第四十階層、魔人ヴェルフェゴール
基本的には地下迷宮(ダンジョン)攻略にはある法則性がある。それは10の倍数、キリの良い数字の階層には強敵が配置されている事が多いという事だ。
RPGで言うところのボスキャラである。そして、来斗はそのボスキャラが何なのか知っていた。その為にこうして準備をしていたのだ。
真っ暗なステージであった。闇のように、黒いステージ。
「ティア……照明(ライティング)の魔法を使ってくれ」
「は、はい……わかりました。照明魔法(ライティング)!」
ティアは照明魔法(ライティング)を使用した。すると、周囲がある程度明るく照らされる。それでも闇が深いステージであるが故に、中々足元もおぼつかないような状況下ではあったが……。
なんとか見える範囲で、来斗は自分達が闘技場(コロセウム)のリングのようなステージに立たされている事に気づく。一つだけ闘技場(コロセウム)と違う事はリングの空間が完全に見えなくなっている事だ。まるでリングの下は崖のようになっている。
落ちれば死ぬ事は免れないであろう。実に危険なステージであった。
だが、吸血鬼であるティアには飛翔能力があるはずだ……恐らくは。そうでなくとも重力制御の魔法を習得している事だろう。
最悪、何とかなる事に来斗は期待したかった。来斗はその二つの術を持ち合わせてはいないのだから……。
キッケッケッケッケッケッケッケケッケッケッケッケッケッケケッケッケッケッケッケッケケッケッケッケッケッケッケケッケッケッケッケッケッケケッケッケッケッケッケッケ
深い闇の中から、奇声が聞こえてきた。壊れたような奇声。異様な声であった。
一体の魔人が姿を現す。漆黒の魔人。悪魔のように見える、異形の化け物がそのステージに姿を現す。
「我の名は魔人ヴェルフェゴール! この地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』第四十階層の守護者(ガーディアン)であるっ!」
漆黒の魔人ヴェルフェゴールがそう名乗りを上げた。
「……ん?」
魔人ヴェルフェゴールは何か、違和感を覚えたようだ。
「なぜ驚かぬ……人間風情が。我が現れたというのに」
知っていれば驚きようもないだろう。
「しかもたった二人でこの魔人ヴェルフェゴールを相手にするつもりかっ! 我が今まで幾人の無謀な冒険者達を退けてきたと思っているっ!」
魔人ヴェルフェゴールは激昂していた。
「……んっ? 片方は我等と同じく、闇の世界の住人である吸血鬼(ヴァンパイア)ではないか……。なぜ貴様のような存在が人間の肩を持つ……まあいい」
魔人ヴェルフェゴールは浮遊(レビテト)する。そういう魔法か、あるいはスキルを持っているのだろう。
「たったの二人でこの魔人ヴェルフェゴールに挑んで来た、無謀な挑戦者(チャレンジャー)よ! 我の闇の力で塵芥となるがよいっ!」
「行くぞっ! ティア!」
「は、はい! ライトさんっ!」
「ステータスオープン!」
魔人ヴェルフェゴールとの闘いが始まるより前に、来斗はステータスを見る事にした。
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モンスター名 魔人ヴェルフェゴール レベル:80
攻撃力:3000
HP:3000
防御力:2000
素早さ:2000
魔法力:2000
魔法耐性:2000
スキル:浮遊(レビテト) 闇属性吸収 自動回復(大)
技スキル 暗黒拳法
※ 弱点属性 聖(光)属性
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やはり魔人ヴェルフェゴールの弱点属性は聖(光)属性だった。聖竜(ホーリードラゴン)を倒し、『聖剣エクスカリバー』を入手したのは正解だったと、来斗は確信を抱いた。
「食らうがいい! 無謀な挑戦者(チャレンジャー)達よっ!」
空中に浮いている魔人ヴェルフェゴールはその両手に闇の力を集中させた。
「我が闇の力を受けよ! ダークエネミー!」
魔人ヴェルフェゴールは暗黒のエネルギーを掌に集め、放った。暗黒のエネルギーの塊は超高速で来斗に向かって襲い掛かっていく。
「危ない! ライトさんっ!」
ティアは即座に反応した。生前、聖女として習得していた聖魔法を放つ。
「聖なる光の壁(ホーリーウォール)!」
目の前に聖なる光の壁(ホーリーウォール)が展開され、来斗を守った。闇と光という、相反する二つの属性が激しくぶつかり合い、強烈に鬩ぎ合った。
「ちぃっ!」
魔人ヴェルフェゴールは舌打ちをした。
「サンキュッ! ティア! はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ティアの聖魔法——聖なる光の壁(ホーリーウォール)により、魔人ヴェルフェゴールのダークエネミーを防いだ来斗であった。来斗はすかさず、反撃へと打って出る。
来斗は『聖剣エクスカリバー改』で、魔人ヴェルフェゴールへと斬りかかった。今までの得てきた経験値の効果もあり、基礎ステータスは相当に底上げされている。俊敏性も高くなっていた。今の速度であれば例え、高いレベルの怪物(モンスター)である魔人ヴェルフェゴールが相手だったとしても、十分に対応しうるはずだ……。
「ちっ! こざかしいっ! 人間がっ!」
キィン! 甲高い音が鳴った。魔人ヴェルフェゴールの爪が長く伸びる。そしてその爪はまるで剣のように硬くなったのだ。
「デスクロー!」
魔人ヴェルフェゴールは硬質化した自らの爪——デスクローで来斗の剣を受け止めたのだ。
「くっ!」
攻撃を受け止めた魔人ヴェルフェゴールは苦悶の表情を浮かべる。想像していたよりも来斗の攻撃が重かったからだ。今までのLVアップによるステータス底上げの効果——そしてさらには装備による効果もある。『聖剣エクスカリバー』という強力な武器である事に加え、この剣には基本効果として、聖属性の効果が付与(エンチャント)されている。
その為、魔人ヴェルフェゴールと言えど、今の来斗の剣は決して侮れるものではなかったのだ。
「くそっ! 人間如きが! 調子に乗るなよっ!」
魔人ヴェルフェゴールはその凶悪な爪——『デスクロー』に力を込めた。距離を離そうとしたのだ……。
「くっ!」
力負けした来斗は、敢え無く距離を離されてしまう。魔人ヴェルフェゴールはスキル『浮遊(レビテト)』の効果で、空中に舞い上がった。『浮遊(レビテト)』というよりはまるで『飛翔(フライ)』のスキルのようであった。
空中へと舞い上がった魔人ヴェルフェゴールは再び、その掌に暗黒のエネルギーを集中させていく。
「食らえっ! 愚かな人間よっ! そして死ぬがいいっ! ダークエネミー!」
そして、魔人ベルフェゴールはその『ダークエネミー』を放たんとしてくる。
「させませんっ!」
しかし、二度も同じ攻撃をさせるわけにはいかなかった。ティアは聖属性の魔法攻撃を放つ。
「聖なる光の矢(ホーリーアロー)!」
ティアは聖なる光の矢(ホーリーアロー)を放った。光の矢が『ダークエネミー』を放たんとしていた魔人ヴェルフェゴールに突き刺さった。
「な、なにっ! く、くそっ! 余計な真似をしおってっ!」
光の矢は魔人ヴェルフェゴールの胸に突き刺さった。人間で言うところの心臓のあるところあたりに。魔人の心臓はいくつか存在する。心臓に突き刺さったからといって、それが即座に致命傷になるわけではない。
だが、それでも痛手は痛手である。魔人とて、痛いものは痛いのだ。魔人ヴェルフェゴールは慌てて、ティアの放った聖なる光の矢(ホーリーアロー)を抜こうとする。
しかし、それが致命傷になったのだ。一瞬の事ではあるが、隙が生まれた。その隙を見逃すような来斗ではなかった。
「今だっ!」
「な、なにっ! き、貴様っ!」
来斗は聖剣エクスカリバー改を高く掲げる。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
!」
そして、勢いよく、魔人ヴェルフェゴールに斬りかかる。
「や、やめろっ! ま、待てっ! 待ってくれっ!」
魔人ヴェルフェゴールはそう、命乞いをしてきた。そんな敵の命乞いに耳を傾ける程、来斗は聖人ではないのだ……。聞く耳など持つ来斗ではなかった。
来斗は『聖剣エクスカリバー改』を全力で振り下ろす。
「ホーリバーストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
来斗は斬りかかる瞬間『聖剣エクスカリバー改』に秘められた膨大な聖属性の力を解き放った。聖なる光が爆発的なエネルギーを発揮する。
斬られる瞬間、魔人ヴェルフェゴールを弱点属性である聖属性の膨大な光のエネルギーが、襲い掛かる。斬られた瞬間、まるでそれは爆発するかのように、内部から外部へと破裂するかのような、深刻なダメージを与える結果となる。
「な、なに! ぐっ、グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
魔人ヴェルフェゴールは盛大な、断末魔を上げた。魔人ヴェルフェゴールの悲鳴が第四十階層に響き渡る。
そして、魔人ヴェルフェゴールは塵一つ残さず、跡形もなく消失した。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」
闘いが終わった来斗は、肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ……ラ、ライトさんっ!」
ティアが駆け寄ってくる。
「ありがとう……ティア……君のおかげだ」
「いえ、そんな事はありません……ライトさんの力があってこそです」
ティアは来斗に向かって、そう微笑みかけてきた。
ティアが居れば、何とかなりそうな気がする。この地下迷宮(ダンジョン)
が最深部で第五十階層である事をこの世界が二週目である来斗は知っていた。
「行こう……ティア。君の力があればこの地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』を完全攻略できるはずだ」
来斗には見えていた。この地下迷宮『ウロボロス』を完全に攻略する道筋が。もはや撤退する事など微塵も考えていなかった。このまま完全攻略までたどり着ける。その道筋が来斗には見えていたのだ。
「は、はいっ! ライトさんが行かれるのでしたら、私はどこまでもお供します」
二人は進んでいく。この地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』を更なる地下へと潜っていく。
終わりの見えない、長い道のりであった。だが、その終わりの時はもうすぐそこ、目の前にまで至っているのである。
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