第4話 石けりっ!
「お~、ヨシヨシ」
ばあさんに翔馬はあやされていた。もう翔馬の認識は老婆ではなく、ばあさんという親しみを込めたものになっていた。
「怖い夢でもみたのかな?赤ん坊も怖い夢を見るのかな?じいさんや」
「う~ん、どうなんじゃろ?」
部屋には温かな空気とミルクシチューのいい香りが漂っていた。
「生まれる前のことを夢見たりするのかもなぁ」
じいさんがシチューの味見をしたりした。
「あらあら、じいさんたらロマンチストだこと」
「ふんっ、そんなワシは嫌いかな?」
「もうっ!好きに決まっとるじゃろっ!」
「ばっはっは」
「ぐっふっふ」
……なんなんだこの人たちは。じいさんの方はまともかと思っていたが、案外違うのかもしれない。
けれど、イヤな感じはしなかった。むしろ、もっとふたりのことを知りたくなった。
『そうはいっても、しゃべれないんだけどね……』
まぁ、このまま生きていけば、だんだんに知っていけるだろう。
『けど、もしかしたら、翔馬のころの意識はなくなってしまうのかもな……』
異世界転生なんていうけれど、もしかしたら生まれ変わっているだけなのかもしれない。もしかしたら、翔馬の前にはなにか別の存在だったのかもしれない。
翔馬は赤ん坊らしからぬことを考えた。
「あらら、今度は難しい顔してる。ほんに、赤ん坊というのは百面相じゃのう」
ばあさんは幸せそうに微笑んだ。
『それも悪くないのかもしれない……』
翔馬ことショウは、すくすくと育っていった。
なんの波乱もなく日本でいえば小学生くらいになった。暦の感じがちがうので、正確ではないのだが、大体7歳くらいだ。
あえて波乱というか、予想外だったことを言えば、じいさんばあさんだと思っていた二人は父と母で、ずいぶん遅くにできた子どもとしてショウは生まれたらしい。
あと、翔馬の記憶はガッツリ残った。
『これはチャンスだ……!前世のころの記憶を活かせば、世界までつかめる……!』
なんてことも試みに空想してみたが、残念ながらスマホを知っていてもスマホの作り方も材料もない。
それどころか、多くの科学的なこともよく知らないまま来てしまったので、前世的アドバンテージはなにもなかった。
あるとしたら、人生は急に終わることもあるということを知っているし、本物の子どもよりは意識はしっかりしているので、物事を客観的に見ることができるということくらいのものだった。
「ヒャッハー!石ころけったー!」
「ああっ!またショウにやられた!」
村の子どものトキが悲鳴をあげた。やはり石蹴り(缶蹴りみたいなもの)は物事を俯瞰的に見れるものが有利だ。前世的アドバンテージをショウは十全に発揮していた。
「くっそー!やっぱショウやんがいるといないとじゃ、全然ちがうぜ!」
ゼンも地団駄をふんでくやしがった。
「ショウやんありがとっ!」
「おうよっ!」
泥棒としてつかまっていたチイとハイタッチした。
最高に楽しかった。
『これだよこれ~!』
ショウは翔馬だったころの幼い記憶を思い出していた。いつからだろう?缶蹴りをしなくなったのは?本当はしたかったのに、学校のヒエラルキーに巻き込まれて、みんなで遊ばなくなったのは。
ノスタルジーおじさんショウだった。
「一生石蹴りしてたいわ~」
ショウがしみじみ言うと、チイはギョッとした。
「えっ……?そんな大人いないよ……?」
心配されてしまった。
でも、なんだかそれも可笑しくて、ショウは笑ってしまった。
「そうかもな~」
「そうだよぉ」
チイは小さな声で「けっこんできないじゃん……」とつぶやいた。
「えっ?なに?」
けど、ショウは生まれ変わっても肝心なところでチャンス×なので、気づかなかった。
「なんでもないですけど~」
「なんで敬語?」
「べつになんでもいいんですけど~」
「お、おう?」
よくはわからないが、ショウは変な圧を感じて追及をやめた。
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