検死室

鷹枕可

検死室

社会収容所に在ってなおも

美しい縊死は見咎められて――、


     |


内部に向かって前進してゆく,

外部に向かって後退してゆく.



1_梗概


エスタゾラム「アメル」4mg錠程の、精神遅滞をかかえて

共依存関係にある貧困家庭に、

隠された一頭の怪物、

現実逃避は徐々に孤立と狂気を深めて――、



2_狂人筆記


抽象体としての矩形の森

人間精神の確信が妄想に移り変る頃合

古典物理学的な落葉、または網膜

細動する血小板が固まり、

若し、意識は脳髄にのみ、囚われているならば

純粋形而上的な存在とは何か、

数理を戴く統計、

座標地点は存在を証明しながら

価値にボイドが存在してはならないその鬱蒼を

観測を成されないものは存在しないその空間を

苦役の、終極と願い、

成果

全的救済とは

死の方向に従って均された声の終着駅である、


看守と虜囚

虜囚と看守

容易にも入れ代わる関係のただ中を、構築した建築家に宛てて、


俯瞰するものは

俯瞰されている、



3_石化した手鏡   


監視員に吠える狂人

虚実の間に

零落した

痴人



     ○


        

葡萄畑の稠密、

滑走路から乳母車への運輸を見止める

時刻には

鈍く錆びた植物園にも

静謐な死が訪れることでしょう

私の狂気にも

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検死室 鷹枕可 @takuramakan

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