冬、青年たちii
彼女がそう言った直後、館内に、澄んだ女性の声が放送された。
「本日は、ご来館いただき誠にありがとうございます。この後十一時から、9階のプラネタリウムにて『今夜の星空旅行』の上映を行います。ご鑑賞されるお客様は、上映十分前になりましたら、チケットを持参して、9階受付にお並びください」
僕たちは、目を合わせた。
「チケット、とっていますか?」
「いえ。今日はこのジオ・コスモスを見にきただけなので」
「あぁ、そうなんですね」
「もしかして、チケットとってましたか?」
「いや、僕は年パスを持っているので、チケットを取らなくても自由に入場できます」
「ふふっ、そういうことじゃなくて、観に行く予定でしたかって訊いているんです」
「あ、えっと…」
今日も観る予定だった。僕は二週間に一回、ここのプラネタリウムに偽物の夜空を観に来ている。それも、星という静かに煌る宝石のようなものが満天に広がっている、不思議な夜空。飾り気がなくて、星々のありのままの姿を、学芸員らが純実に解説してくれる『今夜の星空旅行』は特に気に入っている番組だ。
いつも僕の足りない何かを、満たしてくれる。欲しい何かを、与えてくれる。僕にとってここのプラネタリウムは、本の中と同然なのである。
だからこそ、今、返答に困っている。
この淋しいルーティーンを自分だけの秘密にしておきたいという気持ちと、こんなにも綺麗な空が現実に存在していることを彼女に伝えたいという気持ち。
二つの未熟な想いが拮抗した結果、僕は結局「どうだったろう」と目線を自分の足先に落として答えることしかできなかった。
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