4 コレクション


 どのくらい時間が経ったのか分からないが、長い間、2人で夢中で会話をしていると、先程、男が出て行った扉の方から複数人が歩いてくる音が聞こえてきた。


「しっ!!黙って!!」


 狼の獣人のルイが、逸早く気付き美月を黙らせる。


 ギイッ…と、少し錆びついた音をさせながら、ゆっくりと扉が開き、扉の外から数人の男性と1人の女性が姿を現した。


「ミシェル様。こちらになります」


 小綺麗な男にエスコートされながら入ってきた、ミシェル様と呼ばれた女性は、美月の入っている檻の前までやってくると


「この子が、さっき言っていた子かしら?」


 少々ゆっくりした甘えたような喋り方のミシェルは、緩くカールした長い茶色の髪に茶色の瞳の特にコレと言った特徴のない若干日本人寄りの顔の女性だ。


 真っ赤な胸元のあいたスレンダーラインのドレスを着てあまり無い胸を強調している。


 エスコートしていた男性の方がキレイな顔をしていて、身長こそ、170㎝前後とそこまで高くはないが、細身で、高級そうなスーツを着こなしていた。


 ミシェルは、小綺麗な男に問いかけながら、まるで珍しいモノでも見るように美月の事を指さしている。


「左様でございます。先程、私の部下が川の近くで見つけたようで、現在、主だった貴族の中に行方不明になっている子供がいないか調査中ですが、今のところ、届などは出ていないようなので問題ないと思われます」


 小綺麗な男は、美月の事を色々しらべているみたいだが、今のところ特に有力な情報などはなく、身元は分からないようだ。


 ただ、美月に聞かれても、美月自身も何も分からないので、どうしようかと視線を彷徨わせ、悩んでいるとミシェルが美月に向かって話しかけてきた。


「あなた…こちらにいらっしゃいな!少しワタクシとお話し致しませんこと…?」


 ミシェルは、美月を呼び寄せると、小綺麗な男とは、また別の男に鍵を開けるように促した。


 美月は突然の事で、どうしたらいいのか分からずに、固まってしまい その場から動けずにいると、鍵を開けた男が遠慮なくズカズカと美月が居る檻の中へ入ってきて、美月腕を強引に掴むと、そのまま引き摺るようにミシェルの前に連れ出された。


 ミシェルの前に強引に立たされた美月は、何が起きたのかよく分からない内に、美月のすぐ後ろで屈んだ男に、後ろから手を回されて、お腹の辺りを拘束される。


 そして、そのまま髪を掴まれて後ろに引っ張られると、顔を、ミシェルの方に上げさせられた!


「やっぱり!!あなた綺麗な顔をしてるじゃない!」


 ミシェルは、嬉しそうな顔をして、胸の前で合わせた両手を軽く叩くと、まじまじと美月の顔を覗き込んだ


「貴方、ワタクシのモノになる?ワタクシ子供って、あまり興味が無いのだけど……貴方はとてもキレイな顔をしているから、ワタクシのコレクション達の仲間に入れてあけでもよろしくてよ!」


 美月にとんでもない提案をしてきたミシェルだが、コレクションに入る以前に、美月は女の子である。


 女だとバレたら大変な事になるんだと、先程のルイとした会話で教えられた為、美月は慌てて拒否をした。


「むっ…無理です!誘って頂けて大変光栄ですが、お断りさせて頂きます!」


  若干、子供らしくない返答だか、キッパリ断った美月は、周りに居る人達の空気が凍りついているのに気がついた。


「あ…貴方……ワタクシの提案を否定なさるの…?子供だと思って…何でも許されると思ったら、大間違いですのよ。女性に意見をするなんて、してはいけないと家で教わらなかったの!??もういいわ……少しキレイな顔をしていたから、ワタクシのコレクションに入れておいて、もう少し大きくなったら遊んであげようと思ったのに…興味が失せたわ……

 1ヶ月後にオークションがあるから、それまでに、この子を少し躾けておいてちょうだいな。今のような反抗的な態度じゃ、お客様の前に出せないもの!!貴方も、せっかくワタクシが可愛がってあげようと思ったのに……オークションに来るような、変態のおばさま達に可愛がって頂きなさいな!!じゃあ、後は適当にしておいて!!」


 少しイライラした顔をしながら、男達に吐き捨てるように告げるとミシェルは、そのまま少し足早に小綺麗な男と去って行く。


「お前…ミシェル様に反抗するなんて…正気か?子供でも許されないって事を、しっかり教えてやるからな!!」


そう言いながら男は美月を睨みつけると、思い切り突き飛ばした。


 美月の体は今、幼女の姿なので、勢いよく後に倒れ尻もちを付いてしまう。

 

 前の世界でも乱暴な事などされた事がない美月は、混乱し、恐怖で目を見開いたまま尻もちをついた状態で直ぐには起き上がれなかった。


 男はそんな美月の様子を気にも留めずに、美月の髪を引っ張り上げると、そのまま引き摺りながら美月が居た檻の中に放り込んだ。




 そこから先の美月の生活は悪夢のようだった。


 常に薄暗い檻の中で、1日に2回しかない簡素な食事が運ばれてくるたびに、女性に逆らうなんてと細い棒状のムチで何度も打たれた。


 泣いて謝っても許しては貰えず、ルイが止めるように口を挟めば、ルイも一緒に叩かれ、初日こそルイと元気に喋っていた美月だったが、日を追うごとに段々と会話も減り、オークション日が迫った頃には、人形のような虚ろな目で前を向いて座ったまま動かなくなっていた。


 そんな日々を過ごしていたが、到頭オークションの日が訪れた。




***




「おい!!出ろ!!」


  男が鎖がついた首輪を持って美月の前に現れた。


 美月に乱暴に首輪を付けると、首輪に付いている鎖を引っ張りながら何処かの部屋に連れて行く……


「そこに置いてある水で、体を流してから、そこの服に着替えろ!もたもたするなよ!!いいな!!」


 厳しい顔をした、有無を言わせぬ男の言葉に、美月は虚ろな目で前を見ると、1メートル四方の丸い木製のタライの中に水が張ってあって、その横の棚に洋服が置いてあった。


 男は吐き捨てるように指示した後、美月が逃げないように部屋の壁に付いているフックに鎖を付けてから外に出て行った。


 美月は一度…目を瞑ってから、無言で男言う通りに身体キレイすると、置いてある何処かの宗教団体の服のような真っ白い、麻っぽい布のボタンシャツとズボンに履き替えた。


 着替え終わった美月は、その場で、じっと前だけを見つめ、真っ直ぐ立って男を待つ…


 暫くしてから現れた男は、何も言わずに、美月を強引に引っ張るようなかたちで連れていき……

 そのまま、大きな荷馬車の前まで連れて行かれると、小さな檻の中に無理矢理入れられた。

 馬車の中は木箱が丁寧に積まれており、隣にはルイが入れられている檻もあった。


「おい…大丈夫か….」


 ルイが心配そうに眉を寄せて声をかけるも、美月は、ぼーっとしたまま、瞳に何の色も映さずに前を見つめて答えない……



「きっと大丈夫だよ…いい奴に買って貰えるかもしれないし、いつか…絶対いい事があるから!なっ!?」


 


 ルイは、自分にも言い聞かせているように、少し瞳を潤ませながら美月に語りかけた。


 ルイの心配を他所に、美月は結局、何の言葉も発さないまま……お互い無言で馬車の走る音だけが響いていた……




結構な距離を進んだ頃、馬車はゆっくり停車した。



……



……

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