英雄達の敗退(可憐視点、視点変更)

 一方ーーその頃。地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』から敗退した来斗のクラスメイト達の出来事であった。


 来斗を除く、召喚者の面々は地下迷宮(ダンジョン)から逃げ出していった。当然のように、来斗を見捨て、彼等は我先にと逃げていったのである。というよりも彼等は来斗が死んだと思っているのであろう。


 逃げ帰ったとはいえ、依頼主である王国アルヴァートゥアの王族達に何の報告もしないわけにはいかない。


「全く……どの面下げて帰りゃいいんだ」


 そう、暗殺者を天職としている影沼が呟く。


 意気揚々と地下迷宮(ダンジョン)に挑んだ挙げ句、失敗して帰ってきたなどどう報告すればいいのか。召喚者達は皆、意気消沈していた。


 どの面下げて帰ればいいんだ。そう、その通りである。皆、気乗りしなかった。だが、帰らないわけにも行かなかったのである。


「仕方ないよ……。残念な結果には終わったけど、俺達はやるだけの事をやったんだ。国王様達には申し訳ないけど……この場で立ち止まって居ても仕方が無い。それに失敗したって死んだわけじゃない。何度だって挑戦(チャレンジ)すればいいのさ」


 勇希にそう、励まされ召喚者の面々は気を取り直す。


「その通りだな……まあ、仕方ないさ。俺達も調子に乗ってたところあったしな」


「王様達に対して、どの面下げて帰るんだって感じではあるけどよ……依頼は依頼だし。何の報告もせずにバックれるわけにもいかないもんな……」


 召喚者達は王国アルヴァートゥアの王様に失意の報告をする覚悟を決めたのである。


 ◇


「おおっ! 英雄諸君よっ!」


「お待ちしておりましたわ……異世界から参られた、英雄の皆様」


 王国アルヴァートゥアの国王ーーそれから王女であるソフィアは目を爛々と輝かせている。それはもう、無邪気な子供のように純粋に期待をしているだけの目だ。


「うっ……」


 その期待を裏切るような報告をこれからしなければならないという事に、英雄として持て囃されている召喚者達は酷く心を痛めていた。とにかく気まずかったのだ。言葉を紡ぐ唇が何となく重たかった。とにかく口を開きたくなかった。


 誰も発言をしたがらなかった。こういう時にお鉢が回ってくるのがリーダー格である、勇者ーー勇希である。


「はぁ~~~」


 勇希は溜息を吐いた。勇希とて気は重い。だが、悪い結果の報告だとしても、それをしないわけにはいかなかった。嘘を吐くわけにはいかない。嘘はいずれバレる。真実を報告する事以外に、前に進む事はできないのだ。


「申し訳ありません……国王陛下。王女様」


 勇希は膝をつき、かしずいた。そして頭を深く下げる。


「な、なぜ膝をつき頭を下げるのだ……勇者よ。な、なぜそのような真似を」


「そ、そうであります……勇者様達はあの地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』を制覇し、この王国を救ってくださったのでございましょう? なぜ頭を下げる必要があるのです?」


 二人は戸惑っていた。召喚者達の発する気まずい雰囲気を察していたのだ。もしかしたら失敗したのではないか、という考えたくもない事態が脳裏に浮かび上がってくる。


「申し訳ありません……国王陛下。王女様」


 勇気は再び、謝罪の言葉を繰り返す。そもそもの話、責任は彼のみにあるわけではないのだが、他の面々は押し黙っていた。


「我々は、地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』の攻略に失敗しました!」


「な、なんだとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


「なっ、なんですってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 国王と王女ソフィアの悲鳴が響き渡った。その声量は城中に届くのではないか……という程、大きなものであった。


「それは本当であるか!? 勇者殿!」「それは本当ですか! 勇者様っ!」


 二人は未だに現実を受け止められていないようだった。


「は、はい……全ては真実です。我々は地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』の攻略を道半ばにして失敗し、撤退して参りました。この攻略戦により、尊い人員一名を失い、誠に不甲斐ない結果に終わった事を恥を忍んで報告いたします」


