7 命名会議


「………という事なんだけど、君は…女の子で合っているかな?」



 美月にある程度の事情を説明し終わると、クロードは、美月に優しく問いかけた。


 美月は泣き腫らした目を少し戸惑わせ、本当の事を言っても大丈夫かと考えたが……暫く考えた末、そっと美月は頷いた…

 その時…誰かの息を飲むような音が、聞こえてきた気がしたが、クロードは、美月の様子に細心の注意を払いながら質問を続けるのだった。


「自分の名前や、年齢は、分かるかな…?お父さんや、お母さんの事は何か覚えてる?」



 クロードの質問に、美月はまた、俯いてしまい……数秒の間をあけてから、震えるような小さな声で


「…分か…らない……」


と答え、潤んだ瞳で、クロードを見上げた。


 クロードは、美月の余りの可愛さと儚さに目を奪われると、自身の保護欲を掻き立てられ……目を見開いたまま数秒固まってしまっていた。

 そのまま眩暈を覚えたかのように片手で額を押さえると、ゆっくり息を吐き出したのだが……

 そのクロードの仕草に、美月は、怒らせてしまったのかもしれないと、肩を竦め、体をビクつかせると、不安げに瞳をゆらしてしまう。


 クロードの後ろの方で、気配を殺して立っていたジュリアスは、そんな美月の様子に逸早く気づき、クロードを窘める!


「クロード様……怖がらせてしまっていますよ…このままだと怯えられ、嫌われてしまいますが、宜しいんですか?まぁ…私的には全然構いませんが!!…あぁ…可哀想に…そんなに怯えなくても大丈夫ですよ!」


 クロードの肩に手を置いて、彼に向かって、ニヤリと片方だけ口角を上げた後、話しだしたジュリアスは、美月の方へゆっくり向き直ると、優しい笑みを浮かべながら彼女の側まで近づき…膝をついて優しく手を握り…慰め始めた。


 ジュリアスの行動に焦ったクロードは、勢いよく顔を上げて美月に向き直ると膝の上の拳を握りしめながら必死になって弁解し出した。


「ちっ…ちっ…違うんだ……!!!君が余りにも可愛らしくて………直視できなかった…だけなんだ!!」



 普段のクロードからは想像も出来ないような、慌てながらも女性を口説く時のような甘いセリフを、恥ずかしげも無く幼女に伝えている様子に、横に居たアルベルトは、俯いて肩を揺らし笑いを噛みころしている。


 アルベルトとは対照的に、ルイは、そう言う事に慣れていないらしく、顔を真っ赤にして俯いていた。


 ジュリアスは、しれっと無視をしながら美月に喋りかけている。


「私は、ジュリアス・ファルスター。こちらで、クロード様の側近権、侍従をしています。貴方が寝ている間のお世話も…私がしていたんですよ!何か、体調の変化や、辛い事、悲しい事が、あったら遠慮なく言って下さいね!」


 ジュリアスは、美月を少し見上げるかたちで、上目遣いに優しく微笑んだ。


「おっ…まっ…え…卑怯だぞ…!」


 焦りまくっている為、今まで被っていた猫が、ズリ落ちてしまっているクロードは、口を、パクパクさせながらジュリアスを凝視している。


 一人で、ツボにハマっていたアルベルトだったが、落ち着きを取り戻すと、狼狽えているクロードを横目に、美月に話しかけ始めた。


「こっちでも、君の事を色々調べたんだけど、未だに、何も分かっていないんだ……だから、君が嫌でなければ、何か分かるまで、此処で、一緒に暮らさないか?生活の事は、何も心配要らないし、君を害する人も絶対に寄せ付けない!!必ず俺達が守るから!どうかな…??」



 アルベルトの話を聞いた美月は、アルベルトを見つめ、暫く考えた後……



「……お願いします……」


 小さい頭を下げながら、小声で呟いた。


 美月は、転生してから約一ヶ月の間に、色々な事がありすぎて、気持ちが追いついていかず上手く頭が働かなかった……


 先程、たくさん泣いた為、いくらか気持ちが楽になったものの、監禁されていた時のショックと、極度のストレスで、自身を取り戻せずにいた。


 皆とても優しいが、やはりまだ、出会ったばかりのよく知らない男の人は、怖いようで、どうしてもすぐに怯えてしまう為

 このまま此処に居ても大丈夫なのかと思う不安な気持ちと、やっと安心して暮らせるかもしれない…と、思う気持ちが入り混じり、どうしても俯いてしまう美月だった……


 そんな、美月の気持ちを気遣うように…しっかりと猫を被り直し、自分を取り戻したクロードが、明るく美月に声をかける。


 「良かった!!これから宜しく!!今、この屋敷には、他にも何人か、一緒に暮らしてる男がいるんだが、今、此処には居ないんだ!!あと、2ヶ月くらいは会えないと思うけど、君が落ち着いてき頃、また、紹介するから心配いらないよ!!

 その他にも、何人もの使用人とか、料理人、屋敷を管理する人達が、大勢暮らしてるけど、全員、男の人なんだ……慣れるまでは、怖いかもしれないけど、常に、私達の誰かが、一緒に居るように、心掛けるから、あまり、不安にならなくても大丈夫だからね。

 あと…ルイの事だけど…君が寝ている間に、彼とも話して、もし、君が、此処に住むようなら、君の専属の従者に、するつもりなんだ!だから…彼は、ずっと君の側にいてくれるよ。その方が君も安心だろう?…少し、一気に喋ってしまったけど、理解できたかな?また、分からない事があれば、その都度遠慮なく聞いてくれ!」


 説明を聞き終わると、美月は小さく頷いた。


 それを確認したクロードは、目を細めて優しく微笑むと、怖がらせないように気を付けながら、そっと美月の頭を撫でた。


……


……


「じゃあまず、名前を決めないとな!」


 明るい声で、アルベルトが提案すると……



……



……



 そこから男達の美月の命名会議が始まった……





「俺は、ディアナなんか良いと思うけど!!」


 真っ先にアルベルトが提案した。


「なんか、その名前……キツい性格になりそうじゃないか?どこかの貴族に居なかったか?そういう名前の女性が………私は、ソフィアなんて、可愛いと思うけど!」


 クロードが、やんわりアルベルトの意見を否定しながら自身も提案する。


「まぁ…可愛らしいですけど……少し、ありきたりじゃないですか?私は、アンナなんて素敵だと思いますけど、いかがでしょうか?」


 ジュリアスが、横に居るクロードに提案する。


「えーそれって…!!昔、お前にしつこく言い寄って来た女に、そんな名前のヤツいなかったっけ??」


 ニヤニヤしながら、アルベルトが口を挟んできた。


その後も、3人が、それは、アイツの彼女の名前だとか、昔、言い寄られた女性と同じだとか、男好きになりそうだとか言い合い、全然話が纏まらず、それを、黙って見ていた美月は、元々まだ本調子ではなく、よく知らない人達に囲まれて疲れてしまったのもあってウトウトしだしてしまう。


 それに気づいたルイは不意に……


「ローゼマリー……」


 と呟いた。


……


……


……


「それ!いいじゃん!!!」


「良いかもしれない!」


「良いと思います。」


3人の意見が一致した。


「君の名前は、今日から、ローゼマリーだよ!宜しくなローズ…」


 そう言いながらクロードは、ローズのベッドの横に跪き、片手を取ると、手の甲に優しくキスをした。


 クロードに続いて、アルベルトも、ジュリアスも、同じようにキスをして、それを見ていたローズとルイは、固まったまま暫くの間動けなかった。

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