第12話 やっちまったッス
「きゃあ!」
「はなせっ!」
「くそっ!逃げろ、ショウやん!」
『終わったー!』
ショウは瞬時に理解した。ヤバい。ゼン、トキ、チイの三人が捕まったのだ。
ショウは一瞬チラリとリリィを見た。またとても不安気な顔をしている。
「……ごめん」
けど、考える間もなく、ショウは外に飛び出していた。
「うっわ!」
馬車の扉を開いたら目の前に盗賊の男がいて、驚き声をあげた。男はゼンたち三人をひとりで抑え込んでいる大男だった。
「いでぇ!」
「ショウ!逃げて!」
大男の指をかんでチイが言った。周りからほかの男たちも集まってくる。逃げるといっても逃げ道はふさがれているし、逃げられるわけがない。
『こういうときのためだろっ!』
チイの勇敢なふるまいを見て、ショウは力を得た。今にもチイの頭をはたこうと振り上げられた拳めがけて、ショウは飛びついていた。
「あがっ!」
大男の腕はもげていた。
もげた腕をショウは持っていた。まだ脈動している腕を。
「ぎゃああああああ!」
大男の腕からは血が噴き出し、その血の奔流をみて大男は叫んだ。足元にいた三人の子どもたちは呆然としていた。
「て、てめぇ!」
他の男たちがたじろぎながら、口々に魔法を唱えた。
「ぼむんっ!」
「ひあどっ!」
「らぁいっ!」
爆炎が上がり、ついで鋭利なツララが襲い、とどめに稲光がショウを襲った。
種々の煙が上がった。けれど、水蒸気も土煙もすべてが渦を巻くようにして、収束していった。その渦の中心にいるのは、ショウだった。
ショウは『力』を使った。ショウの『力』は『吸い込む』ということだった。
師匠曰く「たま~に生まれるのじゃ。魔法に分類されない特殊能力もちというわけじゃな。ま、先祖返りみたいなもんじゃな。こいつを使える人間は少ないから重宝されやすいが、利用もされやすい。気を付けるんじゃぞ」
珍しくマジメな顔で言ったものだ。
「ふっ!」
ショウは吸い込んだ力を足下に溜めて解放し、爆速で三人の懐に入って、拳にも力を込めて殴った。子どもの拳とは思えない威力に三人は一瞬で昏倒した。
「動くなっ!」
うしろから声がした。チイを抱えている小男がいる。手にはナイフだ。首元にやって、震えているきっさきが危なっかしい。
「よ、よくもジルをっ!」
小男はどうやら【いんぎゃ】の使い手だったらしい。
『……なんとなくわかるぞ。見た目で』
小男の目の周りはクマでおおわれており、見るからに不眠症を患っているようだった。頬も不健康にやせ細っている。
「ジル?」
「お兄ちゃんだっ!お前が腕を千切った!もうっ!もう助かるわけもないっ!」
ショウは未だにジルの腕を持っていた。
そしてそれに何の痛痒も感じないどころか、興奮のるつぼにあった。
力。できる。支配。暴力。オレはこんなに強いんだ。もう誰にも頭を下げる必要もない。前世の懐かしくも弱弱しいオレは死んだ。
もう、ボクじゃなくて、オレだ。
「ひっ」
凄惨な笑みでショウは小男に笑いかけた。頬には返り血がついていた。
「なんなんだ!なんなんだよぉ!お前ぇ!」
チイの喉元に赤い雫が垂れる。わずかに傷をつけた。
許さない。
殺す。即座にショウは決定した。
小虫を殺すよりも軽率に、けれど、興奮はやはり人を殺すソレだった。
「みんなぁ!動くなよっ!」
ショウが叫ぶ。チイは当然動かない。身動きをとれずにいたゼンとトキも動かない。けれど、小男も一緒になって動かなかった。
動かなければ、安全なのか……?一瞬、小男の脳裏に浮かんだ思いは残念ながら見事に裏切られた。
ショウもまったくその場から動かなかった。
ただ、瞳のみが収斂した。
「あがっ……!」
小男はその場で崩れ落ちた。
小男の身体から、ショウが力を吸い取ったのだった。
『師匠の裸をぼやかせるのも良き修行になったぜ。はっ、まさか、あれも修行のうちだったのか?……ないない』
場違いな感想を頭に浮かべた。
「ひっ」
けれど、チイをはじめ、子どもたちは怯えた目でショウを見つめていた。
異世界で善人になったるっ! 異世界アナーキー @anarchyisekai
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