Sex after marriage～既婚男女のその後～

第8話良い夫婦関係

松本伊予さんの夫であるタレントのヒロミさんが言っていた。夫婦円満の秘訣は「仲良しごっこすること」。おしどり夫婦に対してよく投げかけられる質問が良好な結婚生活維持の秘訣は何かというものだ。私もつい最近ヒロミさんの回答に共感できた気がした。でも、ちょっと前まではその意味するところが何なのかよくわからなかった。長い夫婦生活の道のりをどう歩んでいくか。もちろん各々の夫婦で違いはあるだろうが、いかに平穏無事に進んでいけるかということが気になる人が多いのは事実だろう。

「離婚」の二文字。おそらく多くの夫婦が一度は頭をよぎると思う。結婚があれば離婚もある。離婚すればまた結婚もできる。今は本当に自由になった。私の周りにも３回結婚している人もいれば、子どもが巣立ったのでシングルに戻り、彼氏と楽しくやっている人もいる。ただ、ここジャパンにはまだまだ女性が一人で子どもを食べさせていくための社会的支援が充実していない。そこが実際には自由を妨げる障壁だ。離婚も紙一枚で簡単にできたとて、そこから先の生活ベース構築にはお札が何枚あっても不安ないくらいだ。よって、障壁の前で断念し、しぶしぶ元の巣穴へと戻っていく小動物のような女性たちは多いと思われる。

性格の不一致。離婚理由として常に上位にランキングされるものである。一緒に生活していて、とにかくお互い合わないことが多いからだ。でも、よく考えてみればそんなことは当たり前で、相手が誰であろうと回避できないことであるはずだ。なぜなら、一人として同じ性格のものはいないし、生物学的にも似た要素をもつ個体同士は交わりにくいからだ。進化の過程上、異なる遺伝子をもつもの同士が子孫を残すようにインプットされている。後々の環境変化に適応するためには、似たような遺伝子ばかり持っていても生き残れる確率が低くなるからだ。つまり、結婚する夫婦というのは性格真逆で合わないことだらけの可能性が極めて高く、一緒に生活するには試練と困難がつきものというわけだ。

これに加えて、先述にも示したように、男女間では大きな違いがある。性格が違うわ、本能的に考え方や表現する感情は違うわなわけで、男女ともそこから受ける精神的苦痛は計り知れない。そこをいかに改善するか、ひいてはポジティブな要素に導いていけるのかに、興味がわくのは当然だろう。ここで物理的な解決策として、家事の分担を明確にするとか、一人の時間をお互いに作るなどといった方法が挙げられる。これはこれで大いに有効であるが、そればかりに目を向けていると男女の愛から少し離れすぎてくるように思う。もはや仕事上の作業工程が提示され、一日一日をやっつけ仕事のようにこなすなかで、なるべく波風立たないように生活していくだけのようになるのではないか。

一方で、精神的な解決策としてヒロミさんの言う「仲良しごっこ」が挙げられるのかもしれない。ここからは私のヒロミさんの回答に対する個人的推測と解釈になってしまうが、簡単に言えば良い夫婦を演じるということだ。言葉の通り「ごっこ」をするということは、夫役・父役、妻役・母役を割り振って夫婦である男女がそれぞれを演じるのだ。いわゆる仲良し夫婦の象徴とされる「いってきます・いってらっしゃいのキス」やスキンシップの抱擁などが含まれており、いわば恋人同士のいちゃつきに近いものと、肉体関係そのものも含んだ行いを意図的に実行するのだ。抱擁をすれば幸せホルモンの一種であるオキシトシンが出される。体の仕組みからしてもその効果はある。幸せを感じれば夫婦関係も良好だろう。つまり、頭で抱き締めたいくらい好きというような感情がなくとも、抱き締めるという行為をすることで幸せを感じ、好きという感情が後からついてくるというイメージだ。幸福を感じられれば精神的にも安定し、離婚届けからは遠ざかっていく。

私は正にこの理論を実体験したんだと思う。この10年近く「何でこの人と結婚しちゃったんだろう」と思わなかったときは少ない。今でも頭の隅にその疑問はあり、夫婦喧嘩勃発の際には必ずといっていいほど浮上してくる。冷静になって考えれば、自分の性格や価値観に合う人がどういう人かとうことは既に明白であり、今の夫はそれと似ても似つかない人物なのだから、自然と気持ちは離れていく。でも、「仲良しごっこの理論」を実践してみると気持ちが不思議と落ち着くことが多くなった。結婚も長くなれば、恋愛の情熱的な相手を慕う気持ちが薄れていく一方で、よく知りすぎたが故に嫌悪する気持ちも出てくる。そこで止まってしまった仲良しスキンシップを、少しおかしいと感じるかもしれないが、意図的に機会を作ってやってみると効果が得られる。大人の私たちが穏やかに、優しい気持ちで夫婦生活を維持できる「恋の魔力」に代わる新しい魔法がそこにはあるのかもしれない。