9 アルベルト・ファルスター


「今日は、何をしようか?天気も良いし、庭に出て散歩でもするか?」


「はい!!お散歩したいです!ルイも一緒に行こうね」


 初夏の日のように暖かく、天気がいい ある日の朝…

 朝食を食べ終わったアルベルトは、いつものようにローズを抱き上げると、優しく微笑み そっと髪を梳きながら、ローズを散歩に誘ってきた。


 ローズが今、暮らしているファステリア帝国は日本と同じような四季があり、今は春から夏になりかけの季節である。


 アルベルトは、帝国騎士団、第二師団の師団長をしている為、滅多に昼間は屋敷に居ることはないが、今日は休みの為、朝からローズの側を離れようとしなかった。


……


……


「あの…アルベルト様……私…1人で……歩きたい…」


「ハハッ。照れる顔も可愛いな!今日は、ローズとずっと一緒に居られるから……すげぇ幸せだ!ほら、向こうの薔薇でも見に行こう!!」


(マジか……全然、話を聞いてくれない……毎回、思うけど……イケメン抱っこ……全然、慣れないんだよね!!自分の顔の近くにイケメン……マジで恥ずかしい…!見た目は幼女、中身は16歳乙女!恥ずか死ねる!!!だいたい、こんな移動の度に抱っこされたままじゃ全く散歩にならないんだけど……私…その内、筋力低下して歩けなくなるんじゃないの!?只でさえ、監禁されてたから発育不足気味なのに……

 私…幼女ですよーーー!!!適度な運動、バランス良い食事が、大切ですよーーー!!!)


 そんなローズの思いは、アルベルトの微笑み1つで、跡形も無く消え去っていくのだった……


  (解せぬ……)



………



 今の季節は、ちょうど庭の薔薇が綺麗に咲いている時期で、庭師が丁寧に整えた薔薇のアーチをアルベルトに抱っこされながら通っている。


 そのすぐ後ろを、ルイが黙って付いてきているが、どんな風に思われているのか分からず 恥ずかしくてルイの方を見られない……

 そんなローズの心の葛藤など丸っ切り無視した、アルベルトがローズに向けて喋りかけてきた。


 「ほら…ローズ!あそこにベンチがあるから、少し座って薔薇でも眺めるとするか……」


 ベンチを見つけたアルベルトは楽しそうに、軽快な足取りでアーチを抜けベンチへと歩き出す。


 高さ4m程ある薔薇のアーチを抜けると、そこは、少し広めの円形状の広場があり、周りを囲むように、色とりどりの薔薇が、キレイに手入れをされた状態で咲いている。

 その広場の周りに、2、3人掛けのベンチが等間隔で3基ほど並んで置いてある。

 その内の1基にアルベルトは、ローズを下ろすと自身も隣に腰掛けた。

 後から着いてきたルイも、しれっと反対側のローズの横に腰掛けている。


「見てみろローズ……薔薇がとてもキレイだな!!あぁ…でも、ローズの余りの可愛さに薔薇が嫉妬してるみたいだから棘を刺されるかもしれないぞ!!危ないから近づくなよ!」


「…………」


 (ぎゃー!!甘ーーーい!甘すぎるよ!別に、棘があるから気を付けろよ!で、大丈夫なのに……マジで異世界凄すぎる。でも…例えイケメンだろうとも、言われたセリフがクサすぎて、全然、ときめかないんですけど……なんかお尻の上がムズムズするし、元日本人にはハードルが高すぎる!!!)


 口から砂糖を吐きそうな程、甘い言葉にローズもルイも遠い目をして無言になっている。


 ローズは前々から思っていたが、この世界の人達の甘いフレーズは、世間一般でも普通に使われているのだろうか??

 いつかコレが普通になって行くのだろうか?

 考えただけでも鳥肌が立ち、その内アレルギー反応でも出るんじゃ無いかと本気で思うローズは、この甘ったるい空気を変えたくてアルベルトに提案してみた!


「ねぇ、アルベルト様… 一緒に隠れんぼでもしませんか?」

 

 ローズは小首を傾げて可愛らしくおねだりしてみる。


「隠れんぼってなんだ?」


 アルベルトの頭にハテナが浮かんでいるのに気付いたローズは、異世界ではかくれんぼじゃ通じないんだと思い、慌てて隠れんぼの説明をした。


 すると説明を聞いたアルベルトは目力を強め


「そんなのダメだ!!一瞬でもローズから目を離すなんて…天使みたいに可愛いんだから、天使と間違われて、神様に連れて行かれたらどうするんだ!」


「………….」


 真剣な顔で意味のわからない事を言うアルベルトにローズは目を細めながら無言になってしまう……


(えっ…ちょっと言ってる事が分からない……!!少し離れて、落ち着きたかっただけなのに、倍の甘さが帰ってきちゃったよ……異世界人の思考回路が理解できない….)


