8 甘さ控えめ


【ミシェル様に対して、なんて口の利き方をするんだ!今日もその性根を叩き直してやるからな!】


 バシン!バシン!と細い棒状のムチで何度も打ち付けられている…


 いくら泣いて、謝っても男は止める事はしなかった……


……


……


いや……


……


もう…やめて……


……


……


(いやーーー!!!)



……


……


 汗をびっしょり掻きながらローズは目覚めた……


 頬には涙を流した跡があり……今も目に涙を浮かべている…


 そんなローズを心配そうに、2人の男性が、ローズを挟むようなかたちで、ベッドに横になっている体を、少し起こして労るように見つめている…



「大丈夫か…?また怖い夢でも見たんだな……だが、もう心配要らないよ……!私達が側に居るから……」


 そう言いながらクロードは、目を細めて労るように微笑みながら頭を撫でてくれている。


 その反対側にいるルイも……何も言わず少し心配そうに、片手でローズの手を握りしめて、もう片方の手で頭を撫でた…





***





 ローゼマリーと名付けられてから、約1ヶ月が経過した。


 目を覚ましてからの最初の夜は、1人で眠っていたのだが、夜中に目を覚ましたローズは、悪夢を見たのか……突然泣き叫び、その声を聞いたクロード達は急いでローズの部屋に駆けつけた。


 けれども、精神的に不安定なローズは、夢と現実が混ざっており錯乱状態で、彼等が近づくと泣いて暴れ手が付けられず、唯一 一緒に監禁されていたルイだけは、幾らか受け入れられたようで、多少、引っ掻かれはしたものの、数時間かけてローズの事を落ち着かせ、最後は、ローズが泣き疲れて眠ってしまうのだった。


 それを見ていたクロード達は、1人で寝かせるのは心配だと考え、自分達に慣れてもらう為にも、毎晩、一緒に眠ると提案し、誰が一緒に眠るのか、多少、揉めはしたが、毎日、ローテーションを組んで、1人ずつ交代でローズと眠る事になった。


 だが、まだ慣れてもいないのに、よく知らない人間と一緒に眠らせるのも可哀想なので、ルイだけは、毎日、ローズと一緒に眠る事になったのだが……


 ルイは、その事に対し密かに優越感に浸っていた。


 皆と一緒に眠り出したローズは、人の温もりがあると安心するのか、徐々に落ち着いていき……夜中に不安定になる事も少なくなっていった……


 初めの頃は、昼間も怯えて部屋から出なかったローズだが……1ヶ月経った今では、徐々に、外にも出られるようになっていた…


 


***




 あの後…クロード達に慰められて、もう一度眠りについたローズは頬に、くすぐったさを感じながら、日の光に気づき……ゆっくりと目を開いた…


 まだ眠たい目をうっすら開けて横を見ると、朝日を浴びてキラキラした金髪を手で掻き上げたクロードは反対側の手の甲でローズの頬を撫でていた。


 (うっ……かっこいい……)


少しずつ、自分を取り戻しつつあるローズは、精神的には16歳なので、朝の寝起きからのイケメンには、未だに耐性がつかないでいた。


……


……



「おはよう…ローズ……」


クロードは、うっとりと微笑むとローズの額にキスをする。


(ぎゃーーー!!やーめーてー!!この挨拶…!!!毎回……毎回……全然慣れないんですけど…!!!何……この羞恥プレイ…!!!私……心は…16歳の日本人なんですけど!!!)


 朝から、羞恥に悶えるローズを…今度は、ルイが後ろから抱きしめた……


「おはよ!ローズ!」


(あっ……ヤバい…鼻血出る……!私は幼女…私は幼女…私は幼女……)


 毎朝、心の中で唱えるのが、ローズの朝の日課になりつつあった……


 気持ちを、やっと落ち着かせたローズは、2人に朝の挨拶をすると、起き上がり、ベッドから降りて顔を洗い、洋服を着替える。


 今日のローズの洋服は、膝丈の淡い、色とりどりの小花が刺繍してある、ワンピースに赤い靴を履いている。


 洋服を選ぶのも、一緒に眠った人の特権で、彼等は毎回、楽しそうに、ローズの洋服を選んでいる。


朝の洗顔も、普通は洗浄魔法で綺麗にするみたいだが、ローズは前世が日本人なので、日本の時の習慣から、どうしても水で洗いたかった。


 けれども、朝の洗顔も…着替えも…1人ではさせて貰えず、朝一緒に起きた人が甘い言葉と共に全て行うので毎日、羞恥心との戦いだった。


 何度、自分でやらせて欲しいと、訴えても、クロード達は聞いてくれず、優しく頭を撫でられてお終いである。


 そんな羞恥心との闘いの日々中で、ローズが一番驚いた事と言えば……

何と言っても、自身の可愛さであった!!!


 ピンクパールの、少しウェーブがかったボブヘアに、ブルーサファイアの透き通るような大きな瞳、小さいけれど通った鼻筋、ピンク色の薄い可愛らしい唇。


 前世が、とにかく平凡な、可もなく不可もない顔だったローズは、少し、気持ちが安定してから鏡で見た、自分の外見に驚きすぎて、少しの間、その場から動けなかった。



 そんな美少女のローズは、一通りの準備を終えると、クロード達と一緒に食堂に向かう…


 「ローズ…おいで…!!」


クロードが、笑みをもらしながらローズを抱き上げようと手を伸ばしてきた。


「だっ…大丈夫だよ…!私…もう、1人で歩けるから!この前…約束したでしょ??」


 恥ずかしいので、なんとか阻止したいローズは、少しづつ後退り必死に抵抗するが…


「ローズはまだ小さいから、危ないよ!階段だってあるんだから…もし、怪我でもしたら…どうするんだい?」


そう言いながら、嬉しそうに両手でローズを抱き上げた。


「もう…約束したのに……」


 頬を膨らませながら少し不貞腐れる幼いローズに、そんな顔も可愛いよ!と片目を瞑って頬にキスをする。


 不貞腐れていたはずのローズは、途端に羞恥に耐えられなくなり、クロードの肩に顔を埋め撃沈するのだった。


 何処かの、バカップルみたいな遣り取りを、少し冷めた目で、ルイが後ろで見ているのが朝の一連の流れである。


 この流れは、誰が一緒でも大体同じで、この後にルイは毎朝、朝食で苦めの紅茶を頼んで飲んでいるらしい……



………




………

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