3 魔法大国ファステリア
「お前…….この状況で……最初の質問がそれって正気か?」
男の子は、戸惑い気味に不機嫌そうな声を出して、美月に問いかけてきた。
( 喋った!!!やっぱり人間だ!!!!)
美月は、男の子がせっかく喋りかけてくれたのにも関わらず、顔だけは男の子の方向けているが男の子に付いている耳と尻尾に気が取られ、完全に、心ここに在らずで、男の子の問いかけを無視したまま自分の世界に入り込んでしまっている。
「おい!!!お前……聞いてんのか??だいたい、この耳だって、別にこの辺りじゃ珍しいモンでも何でもないだろ!」
男の子は、少しイラッとしながら美月に話しかけるものの、美月は、男の子の方を見つめたまま何かを考えているような雰囲気で答えない。
( えっ???今…この辺りでは珍しくないって、言ったよね??どういう事?? まさか……この辺で、動物のコスプレが流行ってるとか?? まぁ…何年か前に、私達の周りでも、動かせる獣耳の被り物なんかが流行ったりしていたけど……)
そんな、頓珍漢な事を考えながら自分の世界に入り込んでいた美月は、男の子のついたため息で、ハッとして我に返ると意識を男の子の方に戻しだした。
「お前…大丈夫か…?」
何度、問いかけても、心ここに在らずで返事をしない美月を、頭でも何処かにぶつけておかしくなってしまったのかと少し心配になった男の子は、先程よりも優しく問いかけてきた。
すると美月は、やっと男の子の存在に気づいたのか、慌てて謝り出した。
「ご…ごめんなさい。だ…大丈夫……!状況的には全然大丈夫じゃないけど……身体と頭は大丈夫…だと思う…よ……?」
しどろもどろになりながらも答えた美月は、今の記憶が無い自身の状況を男の子に話してみれば、色々教えて貰えるかもしれないと、今の状況などを確認してみる事にした。
「あのね……私…森の中で、何でかは分からないけど、倒れていたみたいで……気が付いた後に誰か居ないかって思って探していたら、ここの男の人達に見つかっちゃって無理矢理連れてこられたの!
森で倒れるよりも前の記憶が無くて、ここが何処だかも、自分が誰かもよく分からないんだけど……貴方は此処が何処だか知ってる?」
美月が男の子に質問すると、先程の失礼な態度の美月とは違い、男の子は親切に美月の質問に答えてくれた。
何度も質疑応答を繰り返した末に、美月は、大体のこの国の状況が理解できてきた。
【ファステリア帝国】
海に面した緑豊かな大国。
広大な土地と豊富な資源がある。
昔から、ファステリア帝国で生活している人々には、魔法が使えたこともあって、その魔法のお陰で、より国が栄え豊かになっていった。
魔法を使用する事により、元々の魔力より一層、魔力が増加していき、それに伴って人々の寿命も伸びていったようだ。
魔力が高ければ高いほど長生きになり、その弊害として子供の数がどんどん低下していったらしい。
今では、平均寿命が300〜500歳位に伸びていて、それに伴い、赤ん坊の出生率は年に数人生まれるか生まれないか、女の子に至っては、何年かに1人生まれれば良い方らしい。
子供はとても大切だと考えられているので、産まれると貴賤問わずに必ず国に届け出る必要があり、届け出された子供達は、国を挙げて保護をしていく決まりになっている。
そんな深刻な状況の中なので、子供や女性は特別、大切にされるようで、女性に至っては、男尊女卑ならぬ女尊男卑の最たるもので、女性が何をしても、基本的には咎められる事は無く、法を犯したとしても、基本的には罰金刑、一番重くても死刑にはならずに、国の管理している屋敷の一室に隔離されて、夫がいれば夫と一緒に、居なければ国の研究機関にある検体を使って、魔法で妊娠できるかの実験をされる日々を、おくらないといけない。
女の子の美月にとって、その話は、何とも言い難い内容で、胸に言いようのない引っ掛かりを覚えた。
「…そう言う事なんだね……でも、そうなると…私達ここに入れられているって事は…どうなっちゃうの…?」
美月は、少し恐ろしくなりながらも不安な気持ちで男の子に問いかけた。
すると、別に大した事じゃないように、淡々とした声で、男の子は答える。
「そりゃ!金持ちの貴族の女に買われるんだよ」
そう言った男の子は、先程の彼との会話の中で、彼が、狼の獣人の子供で、10歳になるルイと言う少年だと自己紹介された。
薄暗くてよく分からないが、白っぽいフサフサの耳と尻尾が生えているキレイな顔をしていそうな男の子だ。
獣人達には、彼らの国もあるものの、年々緑が少なくなり、砂漠地帯が増えつつある為、資源が減り、あまり豊かな国ではなくなってきているようだ…
魔力自体も、ファステリア帝国ほど多くないので、寿命も短く、その所為なのかは分からないが、ファステリア帝国ほど少子化に悩んでいるわけではないらしい。
