5 涙



「申し訳ありません。3日後に、国際会議が行われますので、本日より大規模な検問を実施致します。他領から王都に入る場合は、例外なく、不審な物を所持していないか中を調べさせて頂きますので、ご協力をお願い致します!!」


 ゆっくり馬車が停車した後、誰かの毅然とした喋り声が聞こえてきた。


 美月達からは外の様子が分からないので、2人ともじっと黙っている。


「この馬車が誰の持ち物か分かって言ってんのか?」


 美月達の乗っている荷馬車の御者から苛立ったような怒鳴り声が聞こえてきた。


「申し訳ありません。国からの要請ですので、皆様にご協力頂いております……!おい!!後ろの荷物を調べて来い!」


「「「はいっっ!!」」」


 低姿勢だか有無を言わせない男の発言の後、何人かが、美月達の方に向かって走ってくる様な足音が聞こえてきたと思っていたら美月達が入れられている荷馬車の扉の前で足音が止まった。


 すると直ぐ後から追いかけて来た御者の、焦ったような声が聞こえてきた。


「こっ…困りますよ……ちょっと……!!」


 御者の焦ったような声のあと、揉み合う様な音が聞こえていたがそれを振り切るように美月達の入れられている荷馬車の扉が開いた。


 外はもう薄暗い中、ランプを手にした男性達が荷馬車を覗き込み美月達の存在を確認した瞬間、目を見開き驚愕したような顔をした。


 驚愕に目を見開いている男性達は、白地に袖口や襟に太めの赤いラインが入った太腿くらいまでの長さがあるジャケットを着用し、金のボタンをキッチリしめていて、何処かの軍隊の様な制服を着用し腰に剣を帯刀していた。


……


「子供……!?」


……


「まさか…人の子供じゃないよな…?」


……


「まさか…!!1人は獣人の子供だぞ…!コイツもきっと獣人だろ….!」


……


「えっ……でも……」


「おい!!団長を呼んで来い!!それと御者の男は拘束して事情を確認しろ!!」


 何か焦ったように、戸惑いながら交わされた会話の後、この場を指揮している男性が素早く支持を出すと、他の男性達はバタバタと慌ただしく動き出した。


……


「君……もう大丈夫だからな……!」


 そう言うと指示を出した男性は、美月の方を見ながら少し心配そうな顔をしている。


 そうして暫く経った頃、先程、駆けて行った男が足早に1人の男を伴って戻って来た。


 案内されたきた男性は、制服こそ他の男性達と同じだが、襟元に幾つものキレイな飾りが付いている。


「団長こちらです!」



 案内して来た男に促され、団長と呼ばれている男は美月達の方に顔を向けた。


……


 他の男性達と同じように、少し驚いたように目を見開いた団長だが、直ぐに冷静さを取り戻した様で団員達に指示を出し始めた。


「拘束した男から、何か事情は聞けたのか?この檻の鍵も預かって来い!」


「今、他の者が取りに行っております!!もう戻ってくると思われますが…」


 厳しい顔をした団長からの問いかけに団員がハキハキと答えていると、鍵を持った他の団員が走って戻ってきた。


 そのまま団員に急いで鍵を開けさせると、美月達の檻の鍵が開けられて、外に出るように促される。


「君…歩けるか?」


 ボーっと前を向いたまま、動こうとしない美月に団員が優しく声をかけるが、美月は全く反応しない。


 すると先に檻から救出されたルイが団員達に説明しだした。


「そいつ、喋らないぜ!捕まって連れてこられた当初は喋ってたけど、ずっと閉じ込められてる間に喋らなくなっちまった……それに、そいつ獣人じゃなくて 歴とした人間だぞ!連れてこられた初日に、本人が言ってたんだ!」