『失われた尊い人員一名』というのが誰を指すのかわざわざ言うまでの事もない。当然来斗の事である。


「……くっ……なんという事だ……もはや、我々の王国は滅びを待つより他にないのか」


「なんという事でしょうか……お父様。もはや私達はお母様の後を追うより他にないのでしょうか……」


 二人は嘆いていた。ちなみにではあるが王女ソフィアの母――王妃は彼女が幼い頃に病でこの世を去っている。


「いや、そうなるとしても私には使命がある。まずは国民の避難を優先させよう」


「は、はい……お父様。それが王族として生まれた者の使命でありますから」


「ま、待ってくださいっ! 別に僕達はまだ完全に敗北をしたわけではありませんっ! 一時撤退をしただけですっ! ちゃんと準備をして再挑戦すれば必ずやあの地下迷宮(ダンジョン)を攻略できますっ!」


 勇希はそう、主張する。


 ――と、その時の事であった。


「国王陛下っ!」


「な、なんだ! どうした! 騒々しいっ!」


 一人の憲兵が謁見の間に飛び込んで来た。その慌てようは相当なものだった。一体、何があったというのだろうか……。


「た、大変でありますっ! こ、国王陛下っ! はぁ……はぁ……はぁ」


 憲兵の呼吸は著しく乱れていた。ここまで全力で走ってきたようであった。とてもまともに話ができそうにない。


「落ち着け! そう慌てていては話せるものも話せないであろうがっ!」


「は、はい! すぅ~はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 憲兵は深呼吸をして、呼吸を落ち着かせた。落ち着きを取り戻したようだった。


「それでなんだ? 話してみよ」


「は、はい! 国王陛下っ! 信じられない事ですが、なんとあの地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』を攻略した者が現れたそうですっ!」


「な、なんだと! そ、それは本当かっ!」


「は、はい! 私も人ずてに聞いたもので、俄かには信じられませんが、どうやら本当なようです……」


「だ、誰だというのだ! 誰でも良い! 我が国を救った英雄をこの場まで連れて参れっ!」


「はっ!」


 地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』の攻略に失敗した、召喚者達はざわついていた。


「一体……誰だ、どこの連中があの地下迷宮(ダンジョン)を完全制覇(クリア)したんだ……」


「わかんねぇけど……どこかの伝説のSランクパーティーじゃねぇか」


 召喚者達は見知らぬ英雄達の姿を想像していた。


 しかし、一人だけが真実を当てていた。その人物とは地下迷宮(ダンジョン)で来斗に命を救われた可憐である。


(まさか……三雲君じゃないよね? けど……そんな事って)


 外れ天職に選ばれた来斗にそんな事ができるはずもない。しかも、たった一人でと。現実的に考えれば、仮に来斗が生き延びていたとしても、地下迷宮(ダンジョン)を完全制覇(クリア)できるなどと、考えられるはずもない。


 だが、普段から来斗の雰囲気が他の生徒達と異なる事を察していた可憐は、直感的に真実を当てていたのだ。


(もしかして……三雲君は生きているの?)


 可憐の胸の中に、死んだと思っていた来斗が生きているという、僅かばかりの希望が芽吹いてきたのだ。


 そして、王室にその人物が姿を現す。その人物は召喚者達にとっては思ってもいない人物だったのだ。


「お前は――」


「そ、そんな馬鹿なっ!」


 召喚者達は絶句をした。その人物とは彼等にとって、予想だにしていない人物だったのである。


 外れ天職に選ばれたと蔑んでいた――無名剣士【ノービス】、来斗の姿がそこにはあったのだ。ついでに見知らぬ可憐な少女の姿もあったのだが……。来斗の登場が予想外過ぎて、意識の中にはなかった……。


 こうして予想もしていなかった来斗との再会をクラスの面々は果たすのである。

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