封印された謎の少女
「……なんだ? この部屋は」
入った事のない、隠し部屋を来斗は発見した。そしてルーン魔術による封印を解除し、中に入っていったのだが。
そこには、謎の少女がいた。輝くような金髪をした少女。雪のように白い肌。整った顔立ち。人間離れをした美しい容貌の少女は、一見するだけで普通の少女ではない事が理解できた。
しかも、それだけではない。その扱いである。彼女は幾層もの封印魔術を施され、その上に自由意志すら奪われ、まるで死体のように生気を失っていた。一見すると本当に死んでいるとしか思えないが、念話のようにして聞こえてくる、彼女の声だけが本当は彼女が死んでいるわけではないと、理解する事ができた。
『助けて……』
それが彼女が、発してきた声だ。音による、通常の発生ではない。念による声だ。鼓膜を通じて聞こえてくる声ではなく。脳内に直接語り掛けてくるような。念話(テレパシー)のような会話。
恐らくはそれが、彼女に出来る唯一の行動なのだろう。身動きひとつ、取れずに封印措置をされ、自由意志を奪われた人形のような彼女。それでも彼女が出来る、一つの行動が念話(テレパシー)を通じて、外界に助けを求める事。
「……どうして、そんなところに閉じ込められてるんだ?」
来斗は聞いた。明らかに尋常ではない。こんな隠し部屋に、厳重に封印されている彼女は、明らかに普通の存在ではないと来斗でも理解する事ができた。美しい少女のような見た目をしているが、実際のところは恐ろしい化け物なのだろう。
化け物でなければそもそもの話として、こんなに厳重に封印される事はなかった。普通の人間であるならば、邪魔になったのなら殺して、燃やすなり埋めるなりすればいい。
それができないから、彼女はこうして地下迷宮(ダンジョン)に隠され、厳重に封印されている……というわけだ。普通の人間なわけがなかった。
『それは……』
彼女は口ごもる。
「それがわからないなら、こんな封印、解除できるわけないだろ?」
間違いなく、危険な存在だ。彼女の封印を解く事で。彼女の強さ(LV)がどれほどかはわからないが、今の来斗では対抗できない程の強さ(LV)を秘めているかもしれない。そんな彼女の封印を簡単に解除したらどうなる。恩を仇で返されるかもしれない。
助けたはいいが、来斗が用済みとなり、殺されてしまうかもしれない。
「こうやって封印されているって事は……それだけの理由があるって事だろ? 一体何をやったんだ?」
『それは……その……あの』
彼女は口ごもった。
「それが説明できないなら、お前にかけられている封印なんて、解除できない」
来斗はその場を去る素振りを見せる。
『待って! いかないでっ!』
彼女は訴えかけてきた。どれほど長い間封印されていたかはわからないが……彼女にとっては久方ぶりの会話であったろうし、長年待ち続けていた、封印から脱出する機会(チャンス)でもある事だろう。
この千載一遇の機会(チャンス)を、当然のように彼女は逃したいはずがなかった。
『言うから……なんでこうなったのか』
彼女は語り始める。身の上話を……。
彼女は昔、この世界『ユグドラシル』に存在していた、ある国のお姫様だったらしいのだ。そして、内乱が起きた末に、特別な力を持つ彼女は封印された。
特別な力——とは、吸血鬼の力だ。その国の王族には吸血鬼の血が流れていたのである。
吸血鬼の力により、不老長寿の力を得ていた、彼女は殺しても殺す事ができずに、仕方なく封印処置が施され、この地下迷宮(ダンジョン)で到達可能な、範囲に隠し部屋が作られ、こうして厳重に封印される事になった。
「へー……。そんな事があったのか」
滅んだ国の名はルナリアと言ったそうだ。前回プレイでこの世界『ユグドラシル』知識がある来斗はこの世界の歴史も多少は知っていた。
確かに、そういった歴史がある事は、異世界人である来斗も知っていた事だ。
吸血鬼の血を引く王族。そして、起こった内乱。その末に、こういった封印措置をされた者がいたとしても不思議ではない。
彼女はが言っている事は本当だ。
『ね!? 話したでしょ。だから――』
「こうして封印されている事情は理解した。だが、助けるかどうかは別の話だ」
彼女の話を聞いて、猶更対象の危険度がわかってしまった。吸血鬼なんていうのは不死者(アンデッド)の王だ。その血を受け継ぐ彼女は危険な存在だ。襲われたら、今の来斗では無残にも殺されてしまうかもしれない。
『——そんな』
「助けたら用済みとばかりに俺に襲い掛かってくるかもしれない……俺に危害を加えてこない保証がない」
『襲わない! 絶対に襲わない!』
「信用できるか……」
言葉だけの約束など信用できるわけがない。他人は裏切るものだ。その方が裏切られた時のショックが少ない。前回プレイでの経験から、来斗は痛い程その事を知っていた。他人は裏切る事が殆どだ。信用なんてできるわけがない。
自分の利益の為なら、平気で約束なんて破る。それが他人という存在だ。相手が人間だろうが、吸血鬼だろうが同じ事だ。
相手の言葉を素直に信じるなんて、馬鹿のやる事である。来斗はそう考えていた。
『絶対に襲わないから! 何でも言う事聞くし! えっちな事も何でも聞くから!』
「誰が信用するかっ! 誰がっ!」
自分より強い獣を野に放つようなものだ。言葉は通じるかもしれない……だが、言葉が通じる事と相手が大人しく従うかどうかは別問題なのだ。
慎重に考えなければならない。
――そう、考えていた時の事だった。
ビー! ビー! ビー!
突如、警報音が聞こえてきた。
「なんだ? ……」
『侵入者が侵入してきました! 侵入者が侵入してきました! 侵入者が侵入してきました!』
隠し部屋が赤く染まる。そして、機械音声が流れてきたのだ。
『防衛装置を起動します! 防衛装置を起動します! 防衛装置を起動します!』
突如、地面が割け……そういう、仕組みになっているみたいだ。地下がリフトみたいになっていて、突如、ロボットみたいな兵器が姿を現す。
機械人形だった。主の命令を愚直に従うだけの、兵器みたいな存在。来斗は見ていたロボットアニメのロボットみたいに見えた。
右腕がチェーンソーみたいな刃になっていて、左手はガトリングガンのようになっている物騒な機械兵器が目の前に出現した。
「侵入者……って俺の事だよなー」
あいつこそ……対話が聞きそうな相手ではなかった。戦闘は避けられそうにもない。来斗は剣を握り、覚悟を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます