に慣れず、悲鳴をあげながらラケットを握りのろのろと走っていく。そこを中にプチプチを詰め軽量化した山岳リュックをバトン替わりに背負って山岳部が走る。意外に速いのは柔道部だ。優勝トロフィーを振り回しながら走っていて宣伝効果バッチリだ。水泳部は割れた腹筋を惜しげもなく晒しながら海パンに水泳帽で走るがバトン替わりのゴーグルの付け外しに苦労していた。剣道部は弓道部との差を出すための胴が走りにくい。今年の弓道部は足袋がユニフォームだと主張したが、山岳部と卓球部から睨まれ脱いでいた。さすがトロフィー。1位は柔道部で剣道部は山岳部の次の3位に入り込んだ。
次は智世ちゃんの第3レースではないか。ドヨメキが上がり、慌てて目を向けると美術部の第1走者に制服の上にメイドエプロンを着て額縁を担いだ智世ちゃんがすらりと立っていた。しかもコンタクトじゃないか!美人が丸見えで、メイドエプロンが似合いすぎて、頭に白いフリフリがっ…萌える。吹部はバトンがわりのトランペットで必◯仕事人を吹き始め、棋道部は盤を小脇に抱え、文芸部は部誌を見せびらかしている。スタートした。智世ちゃんが意外に速い。文化部の中では足速いのではないか。ひらりひらりとエプロンをはためかせながら長い足で走っていた。茶道部は浴衣の前がはだけるのが気になるらしく遅れ気味だ。白衣の科学部は塩酸のガロン瓶を持って走っている。おい、中身は空だろうな。やはり人数が多い吹奏楽部に足の速いのが潜りこんでいたらしく1位で、2位文芸部、3位美術部。同じ3位で嬉しい。てか、智世ちゃん、早くメガネに戻って欲しい。
アピール賞はなんと美術部がとった。アンカーの男子部長のメイドエプロン姿が喝采を浴び、かつ部員全員で仕上げたという額縁の絵が小川校長の肖像画(ピカソ風)でプレゼントされた校長がさっさと決めてしまったらしい。賄賂作戦、来年は激化するかもしれない。
帰り道、智世ちゃんがコンタクトだった。
「今日初めてコンタクト見たんだけど。」
「体育の時はコンタクトにするようにしました。メガネ壊したくないんで。清水先輩は剣道の時どうしてるんですか?」
「俺はね、メガネ外してるだけ。まだ視力検査の1番上裸眼で見えるから剣道の試合くらいは大丈夫。」
今日は一斉下校だから桜田姉も一緒かと思ったが見当たらない。
「桜田姉はどうしたの?今日は一緒かと思ったのに。」
聞くと嫌そうな顔をした。
「姉は友達と寄るところあるって言ってました。それより姉がこんな物送ってきたんですけど。」
スマホの画面を見せてきた。それは道着姿の俺と桜田姉のツーショットだ。
「あーそれ、智世ちゃんが俺の道着姿見れないって言ってたから桜田姉に撮って送ってって頼んだ。」
「いりませんよ。こんなの。それよりいつ許しました?名前呼び。」
酷く御立腹だ。思わず出た名前呼びへの注意もキツイ。しかもいらないとか。
「本当は智世ちゃんのメイドエプロン姿と一緒に撮りたかったんだけど。しかも智世ちゃん、遠くからしか撮れないし。」
「下の名前3回も呼んだ上に盗撮自供?こうしてやる。」
ピロリンとスマホが鳴って智世ちゃんから写真が送られてきた。
画面にはメイドエプロンの智世ちゃんと陸上部、柔道部、吹奏楽部の代表達が賞状とともに写っていた。
「表彰式の写真です。部長が無理に走って腰を痛めちゃったので私が代わりに。心が広いので差し上げます。」
「これ、なんで智世ちゃんの隣、柔道部なの?近くない?」
俺は食い気味に文句を言った。いつも剣道部を邪険にする柔道部部長が智世ちゃんの隣で、肩が触れてない?
フッと笑った智世ちゃんは
「分かればいいんです。」
と言った。
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