第5話 シレバミライウラナウミライ

 人生最初で最後であろうサインを書き、サブさんに渡すと屋敷の中へと入っていく。

 中に入るとまるで老舗の高級旅館にきたのではないかと思うほどの内装に緊張してくる。高そうな壺に著名な人物が書いたであろう掛け軸など、少しでも触れて何かあったらと考えると恐ろしい。



「 そんなに緊張しなくていいよ 自分の家みたいにリラックスしてよ 」



 部屋に向かっている長い廊下を歩きながらそう言ってくれるが、あの二人の存在やごく一般の感覚ではない家構えに緊張しないほうが無理があると思った。



「 はは、色々と凄い家だね 」



「 そうかな? 少し散らかってるけどどうぞ 」



 部屋に着いたはるこさんが扉を開けると俺は妙な親近感を覚えた。

 全然散らかってないしむしろかなり綺麗に整理整頓されている。めいぐるみや男が想像するであろう女子らしい小物が置かれており、正にザ・女子の部屋という感じだ。というよりも俺が妄想した部屋そのままだった。



「 とりあえず適当に座っていいよ 」



 俺は小さなテーブルの横にちょこんと座り、ふぅと一息吐いた。この部屋に来るまでに色々と気になることが増えてしまったので、何から話そうか迷っていた。



「 改めて自己紹介からしようか 」



 はるこさんはそう言いながら、部屋の机の引き出しから名刺サイズの紙を一枚取り出し俺の前のテーブルに置いた。


 鳳凰院 覇流琥


 と難しい漢字が書いてあった。



「 これは? 」



「 ほうおういん はるこ 私の名前だよ 」



 めちゃくちゃ厳つい名前に動揺したが、この家柄ならありえなくもないのかと妙に納得してしまった。



「 へー漢字だと画数多いんだね 」



 こんな返しでいいのだろうかと思ったが何か言わないといけない空気に負けてしまった。



「 もっと驚くと思ったんだけどな 」



「 いや、正直すごい名前だとは思ったよ

 俺なんか 花井夏緒はないなつおって普通な感じだし 」



「 そういうことじゃなくてー 」



 どういうこと??もしかしてはるこさんの渾身のギャグだったのか。わざわざ名刺のように書いて仕込んであったという。色々あって忘れていたが、最初のノリから考えると、、、



「 これ観てよ 」



 スッと俺の前にスマホを差し出してきた。そこには動画が再生されている。


『 謎の天才占い師 鳳凰院 覇流琥 に迫る 』


 その動画によると近年ネット上に現れ、色々なジャンルを予言しすべて的中しているというのだ。今ネット上で解っているとされていることは、鳳凰院 覇流琥という名前と占いという手法で予言をしていることの二点だけだという。



「 マジで?その人がはるこさん? 」



「 マジで本人だよ

 検索すればめっちゃでるよ 」



 ピースをしながらはるこさんは笑った。


 俺は自分のスマホで検索をすると大量の予言とその結果や、正体を考察するサイトなど社会現象にもなっているほどの人物だということがわかった。

 野球漬けだった俺は全くそのことを知らなかった。



「 でも本名がわかってたら特定されちゃうんじゃないのか? 」



 鳳凰院覇流琥なんて名前のクラスメイトがいたらそれだけで目立つと思うが。

 俺はクラスが違うし、まわりがはるこちゃんやはるちゃんと呼んでいたので自然と名前で覚えていたので名字までは知らなかったが。



「 正確にいうとこの名前は私の家に代々伝わる屋号みたいなもので、それを私が襲名したの それにこのことは私達の家系だけしか知らないことで知られてもいけないことなの 」



 今日は未来人の登場から始まり、時の人である謎の天才占い師まで出てくるのか、、、


 コンコンっ

「 お茶をお持ちしました 」


 それに加えて俺のファンの厳ついおっさんまでいたんだった。



「 ありがとうございます 」



 高そうな湯飲みに高級そうな和菓子を持ってきてくれたのは俺のファンだという、確かサブさん。



「 なつおさんのは、特別渋くしときやした 」



 サブさんはそれだけ言うとさっと部屋を出ていった。お茶の知識は全くないが、渋いのはいいことなのだろうか。きっといいことに違いないと思うことにした。


「 普段の名前は水上晴子みなかみはるこだよ

 改めてよろしくね 」


 ここまで徹底されたキャラ作りだともう乗っかるしかないよな。仮に本当だとしても俺には何もリスクはない。よな、、、


「 はるこさんの占いってすごいんだね! 俺も占って欲しいなーって思ったり、、、なんて駄目だよね、、ははは 」


「 一億円 」


「 えっ? 」


「 個人的な占いは一億円って先代からずっと決まってるの 」


 少し、いやなかなか今のはイラっとした。そういうおふざけな感じなのかと思い、インチキを暴いてやるという気持ちになりかけたが、はるこさんの表情は真実味というか凄みがあり、本当に一億円を払わないと占って貰えないという感覚が伝わってきた。むしろ一億円を貰って占ったことがあるとも感じられた。


「 一億円、、、千円分でもいいかな? 」


 今の俺の精一杯の返しだったが、はるこさんはぴくりとも表情を変えなかった。




「 大丈夫だよ なつおくんは一億円払えるから占ってあげるよ 」



 その発言の真意をどう受け止めればいいのかわからなかった。

 一口お茶を飲むとあまりの渋さにぎゅっと眼を閉じた。








 俺の視点で、はるこさんに一億円を渡している映像が鮮明に視えた。


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