 ルイは団員達にそう伝えると、団長は、そうか……と、哀しそうに一言呟き、労るような顔をしながら美月の檻に近づき、中に入ると美月をそっと抱き上げた。


……


「怖かったな……もう大丈夫だからな……」


……


 団長は、壊物を扱うようにそっと抱き上げると、そのまま横抱きにしながら美月を包み込むように抱きしめて、優しく喋りかけた。


美月は団長の優しい声と、そっと抱きしめられた時に感じた温もりに安心したように、そっと目を閉じ意識を飛ばしていった……





  ***





  【美月……起きなさい…… 】





 父と母の声が聞こえた気がした…




***




どのくらい時間が経ったのか分からないが、暖かい日の光を感じながら、爽やかな匂いのするフカフカのベットの中で、美月は目を覚ました。



 とても長い間、眠っていたように感じ、ハッキリとしない頭で辺りを見回してみた。


 美月が寝ていた場所は、白を基調とした、とても広い部屋のなかで、美月が寝ている大きなベッドの周りには、木製の高級そうな家具が置いてある。

 シンプルだかとても素敵な部屋だ。


 美月は、そのままゆっくりと起きあがろうとしていると、静かに部屋の扉が開いた。


……


「目を覚ましたのか……?」


……


 美月の部屋に入ってきた人は、団長と呼ばれていた男性とは違う男性だった。

 金髪の短い髪でエメラルドのような緑色の瞳のとてもキレイな顔をしたスラリとした長身の男性で、驚いたような顔をした後、心配そうに目を細め美月の顔を見つめた。


「良かった。もう、目を覚さないかと思ったが…体は大丈夫か…?君…一週間も目を覚さなかったんだ!!」


 そう言いながら美月の近くまで来た男は、ベッドの横に置いてある木製の椅子に腰掛けた。


「水…飲めるかな…?一応、魔法を使って体調などは管理していたんだが、どこか痛い所とかは無いだろうか?」


 少し心配そうに目を細めながら、優しく美月に問いかけた男性は、置いてある水差しから水を注ぐと、美月を支えようと手を伸ばした。


 男性の手が美月向かって伸びてくる その仕草に恐怖を感じた美月は驚いて目をギュッと瞑り体をビクつかせてしまう。


「すっ…すまない…!!突然知らない男に近づかれたら怖いよな。私は、この屋敷に住んでいる公爵のクロード・ファルスター。この辺りの領地を管理している領主だ!君を傷付ける事は絶対にないから、大丈夫だよ……

 まぁ…突然こんな事を言われても訳が分からないよな……君と一緒に居た獣人の男の子を呼ぶかい?彼も一緒に保護をしているんだ」


クロードが、焦ったように慌ててそう言うと、美月は、少し考える様な仕草をした後ゆっくり頷いた。


 するとクロードは、静かに立ち上がり一度部屋の外に出ると、扉の前で誰かに支持を出し始めた。


 何やら色々と指示を出していたクロードが、部屋に戻ると美月のベッドの横にある椅子にもう一度腰掛けて優しく微笑みながら美月を見つめている。


 その後すぐに、誰かが近づいてくる足音が聞こえてくると、美月の部屋の扉がノックされ入室の許可を求める声が聞こえてきた。

 クロードが入るようにと返答すると、静かに扉が開き、美月を檻から出してくれた団長に連れられてルイが一緒に入って来た。


「良かった…目を覚ましたんだな!俺…もう…お前が目を覚さないんじゃないかって、すごく心配したんだ…本当に良かった!!」


目に涙を浮かべて、嬉しそうに喋るルイを見て、美月も少し安心したようにホッと息を吐く。


 それを見ていた、団長も優しく微笑むと美月に喋りかけてきた。


「本当に良かった!みんな心配してたんだ!」


 そう声を掛けてきた団長に対して美月は、少し不安げに顔を上げて見つめ返した。


「あぁ〜ごめん!自己紹介がまだだったな!俺はこの国の騎士団に所属している、第二師団の団長を務めるアルベルト・ファルスターだ!体は大丈夫か?喉が渇いているだろ?もし飲めるならルイに飲ませてもらえ!」


 そう言いながら、慌てて団長は片手で軽くルイの背中を押し出して美月の前に寄越すと、水を飲ませるように支持を出す。


  明るい所で見たアルベルトは、黒髪の短髪で濃紺の瞳に逞しい体つきのとても背の高いワイルドなイケメン男性だった。


 ルイの事も捕らえられていた部屋で見ていた時は白っぽい耳と尻尾だと思っていたが、明るい所で見るとグレーがかったシルバーのとてもキレイな色で、日の光を受けてキラキラしている。

 瞳の色は黄色がかったオレンジでとても可愛らしい子だった。


 ルイに支えられながら美月は、少しずつ水を口に含む。


それを見ていたルイ達は、安堵の表情を浮かべて嬉しそうに美月を見つめた。


 少し冷たい口当たりの良い水を、ゆっくり飲み込んだ美月は、今まで閉じていた気持ちが溢れて出たように大きな瞳に涙を溜めて、ルイ達を見つめると……

 一気に涙が溢れて大きな声で泣き出した…


 隣で支えていてくれたルイは、そんな美月を切なそうな顔で見つめると、そっと抱きしめながら


「大丈夫…もう大丈夫だよ…」


と何度も呟いて美月の背中を摩ってくれていた。





 美月が、ある程度 落ち着きを見せた後……

 クロードは、眠っていた間の事を、美月に細かく説明しだした……


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