第3話ネガティブ派・中立派

婚外恋愛=不倫=社会的違反。大多数がこんな考えなのか。いや、不倫はよくないこと、と刷り込まれているのは人間が社会性ある生き物だかららしい。社会規範として既婚者が配偶者以外の者と恋人のように親しくすることは悪だとされている以上、その規律を乱すものは自然となんらかの非難をうけるようになっているらしい。餌を取った取られたで騒いでいるカラスなどが私たちと同じ社会性のある生き物であり、鯉はそうでないものの例らしい。確かに投げ入れられた餌を奪われたからといって、取られた鯉が取った方の鯉を追っかけ回す様子を見た記憶はない。

したがって、不倫を悪とするのは社会性のある私たちの世界では自然な流れだが、こんなふうに不倫を捉えている人もいるようだ。

「不倫するくらいつらい生活を送っているのね」

これには私も驚いた。不倫する人=可哀想な人(不幸な人)。その発想はそれまで全くなかった。でも、家庭生活がつらいとか、不満だからというだけで社会的非難を受けるかもしれないような危険な道を行くのかと考えると少し疑問が残る。そういう発言をする人は、可哀想よばわりして、不倫経験者をばかにしているのかとも思えなくはない。不倫を悪だと決めつけるベースがあるからゆえに出てくる発想なのだろうか。

私もどちらかと言えばネガティブに傾いていた。夫の周りの世話や子ども関係のこと、近所・親戚付き合いなど、妻が主導となって動かざるを得ない状況が多い中、夫はその恩恵を受けていることを軽んじて家族との時間をないがしろにして他の女性と遊ぶなんてもっての他だと思っていた。でも、自分が結婚生活という縛りの中で苦しみに耐える状況が続いたときの救い、楽しみの一つとしての手段がそれであったら…と考えると、その価値観はぶれ始めた。何も如何わしいことばかりではないはず。お互いに励まし、励まされる関係であれば…安定した家庭生活を保つためのモチベーションになるなら…といった、正当な理由を自らもってのことなら必ずしもネガティブオンリーにはならないはず。いずれにせよ、グレーな部分が多い世の中では白と黒には分けられない。よって、私は今その中立派の立場にいるにすぎない。

有名な心理カウンセラーの心屋仁之助さんは、不倫は悪いことではなく、された側の感情に目を向けることが大事だと説いている。された側がつらかった、悲しかった、苦しかったなどと感じたことを振り返ることが大事なんだそうだ。不倫された側が本当に自分は愛されていなかったのか、自分が相手に与えていた愛情は十分だったのか、などといったことを振り返ることも必要だという。つまり、不倫という事態が発覚したことにより、された側にはネガティブな感情が芽生える一方で、それまでのお互いの関係を見直すきっかけにもなり得るのだ。そこから、それまでにはなかった新しい風が夫婦の間に吹く可能性がないともいえない。そんな意味で捉えれば、こちらも善悪判断しがたい中立的な見解なのかもしれない。

不倫といえばマイナスイメージが大きくても、婚外恋愛と表現すればなんだか花が咲いたようなあたたかい気持ちになれるのは私だけだろうか。それはひょっとすると、見る人によって可憐で美しい花でもあり、魅惑的で謎めいた花でもあり、真っ黒で異臭を放つような花でもあるのかもしれない。

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