ファステリア帝国の人間よりも、多少、力は強いが、知能と魔力は劣る為、攫われたり、親に売られたりした子供は、この国での下働きの様な仕事や、金持ちの愛玩動物として買われているのが現状みたいだった。
雇い主に気に入られると、魔法で従属契約を結び、そうする事により、魔力を分けてもらえるようになる為、それにより他の獣人よりも長生きする事も可能なようで、契約している間は、主人と同じ様に長く生きられるようになるらしい。
ただ、定期的に魔力を分けて貰わないといけないみたいで、雇い主に必要とされなくなると、魔力を供給されなくなり、その内、本来の寿命がきて亡くなってしまうそうだ。
「俺も家が貧乏で子供も何人かいるし、そうなると家族みんなが食べていくのが難しくて……ココに売られて来たんだ……」
少し淋しそうな声で話し、俯いたルイが心配になりながらも美月は質問を続ける。
「ここは…人身売買する場所なの??こんな風に人を売り買いしても大丈夫なの???」
「お前…小さいくせにしっかりしてるなぁ….!流石ファステリア帝国の子供だよ!!!」
鋭いツッコミをされて美月は少し焦るが、必死に平静を装いながらルイの答えを待っている。
「そうだよ。この何日か後に、この辺りの何処かの会場で、金持ちの貴族を集めたオークションをするんだ。きっと金持ちの貴族の女に買われて、好きなように扱われて飽きたら、その辺に捨てられるさ!」
何でも無いような口振りで答えるルイは、その他にも色々な事を教えてくれた。
人身売買を行なって見つかったところで、女性の場合は罰金を支払ってお終いなので、調査なんて滅多にする事は無いし、しても意味がないと言う事。
ただそれは女性に限った事で男性が主体で闇オークションなどをひらけば、よくて投獄、最悪の場合、領地没収のうえ魔力を封じられて、国外追放などもあるらしい。
そんな事よりも、人間の子供なんて特に珍しく、売りにだされたら、男の子なら無理矢理自分の夫や彼氏にさせられて好き放題に、もて遊ばれるし、女の子なんて、売りに出される事は、まず無いけれど、もし仮に売りに出されたとしたら、とんでも無い事になると教えてくれた。
美月は、その話を聞いて本気で焦り、恐怖で身体が硬くなるのを感じていた。
「なぁ…お前…さっきからちょくちょく私って言ってるけど女なんて…事は…ないよなぁ…?」
只でさえ、恐怖と焦りでパニックになっている美月に、追い討ちをかけるように鋭い指摘をされて、よりパニックになり、胸が早鐘を打ちだす…
「えっ…えっ…えっ…なっ…何言ってるんだよ…!そっ…そんな訳ないだろ!たっ…多分記憶が無いから、しゃ…喋り方もよく分かっていないんだ…!きっと…!」
目を白黒させて、突然、使った事も無い男言葉を使いながら焦る美月は、最後は尻すぼみになっていき、自分が何を話しているのかよく分からなくなっていた……
「ふ〜ん…まぁ…そりゃそうだよな!人間の女の子供なんて居るわけないし、もし産まれたなら家族中で大切されるんだから、目なんか離すわけないし、攫われたりなんてする訳ないもんな!」
ルイのその言葉に、言いようのない寂しさを感じた美月は……少し気持ちが落ち込んだが…暫く経つと、少し落ち着いてきたようで、一度、小さく頭を左右に振ると、自分中で気持ちを切り替えて、まだある疑問を口にした。
「ねぇ、女の人が小さい子供を夫にするってどう言う事なの?」
美月は、会話の途中で気になった話を聞いてみた。
「あーアレはさっきも話したと思うけど、女が極端に少なくなってきているから、自分の好きなだけ夫や彼氏を作ることができるんだ。」
女性の少なさに危機感を覚えたファステリア帝国は、数百年か前から一妻多夫制を実施しだした。
だが、現在に至るも余り効果が現れず、子供は減少の一途を辿っている。
とうとう年齢や種別も制限されなくなり、女性側の意見がかなり有利に働くような国に、変わりつつあるようだ。
上位貴族や王族ならまだしも、獣人や一般の男性の意見など、あって無いようなものらしい。
今まで、彼氏すらいた事のない美月には、想像する事も出来ずに、目を丸くして、ただ呆然とルイの話を聞く事しか出来なかった……
ただ美月思った事は……
これが噂のの異世界転生!?あの小説とかゲームでよくあるやつだよね??最近流行りの!!流行りに乗ったの?この私が!?
魔法大国だって!!!私にも魔法が使えたりしちゃう!?敵とか倒したり、イケメンの王子様とかに出会えちゃったり……!!ヤバい……念願のイケメン彼氏ゲットなんじゃない!?
あっ……でも……私…小説も読まないし、ゲームもした事無いんだけど、よくある悪役令嬢とかでは無いよね??大丈夫か私……?回避とか出来ないぞ……!もう既に詰んでるとか無いよね!?
などと、この世界の事を軽く考えている美月は、この先の苦労をまだ何も理解していなかった……
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