第21話 7-2
回想。
俺は見てしまった。
逃げていく犯人だろう男が誰なのか?
ーー俺は一体どーしたらいーのだろうか?
警察に通報する。
市民の義務だーーだが、昔から付き合いのあるやつを売ることになってしまう。
一晩考えた。
しかし、いい答えは出てこなかった。
共犯者になる代わりに、友達を売れないーー俺にメリットはない。
売らない代償を何かで得なくてはーー。危険なだけだ。
何もしてないのに、その場にいなかったのに、俺だけが犠牲になるかも知れないーーそんな恐怖が俺の心を支配した。
「あんなもの、受け取らなければ良かった」
翌日。
健吾は昼過ぎにようやく目を覚ます。
ーー昨日はあまり熟睡する事が出来なかった。
俺は太郎に電話をする。
「もしもし?」
明らかに嫌そうな声で電話に出ると太郎は言った。
「俺だけど。やっぱり俺は共犯じゃねーだろ?ーーお前、おかしいよ」
いきなりそんな想いを伝える。
「なんの事だ?」
「しらばっくれるつもりなのか?ーーじゃ、警察に」
はぁ。
太郎の深いため息が、受話器の向こうから響いてくる。
「わかったよ。どーしたらいーんだ?」
「俺は何もしてない。お前が逃げるところを見ただけだーーそれなのに、お前に共犯だと言われている」
「そうだな、、」
「共犯だというなら、金だ。100万用意しろ。それで秘密を共有してやる」
健吾の声が震えている。
生まれてこの方、人を脅迫なんてしたこともないし、脅迫された事もない。
臆病になる。
「百万?ーーそれで共犯になってくれるんだな」
太郎は言った。
「いいだろう」
健吾は頷く。
ーーとりあえず、はな。
「わかった。払おう!」
太郎は簡単に頷いた。健吾はあまりにも簡単に払うと言われて驚きのあまり、目をパチパチさせている。
瞬きが増えている。
その日。家に帰ると健吾は、無意識に今日1日を振り替えっていた。
太郎にはそんなお金はないように見えたのに、なぜ彼は簡単に払うなどと言えたのだろう?
翌朝。
健吾にとっても、寝た気がしない朝だった。
ーー太郎に、現金を要求した事で、俺も犯罪者か。
これまで真面目に生きてきたはずの俺自身が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのが、わかる気がした。
「俺、これから一体どーなるんだろう?」
太郎を脅迫した事で俺も犯罪者になり、見逃すだけで、済ませておけば良かったと今更ながらに後悔する。
悪事を働けば、必ず自分にも帰ってくるだろう。わかっているが、共犯者でもないのに、共犯者にされたんではたまらないーー。
俺は、、俺は、、。
自問自答の日々が始まる。
太郎に脅迫行為をしてから、早いもので一週間程度の時間が過ぎている。
一本の電話がなった。
「もしもし?俺だけど」
その声は太郎だ。
「あぁ、どうしたんだ?」
心の通わない上辺だけのトーク。
「今日払うよ。金」
重すぎる沈黙が流れる。
ーーどうやら、太郎は本当に俺を共犯者にしたいらしい。
「ーーどこへ行けばいい?」
「この前の喫茶店で」
「わかった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます