第五十階層ウロボロス

 それは二人が紆余曲折ありながらも、第五十階層まで辿り着いた時の出来事であった。


 漆黒の巨大な扉。隙間から漏れ出てくる不気味なオーラはこの先に潜んでいる怪物(モンスター)が只者ではない、危険な存在であるという事を暗に示している。


「行くか……」


「待って、ライトさん」


「ん?」


「この先から凄く危険なオーラを感じる……」


 ティアはこれより先に進む事を躊躇っていた。無理もない。それほど危険な気配をここから先から感じるのだ。


 だが、来斗には確信があった。この先にいる怪物(モンスター)は確かに強敵ではあるが、どれほどの強さなのか、どういう行動をしてくるのか……来斗にはお見通しであった。


 そして今の来斗の力と、備えてきた装備があれば必ず倒しうる相手だと来斗は計算していた。


(エリクサーの保険もあるしな……)


 来斗は内心、そう呟く。


 そしてこれがこの地下迷宮(ダンジョン)で最後の闘いなのだ。来斗はこれ以上深い階層(フロア)が存在していないという事を知っていた。


 これが最後の階層(フロア)という事を知らなければ躊躇うのも無理はなかっただろう。


 だが、知っていれば気楽である。貴重な消耗品、先ほど言った『霊薬エリクサー』なども躊躇いなく使う事ができる。


「確かに、これから先に出現する怪物(モンスター)は危険な怪物だ。だけど、今の俺達なら十分倒しうるはずだ……」


 今更引き返す事などできない。撤退自体はできるが、それなりの労力がかかってしまう。それに来斗は知っていたのだ。この先の敵(ラスボス)を倒した場合には特典として、強力な武器がドロップされるという事。そしてさらには、地上まで転移魔法(テレポーテーション)で帰還できるという事。


 敵(ラスボス)は強力だが、帰る際には楽に帰れるというわけだ。


 リスクとリターン。あらゆる要素を計算した結果、このまま逃げ帰るという選択肢は除外される。


「はい……わかりました。ライトさんがそうおっしゃるなら」

 

 ティアは乗り気ではなかった。だが、来斗の言葉に押され、覚悟を決める。


 こうして、二人は地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』最終階層である、第五十階層への挑戦を決めたのである。


 二人は漆黒の大扉を開いた。


 ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!


 扉が擦れ、鈍い音が響いた。


 ◇


 第五十階層は第四十階層よりも不気味なステージであった。まるで地獄のような場所だ。薄暗いステージではあるが、不気味な理由はそれだけではない。

 

 地面に無数の蛇が彷徨っているのだ。その数は膨大であり、足の踏み場もない程であった。


「「「「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」


「ひ、ひいっ!」


 無数の蛇が立ち上がり、威嚇をしてくる。


「気を付けろ、ティア。こいつ等は猛毒を持っている」


 毒耐性スキルか、状態異常回復魔法(クリア)か、どちらかの対抗手段を持っていれば致命傷にはならないだろうが、そもそも食われない事が重要である。


「火炎魔法(フレイム)!」


 ティアは火炎魔法(フレイム)で毒蛇の群れを焼き払う。


「一時的には効果的だけど……無駄だぞ。こいつ等は無限に湧き出てくるんだから」


 毒蛇の群れはティアの火炎魔法(フレイム)により一層されたが、しばらくすると湧き上がってきた。


「「「「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」


 新たに湧き上がってきた毒蛇が来斗達を威嚇し始める。


「はぁ……堂々巡りなんですね」


「そうだ……これがこのウロボロスの階層(フロア)の特徴なんだ。こいつ等の出現を止めるには一つしか方法がない……それは大本であるウロボロスを倒す事しかない」


 来斗はそう言い切る。


「そろそろお出ましだ。来るぞ……奴が」


 無限に湧く毒蛇の群れから、一匹の巨大な蛇が姿を現す。


 クシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 轟くような巨大な叫び声が第五十階層に響き渡った。現れたのは大蛇である。黒い鎧のような、堅牢な装甲を身にまとった大蛇。


 それが第五十階層の強敵(ボス)である『ウロボロス』。この地下迷宮(ダンジョン)の名にもなっている最後の強敵(ラスボス)でもある。


『ウロボロス』はその巨大な口から鋭利な牙を覗かせる。


「気を付けろ、ティア。あの牙には毒だけじゃなくて石化や混乱とか、数多の状態異常効果を引き起こすんだ……勿論、食らった場合のダメージも大きいが、状態異常も厄介だ」


「は、はい! 気をつけろ」


 無論……それだけではないが。この敵の脅威は他にもある。


「ステータスオープン」


 来斗はウロボロスのステータスを開く。


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モンスター名 ウロボロス レベル:90


攻撃力:4000


HP:5000


防御力:3000


素早さ:3000


魔法力:3000


魔法耐性:3000


スキル:自動回復(大)自動蘇生


技スキル 牙(高状態異常を高確率で引き起こす)テイルアタック(高範囲の物理攻撃)酸の息吹(アシッドブレス)。


※ 弱点属性 聖(光)属性


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 そう……ウロボロスはその名の通り、フェニックスと同じような不死性を得ているのだ。それがこのウロボロスが厄介な敵であるという点だ。

 

 来斗は装飾品(アクセサリ)である『破邪の腕輪(リング)』の効果により、一つだけ相手のスキルを解除する事ができるが、それでも厄介な敵だった。


「まあ、やるしかないか……」


 来斗は剣を握る。


 クシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


最後の強敵(ラスボス)である『ウロボロス』が大きな口を広げ、来斗達に襲い掛かってきた。


 こうしてこの地下迷宮(ダンジョン)での最後の闘い(ラストバトル)が始まったのである。





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