 1人で一息つきたくなって、隠れんぼを提案してみたものの、秒で却下され、甘さの倍返しされてしまったローズは、アルベルトじゃ話にならないので、次はルイに話しかけてみた。


「じゃあ!ルイ!!私、今から逃げるから、捕まえてみて……!」


「…はい…!!捕まえた!」


 ベンチから飛び降りた瞬間に、後ろからルイに抱き締められる様なかたちで、すぐに捕まったローズは、ルイの拘束から逃れると、頬を膨らませなが抗議する。


「ちーがーうー!!私が走って逃げて行くから、追いかけてきて捕まえるんだよ!」


 すると、ルイも真剣な顔でローズを諭しだす


「そんなの危ないだろ!!ローズは、まだ小さいんだから…走って転んだらどうするんだよ!」


 (ルイーーー!!!お前もか!!!!なんなんだ皆して!!!体は、適度に動かさないとダメだって知ってるか!?私の筋力を衰えさせてどうする気なんだ!!もういい加減走り回りたい!!!元スポーツ少女をナメるなよ!!!)

 

 ベンチの前で、頬を膨らませながら上目遣いに、2人を睨んでいるとアルベルトは、満面の笑みを浮かべてローズを抱き上げた。


 「ローーズ!!そんな可愛い顔をしたらダメだろ!このまま俺の部屋に連れて行って、誰にも見せないように閉じ込めたくなるじゃないか!いっその事、騎士団を辞めてローズ専属の騎士にでもなろうか!?」


「ダメです……!!仕事は、きちんとして下さい!!」


ローズはアルベルトの軽いヤンデレニート発言に驚いて、目を見開き慌てて注意する。


「あぁ!ローズはしっかりしていて、本当に利口だな……そしたらローズの為にしっかり働いて、ローズが外で、危険な目に遭わないように、領地の巡回を強化しないといけないかな!!」


(危ない!危ない!まさかのヤンデレ、ニート宣言!!愛が重すぎるよ!まぁ自分で言うのもなんだけど、ローズは可愛い!!でもさぁ……出会ってすぐの幼女に溺愛しすぎじゃない???この世界の人達って、まさか皆、こんなんじゃないよね?女子と子供が少なすぎて頭どうかしちゃってるんじゃないの?大丈夫か……この世界???)


 とても失礼な事を考えているローズだが、本来のアルベルトは、仕事一筋の真面目で堅物な人間だとは想像もしていない……


 女性と付き合った事は ほぼ無いが、あの外見の為、数少ない女性達から、言い寄られる事も多々あるようだ。

 だが、仕事優先で相手にはしないし、女性に対して余り興味が無い。


 父親も騎士団で近衛騎士の団長を務めていたが、王弟の護衛中、狩を楽しんでいた王弟が刺客に狙われ彼を庇い殉職してしまった。


 母はアルベルトが幼い頃に、忙しい父親に飽きて、他の男性達と家を出て行ってしまい今は、何処かの貴族の妻として、楽しく過ごしているようだった。


 そんな経緯もあり、女性と共に過ごすより、気心知れた男性達と過ごす方がが良いと思っているアルベルトは結婚せずに、クロード達と気楽な生活を送っている。


 ただ……ローズの事だけは、助けた時に抱き上げた、体の軽さと、今にも消えてしまいそうな儚さが、忘れられず……度々アルベルトの胸が締め付けられるような感覚に陥っている。

 保護欲が刺激され、目を離したら居なくなってしまいそうな不安感から、どうしても過保護になってしまいがちになり本人も戸惑いつつあった。


 最近は、少しずつ元気を取り戻してきて、笑顔も増えて来たのローズは、一層 可愛さが増し…愛情が溢れ出してしまっているが、まさかローズに、心の中でヤンデレ扱いされているとは夢にも思っていないアルベルトだった……


 ローズに対する愛情が、自分が助けた小さな子供に対する兄のような家族愛なのか、異性に対する愛情なのかは本人もまだ、分かっていない。



最近の、アルベルトの休日はこうして過ぎて行く……


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