第4話 シロウミライシレバミライ
空が明るい。これは俺の心情を現しているのでは無く、現実に明るいのだ。
確かにさっきはまわりが暗くなっていて、、、
ポケットからスマホを取り出し時間を確認する。
16時32分
放課後に屋上と言われ、確か16時ぐらいにはここにいた。体感の時間と実際の時間に大きなズレはなく、むしろ暗くなってるのに気づいたときに日が暮れるのがだいぶ早くなったと思ったぐらいだ。
ゲリラ豪雨のような雨雲に日が遮られでもしていたのか?
「あれ、さっきすごく暗くなかったっけ?」
万が一にも自分がそう思い込んでいただけなのではとも思い、問いかけてみた。
「そうだね、暗かったよね それよりもさっきも言ったけど見回りのひとが来ちゃうから続きはうちで話そうよ」
俺だけが感じていた訳ではないことだとわかったが、納得できる答えが返ってきたわけではなかった。それにはるこさんがそこまで不思議がっていないのも気になる。
かわいいヒロイン的女子からの急なお宅訪問イベントが、とんでもないトラップのように思えてきた。
「はるこさんは気にならないの?明らかにおかしいよね?天候かな?」
俺は特別変な質問をしたつもりでは無かったのだが、呆れたような表情をしてはるこさんが答えた。
「いいからうちで話そう 色々教えてあげるから」
イロイロオシエテアゲルという響きが俺の妄想を加速させていた。
綺麗に整頓され、ぬいぐるみや女の子らしい小物がある部屋に待たされている俺。ガチャっという音の方に振り向くとバスタオル一枚羽織っただけの華奢な体体の彼女が、、、
恐ろしいほど、鮮明に妄想が見えてしまった。
「それは、まずいって、、」
にやけ顔の俺からつい言葉が出てしまっていた。
「なにが、まずいの? ほら早くいこう」
「あっ、、そっ、そうだね」
余計なことを考えるのをやめて、今ははるこさんの家に行って色々教えてもらおう。もちろん下心なことではなく、これまでの疑問を聞くためである。もう一度いうが断じて下心は無いのだ。
はるこさんの家は本当に学校の近くにあり、徒歩で行ける範囲だった。家に着くまでは、俺が質問する間を与えないほど何故かフルーツの梨の魅力を語ってきた。ここまでにわかったことは梨が大好きということだけだった。
「ここが私の家 どうぞ入って」
着いた家は代々伝統のある大地主が住んでいるような立派な門構えがあり、門が開くと大きな豪邸というか大屋敷といえばいいのだろうか。とにかく一般的な家ではないことは確かだった。
ガラッと屋敷の入口が空くと、黒ずくめのスーツをきた厳つい顔の屈強な男が二人出てきた。
「お嬢!おかえりなさいませ!」
「お嬢!おかえりなさいませ!」
この展開は、、、
「ただいまー 今日は友達連れてきたから」
そういうと二人の男の視線が俺に突き刺さってきた。これはお約束ってやつなのか。確かに親の不在までは聞いたけど、、、
何か一つでも間違えれば視線じゃない何かが突き刺される予感がした。
「は、はじめまして。同じ部活動でお世話になります
花山といいます」
これが正解のはず。同じ部活動という共通点に加え、自分のほうが下の立場と匂わす。そして不幸中の幸いなのか肘を怪我して左腕を包帯で釣っているので危害を加えることのないことが伝わるはず。
「花山くん」
そういいながら一人の男。特徴からいうと顎ヒゲの男が右手を内ポケットに入れながら俺の前に近づいてきた。目の前に来ると内ポケットから何かを取り出した。俺は死を覚悟した。
「サインを頂いてもいいかな?」
はっ?サイン?取り出したものはペンだった。そして左ポケットからスマホを取り出した。
「全日本の花山なつおさんですよね!自分はなつおさんのファンなんですよ!左腕の魔術師といわれていた投球術は素晴らしかったです!」
色々と肩書きがあったのは知っていたが左腕の魔術師とはなんともダサいな。だが、今はその肩書きに大感謝だ。
「いや、俺なんかを知っていただいてありがたいんですけど、、、野球はもう」
俺は自分の左腕を見ながらそういうと、男は高級ブランドであろうスマホケースとペンを差し出してきた。
「なに言ってるんですか!これからガンガン活躍してゆくゆくはプロになってくださいよ!それに純粋に全日本の姿を見てファンになったんですから」
数分前まで任侠映画に出てきそうなこわもての男が、今は眼をキラキラさせて中学を卒業したばかりの俺にサインを求めてきている。いきおいに負けたのもあるが、最初で最後のサインだと思い書いてみることにした。
「まぁ俺のでよければいくらでも書きますよ
ただ、そのスマホケースに書いちゃうのはきっと勿体ないような気がするんで、何か別のものにでも」
俺は何かノートにでもと思い鞄を探ろうと手をつっこんだ。すると男が俺の手を掴み鋭い目付きでゆっくりと口を開いた。
「なつおさん あなたにこのスマホケースの価値がどう映ったかはわからねぇが、自分はその価値よりもあなたのサインに価値があると思ったんですわ
なので、余計な心配は無用ですわ」
やっぱ怖い人だと思いつつも、その考え方は自分の中に無かったものでなんとなくカッコいいとも思えた。
「サイン会が終わったら部屋に行きましょう
サブとリュウはお茶の用意をよろしくね」
あからさまな二人の名前に心の中で吹いた。
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