第5話 師匠現るっ!

 小一時間石けりをしたところで、ショウは家に帰った。ショウの家は山の中にあり、村とははなれたところにあった。


 遊びに行くのも一苦労だ。


「こらっ!どこに行っておったんじゃ!」


 ビクッー!とショウは首を反射的に縮こまらせた。


「し、師匠!買い物でありますっ!」


 ショウはその場に気をつけをして足をうちつけた。軍隊式だ。サー、イエッサーと言いそうな勢いでビビっていた。


「とうっ!」


 なにやら上から落ちてきた。木の枝からジャンプしてきたそれは空中で一回転して、ショウの目の前に着地した。


 それは日本でいえば、中学生くらいの女の子だった。燃えるような赤髪をうしろでゆるく束ねている。白い肌はこの世のものとは思えないほどだ。見目は美しく、凛とした目元とプルンとした赤い唇が特徴的だった。


「楽しかったかね?」

「し、師匠……お、お使いですよ?た、楽しいとか楽しくないとかじゃないッスよ……」


 師匠と呼ばれた少女は「ふ~ん」とうさんくさそうにジロジロとショウを見た。


「連日の修行がよほど堪えたとみえる。そうじゃないかね?」

「ち、ちがうでありまス!誤解でありまス!」

「誤解?誤解ときたか。誤解をした朕が悪いとおっしゃる?」

「え?あ、そのようなことは……!」


 完全にタチの悪いチンピラに絡まれた体でショウはただただ困惑するばかりだった。めちゃくちゃ顔近づけてメンチ切ってくるし。


「いや~、ショックだなぁ。いつからそんな口答えをするようになったのか……!」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい~!」


 傍からみると、なかなか壮絶な図だった。中学生女子が小学生上がりたての少年に絡んで泣かせているのである。事案といえば事案である。


 しかし、師匠はニヤリと満足したように笑った。その顔は本当に満足したようで、悦びに満ち満ちていたといっても過言ではない。


「ぐふふ、ごめんごめん。も~う!ショウは可愛いなぁ~!なんでこんなに可愛いの?もっとイジメたくなっちゃう~!」


 超上機嫌で頬ずりしてくる。やはり事案である。


「し、師匠~、くすぐったいッス~!」


 ショウは照れながらも、まんざらでもないからただただ赤面して任せるままだ。抵抗もできない。


「だ~め!これは罰じゃ!修行の時間に遅れてきた罰じゃ~!ついに逃げたかと思って、寂しい想いをさせた罰じゃ~!」


 チュッチュッチュッと連続でおでこや頬にキスをされる。


「う、うう~!逃げるわけないじゃないッスか。自分から頼んだのに」

「ほうじゃのう。ほうじゃのう」


 話を聞いているのかいないのか、なぜか師匠はショウの衣服を脱がし始めた。


「ふわっ!師匠、なにを!」

「ぐふふ、こわくない、こわくない……」

「めちゃくちゃこわいんスけどっ!」

「ちょっと、水浴びに付き合ってもらうだけじゃ。師匠の背中を流すのは弟子の役目だと古来より伝わっておる」

「なんでこんな道端で脱ぐ必要があるんスか!」


 水浴びをよくする川までだいぶ離れていた。


「細かいことを気にするな!」


 帯を勢いよく抜き取られる。


「あ~れ~」


 駒のように回されてショウは目を回した。


『ああっ!リアル芸者をなぜボクは異世界で?』


 頭が混乱しそうになりながら、倒れ伏すと師匠が覆いかぶさってきた。


「な、なんで師匠まで脱いでるんスか!」


 師匠の浴衣風の衣服がはだけて、控えめな胸がチラリとのぞいでいた。


「異なことを。朕に服のまま水浴びしろと?」

「だから、ここ、川じゃないッス!」


 師匠からは森林のようにリラックスする香りと、桃のように甘い香りが同時に感じられて、クラクラしている頭にさらに輪をかけてめまいを生じさせた。


「こんのっ!色ボケ邪神がっ!」

「ぐっはっ!」


 師匠はわき腹をしたたかにこん棒でたたかれた。




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