第10話 屹立っス!
「ショウやん」
次の日、家の前でこぉぉぉぉ!と息吹をしているとトキから声をかけられた。昨日石蹴りをして遊んだショウの友達だった。
「ん?おお、こんなところまで珍しい」
ショウの家は山の中にあるので、トキが来るのは珍しかった。それどころか横にはゼンとチイもいる。三人とも浮かない顔だ。
「どしたの?」
聞くと、三人は顔を見合わせた。なにやら話しづらそうというか、どう話したらいいかわからないという様子だ。
「よかったら、家の中で話す?お茶くらい出せると思うけど」
今はちょうどエリザベートもヨハンもいなかった。エリザベートは川に洗濯に、ヨハンは山に芝刈りにといった具合だ。
『お茶葉はたしか戸棚の奥に……』
「いや!」ゼンがしかし待ったをかけた。「それどころじゃないかもなんだ」
「そうなの!」チイも勢い込んでいう。「悪い人たちがいるかもなの!」
話はこうだ。トキ、ゼン、チイの三人は森にニジイロタロイモを探しに行っていた。ニジイロタロイモはちょっとレアな食べ物で、お祝いの時なんかに食されるカラフルな食べ物だ。味は中身ホクホクでモノによっては甘い。ハズレはぼそぼそしている。
さて、そんな道中三人は、怪しい大人を見かけた。この辺では一度も見たことのない人だった。
皮鎧を着こんで、腰に剣を差している。面相もいかめしく、髪の毛も不潔っぽい。
なんとなく怪しいと思った三人は、こっそり男のあとをつけてみた。
すると森の中の開けたところに男たちの仲間が四人いた。馬車もある。しかもずいぶん高級そうな装飾がなされた馬車で、男たちの風体とは相当なギャップがあった。
「それでね」チイが言った。「馬車の中にお姫様がいたの!」
「お姫様?」
ゼンがうなずく。
「うん。おれも見た。なんか、絵本でしか見たことないような、こうふわふわ~ってしてた」
ちょっと顔が上気している。
「おれは見れなかったんだよな~」
トキがちょっとすねたようにいう。
「すぐに引っ込んじゃったからね」
チイが言った。
『なるほど……。三人はそのお姫様とやらがどこかからさらわれてきたのではないか?と考えているというわけだ。けれど、やっぱりちがうかもしれない。忙しそうにしている親たちに行って違ったら大目玉だ。だから、ボクに言ってきたわけだ』
ショウはうなずいた。
「わかった。様子を見に行こう」
四人は森の中に入っていった。本当は案内役に一人いればよかったのだが、みんな行くといって聞かなかった。
「もしも本当に危険そうなら、すぐにもどって母さんたちを呼んでこよう」
そう言って、ショウは合意をとった。
「ところで、なんでニジイロタロイモを?だれかのお祝い?」
道中聞くと、三人は顔を見合わせてちょっと困ったように笑った。
「え~とね」チイが言った。「ショウの誕生日が二週間後にあるでしょ?そのため~。あ~あ、バレちゃった」
「お、おお……、子どもたちよ……」
ショウは胸にじんわりと温かなものが広がった。
「ショウやんも子どもじゃん」
トキが笑う。
「しっ」
ゼンが唇に指をあてた。
「そろそろ近いから気を付けよう」
『ゼンは慎重派だ。助かる……』
ショウはついつい緩みがちになってしまう己の性分を反省しつつも、頼もしく思った。
茂みの切れ目でショウたちは身を低くして広場をのぞいた。
はたして、ゼンたちの言った通り、男たちがそこにはたむろしていた。
『なんだこいつら……?』
変に思うのも当然で、彼らは武装していたし、そもそもこんな田舎に人が来ること自体かなり珍しいことだった。
『なんで村にもこないでこんなところでコソコソしてるんだ……?』
なにか善からぬことをしようとしているのでは?という連想が働くのも道理に思えた。
ましてやあの馬車にはどうやら女の子が乗っているらしい。周りにいるのは全員武骨な男だ。
『怪しい……』
ショウはゼンたちにうなずいて、ちょっとここで待っててくれるよう手で合図した。
『いんぎゃ』
心のなかで呪文を唱えた。ショウの姿は周りの風景に溶け込んで、見えなくなった。
茂みから音を立てないように出て、馬車に向かった。女の子とやらを確認しに行ったのだ。
馬車の踏み台に足をかけ、中をのぞいてみた。
すると、そこにはたしかに女の子がいた。お姫様と言いたくなるのもわかる華美なドレスを着ていた。
男もいる。そして、その男はなんと盛っていた。見るからに屹立した逸物をズボンの上から指し示し、少女にわざと見せつけている。
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