さらなる地下へ
こうして、来斗の運命は亡国の吸血鬼(姫)である、ティアが仲間になったのである。
ソロプレイで今まで地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』を攻略していた、来斗にとって、仲間ができたというのは大きな変化であった。
無論、来斗はティアの事に対して、全幅の信頼を置いているわけではない。長きに渡る封印を解いた恩があるとはいえ、彼女に対して全幅の信頼を置くには危険(リスク)が高すぎた。
知り合ったばかりの相手を無条件で信用するのは頭の良い判断ではなかった。信用や信頼というのは時間を置いて積み重ねるものだ。
来斗はそう考えていた。そして、そうして築き上げてきた信頼や信用でも、ある時、ある瞬間にあっさりと崩れてしまう。裏切られてしまうという事もまた、来斗は知っていたのだ。
全体の一回目の異世界プレイで、来斗はその事を痛いほど痛感していた。
(まだ……ティアを信用するには時間が必要だ……)
来斗はティアの人間性、性格に対して信用するにはまだ時間がかかると判断していた。
――だが、その実力面に対してはある程度以上の信用を置いている。彼女の強さはあの殺戮機械人形(キラーマシンドール)との闘いで実証済みだ。
ソロプレイは基本的に効率の観点から見ると好ましくない。ソロで出来る事はやはり限られている。ソロプレイである以上、欠点を持つ事は好ましくない。なぜなら欠点を持つ事が敗北に直結しうるからだ。欠点を突かれたとしても、それを補助(カバー)するような仲間がいないからだ。
しかし、仲間がいれば話は別だ。欠点をある程度は放置し、長所に注ぐ事だって出来る。それに、多様な戦略を取る事が出来る。大型モンスターの注意を引く事だってできる、はずだ。
仲間がいれば裏切られる事もあるかもしれないが、仲間がいる事が大きな利点(メリット)になる事もありえた。
ティアが仲間になってくれた事が来斗にとって、大きな+(プラス)になる事はありえた。
それに考えた。現在、来斗達はこの地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』の35階層にいる。クラスメイト達は知らなかっただろうが、二週目プレイ中の来斗はこの地下迷宮(ダンジョン)が全50階層である事を知っていた。
その為、この地下迷宮(ダンジョン)攻略が既に後半戦に差し掛かっている事を、来斗は知っていたのである。
これ以上の攻略はソロプレイでは困難であった。誰かの助けが必要だ。その役目として、吸血鬼として強力な力を秘めたティアが協力してくれるのは願ったり叶ったりだ。僥倖と言えよう。
――そして、彼女の力はすぐにでも必要になってくる。来斗は考えていた。ソロプレイの限界を。感じていたのだ。だから、これ以上地下迷宮(ダンジョン)を攻略せずに、引き戻るという選択肢もあったはずだ。
だが、ティア(彼女)がいるのならば話は別だった。どうせだったらこの地下迷宮(ダンジョン)を攻略しようと思った。彼女が力になってくれるのならば可能なはずだ。
来斗はさらに地下階層へと潜っていく決断をした。
第30階層も終盤になってくると、雑魚モンスターでもそれなり以上に強くなってくる。第25階層で相手をした、ミスリルゴーレムレベルのモンスターが、普通に出てくるようになるのだ。
来斗一人の力では手に余る事も十分に考えれた。
「……見て! ライト!」
「……ん?」
暗闇の中から、何者かが姿を現す。真っ暗闇な階層(フロア)だったので、来斗の反応が遅れた。吸血鬼であるティアじゃなければ、すぐに気づく事ができなかっただろう。
「敵がくる……それも結構強い奴……」
ティアは来斗に注意を促した。
闇夜から出てきたのは、馬に跨りし、首無しの騎士。
首無し騎士(デュラハン)であった。
二人は突如出現した首無し騎士(デュラハン)を警戒し、臨戦態勢に入った。
こうしてティアとの初めての共闘戦闘が始まったのである。
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