第9話 ちがうんスッ!ドのつくMじゃないんスッ・・・!
「ううっ……、アタイ、汚れちゃったッス……」
ショウはさめざめと泣いていた。
「オラッ、そんな恰好でいつまでもいたら風邪ひいちゃうぞ?」
まるで悪徳プロデューサーが男らしさを勘違いしたような豪快な仕草で、師匠はショウに服を投げてよこした。心なしかツヤツヤお肌になっている。
「元の世界なら捕まってるんスからねっ!」
「ここでは朕が法なり」
「くぅ、まさに邪神ッス……!」
師匠は邪神の名に恥じなかった。
「エリザベートには内緒だよ?」
下卑た笑顔で口止めしてきた。
「サイテーッス……!いかに神といえど、もうすこし恥じてほしいッス……!」
「ん?神界のなかでは朕はわりと恥ずかしい奴で通っておるぞ?」
「知りたくなかったッス……!」
初耳だった。そういう意味じゃないし。
「本人が恥じてほしい、羞恥心を持ってほしいって意味なんスけど……」
「え?自分を恥ずかしいやつだと思えってこと?うわっ、ひどっ……!」
「ええっ!」
「あっ、ごめんなさいッス……。これからはダンゴムシのように隅っこで生きていくッス……」
「ちょっ、ス言葉やめて欲しいッス!」
「あっ、そんな自分なんかにス言葉使わないで欲しいッスッス……」
「戻ってきて!果ての無い自己肯定感!ボクが悪かったッスッスッス!」
ス戦争に勝って、師匠は元に戻ってくれた。
『あれ……?なんで最終的にボクが謝っているんだろう……?』
疑問に思わないでもなかったが、正直にいって、ショウは人には言えない悦びをこのやりとりで得ていた。
それは前世から引き継いで、今生でも墓までもっていかなければならないものだった。
「は~、まったくショウはドのつくMだな~」
「ええっ!なんで言っちゃうのっ!ていうかなんでわかっちゃうの!」
思わずス言葉も抜けようというもの。
「ス言葉」
「あ、ハイっス」
すぐに修正された。
「だって、師匠だし?」
「はぁ……」
「ショウってわかりやすいし?今ス言葉強制した時も、ちょっとうれしかったでしょ?」
師匠は妖しく笑った。美しかった。美少女が好奇心に満ちた表情で果実を頬張る如くだった。
「……ハイっス……」
ショウは赤面して、白状した。
「ヨシヨシ」
師匠は頭をポンポンしてきて「可愛いぞ♡」と言った。
ショウは正直泣きそうだった。これまで一度も満たされたことのないところが満たされた気がした。
「フフンっ、受け容れてやろう」師匠は尊大に微笑んだ。それがまた美しくて、イヤな感じが一切しなかった。「まっ、さっきドのつくと言ったけど、本当はソフトな言葉で遊ばれるのが好きなタイプじゃものな?よくあるよくある」
実に楽しげにカラコロ笑った。
ショウもずいぶん重大に己が宿業などと考えていたが、別にそんなことはないのかもしれないと思えた。
「……師匠って、やっぱり師匠なんスねぇ」
ショウは惚れ惚れと言った。
「おっ?なんじゃ、惚れ直したか?」
「ハイっス」
ショウは満面の笑みでこたえた。
「ガッハッハッハッハッ、前世のお前もまるごと可愛がってやろうっ!」
グリグリと師匠はショウを撫でまわしたのだった。
「な~にやってんのかねぇ……」
露天風呂につかっているイードは、イチャイチャしているふたりをジト目で見ているのだった。
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