第3話 シレルミライシロウミライ


「翔子さんは未来人なの」



 はるこさんは真剣な顔でそう話してきた。



「未来人なんですね。それは凄いね。これからが楽しみだ」



 俺は二人のキャラクターを受け入れつつ、ときには的確なツッコミをいれる役割になろうと思った。



「そういうことだ!そしてようこそ未来部へ!」



 そう言いながら翔子さんは俺の前に近づき、右手を差し出してきた。俺は反射的に差し出してきた彼女の右手を握った。彼女の手はとても冷たく感じた。



「そういえばあの手紙は翔子さんがいれたんですね?

 正直あれはちょっとひきましたよ

 部活勧誘ならもう少し万人受けするような感じのほうがいいかと」



 これからの展開を予想する上であの文章を配ることを避けたい俺は、先に釘を打っておこうと思った。きっと部員を増やすという方向に向かうのだろう。

 こう見えて俺は先を読む頭の回転は良い方なのだ。野球でも打者の先を読む投球術で成り上がってきたのだから。



「安心したまえ!あの手紙は君にしか渡していないし、君にしか読むことができないのだ!」



 何かと俺を特別視してくれるのは謎だが、素直に受け止めると少し自信が戻ってくる感覚があった。まぁいわゆる根拠のない自信というやつなのだが。



「翔子さん、そろそろ時間が迫っているので続きは明日にしませんか?見回りのひとが来ちゃいますよ」



 はるこさんの一声で空が暗くなっていたことに気がついた。そんなに話し込んでいた感覚は無かったがいつの間にか日が暮れていた。



「もうそんな時間か!よし、続きはまた明日にしよう!はるこくんからの連絡を待っていたまえ!」



「勝手に呼び出して、急かしちゃってごめんね。でもちゃんと話を聞いてくれて良かった!また連絡するね」



 はるこさんはそう言いながら微笑んだ。パッチリとした瞳からへの字になる眼の笑顔が印象的だった。

 その表情を真似するかのように翔子さんも笑顔になっていた。濃いめの化粧のせいか少し違和感のある笑顔に思えた。



「それじゃあ、俺はこれで」



 そういいながら出入口へと向かいドアを開けた。

 階段を降りながら、ふと思ってしまった。

 屋上じゃないところならもう少し話せるんじゃないかと。まだ色々と気になることがあるし、明日からのことも話せばいいのでは。最初の疑いと嫌悪感が嘘のように、もう少し打ち解けたいと思っている俺がいる。

 さすがに女々しいか。

 と思いつつも降りた階段を引き返し登っていく。

 ドアを開けて少し力の入った声をだす。



「あの!もし良かったら場所変えて、、、」



 ほんの数分前にそこにいたはずの二人の姿はもう確認することができなかった。

 出入口は一つのはずだし、降りていく二人を気づかないはずが無い。急に恐怖の感情が襲ってくる。

 思考が停止しそうになったときに、俺の肩をポンポンと叩く感触を感じた。



「うぁっ」



 声が出ると同時に今までの人生一番の速さで、その対象へ振り向いた。


「そんなに驚かないでよ。どうしたの?」



 はるこさんがにやっとした顔で立っていた。



「あっ、いや、、、ちょっともう少し、別の場所で、、、」



 焦りと恥ずかしさで挙動不審となった俺を横目に、はるこさんは察したかのように答えた。



「翔子さんはもう帰ったよ 私で良かったら少し寄り道してく?」



「あー、翔子さん帰ったんだ 早いねっ、はは、でも出入口は一つじゃ、、、」



「翔子さんには専用口があるの」



 そう言いながら指を指す。その方向に眼を凝らし、はるこさんにうながされ近づいてみる。

 非常口とかかれたマンホールのようなものがあった。



「なぜかはわからないけど、特殊な非常口があってそれを翔子さんは使ってるの。翔子さんってちょっと変わってるでしょ」



 無邪気にそう話すはるこさんに安心した。翔子さんの帰った手段よりも、ちょっと変わってるという認識のあるはるこさんに安心したのだ。



「そうなんだ、確かに変わってるね、はははっ、、」



「それで私と寄り道してく?それとも翔子さんとが良かった?」


 変な誤解を与えてはまずいと思い、冷静なそぶりで答えた。



「寄り道というかまだ気になることがあるから、場所を変えて話そうか」



 下手なナンパ師のような空気になってしまったが、本当にそう思ったのだから仕方ない。



「私は全然いいよ せっかくだから私の家くる?」



 ワタシノイエクル?ここで急展開が待っているとは。



「えっ、家って、、時間も遅いし、、、親とかいるよね?急に行って大丈夫なのかな〜?」



「うち近いし、親は共働きで二人とも出張でいないから大丈夫だよ」



 この展開は、、、



「そうなんだ、、それじゃお言葉に甘えてお邪魔しようかな〜」



 自分なりの精一杯の爽やかな声のトーンを発したつもりだったのだが、はたして伝わっているのか。



「全然お邪魔しちゃっていいよ そうなるとわかってたから」



 ワカッテイタ?めちゃくちゃ積極的じゃないですか!これは俺の野球の物語でもなければ、未来部とかいう学園コメディでもなく、恋の物語だったんですね。そういう妄想を膨らませながらなんとなく天を仰いだ。






 空はまだ明るかった

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