2 それって本物!?


「おい!!いい加減起きろ!!!」


 男の乱暴な怒鳴り声で気が付いた美月は、よく分からない薬を嗅がされたせいで、鈍く痛む頭を押さえながら起き上がった。


(何なのここ…)


体を起こした美月は、自分が置かれている状況に気が付き愕然としてしまった。

 

 そこは…窓一つない薄暗い地下室内のような場所で、部屋の中は、あまり掃除などはしてないようで、ひどく埃っぽい。

 

 広さは200平方メートルくらいあり、広々としているが、直径3メートル四方の檻がいくつか置いてあり、部屋の隅には幾つもの木箱が乱雑に積み上げられていた。


 美月は、その中の幾つかある檻の一つに入れられているようだった。

 

 檻の中には薄汚れた毛布一枚と、ペットが食べるような容器に入った水、その容器と対になっている容器に入った硬そうなパンが転がっているだけだった。


(コレは絶対にマズイ…でも、抜け出す方法なんて全く思いつかない……)


 いくら日本で育った平和ボケした美月でも、今の自分が置かれている状況のマズさだけはハッキリと理解していた。


「おい!!小僧…聞いてんのか!?」


 美月を連れ去った2人組の男とはまた違う別の男が、美月が入っている檻の鉄格子越しに、イライラした様子で話しかけてきた。


(えっ……??小僧………???私って男の子なの……???)


 美月は、川に映った、ぼやけた幼女の姿しか分からず、前世が女性だった事もあり、自分は女性だと疑ってすらいなかったが、よくよく考えてみると自分自身が男なのか女なのかも分からずに余計に混乱していった…….


 男は、何度話しかけても、心ここに在らずで、返事もしない美月に、とうとう痺れを切らした様で、怒り出し鉄格子を苛立ち紛れに足で思い切り蹴り付けた!!


     

      ガシャン!!!!



 鉄格子の金属音に、ハッと我に返った美月は、やっと男の方に意識を傾けると、怒った様子の男の姿に、少し恐怖を感じ…目を丸く見開いて、男の顔を仰ぎ見た。


「お前、いい加減にしろよ。聞いてんのか?子供だと思ってナメてると痛い目みるからな!!」


 怒っている男は美月の事を睨みつけながら、鉄格子越しに思い切り怒鳴りつける。


 あまりの男の剣幕に唖然として、声も出せない美月は、震えながら声にならない口をパクパクさせる事しか出来ない……


「おい小僧、もうすぐここにご主人様が、お見えになるから、大人しくしてろよ!!変な気なんか起こすんじゃねぇからな!!」


 男は、美月に対して吐き捨てるように告げると奥の扉の方へ歩いていき、乱暴に扉を開けると出て行った……


 1人檻の中に取り残された美月は、呆然とし、何が起こっているのか訳が分からずに、扉を見つめてながら只々、震える体を小さな手で抱きしめる事しか出来なかった。


 男が去ってから、どの位の時間が経ったのか分からないが、少し落ち着いてきた美月は、辺りを見回し、よく観察しながら自分が置かれている状況を、未だに混乱が残る頭で必死に考え出す……


 とりあえず今は、自分が男なのか、女なのかを確かめないと!


 美月は手を伸ばし履いているズボンの上から、恐る恐る男の子を象徴する物体があるのか確かめてみた。


 ……


 無い……よね……???


 えっ……無いよね……!?


 美月はもう一度ちゃんと確認する……


 なんだ…!!!


 やっぱり女の子なんじゃない!!!


女の子だと確信した美月は、少し安心すると、どうして男が美月の事を男の子だと勘違いしたのかを考える。


(男でも女でも小僧って呼ぶひとなのかしら???それともズボンを履いているから男の子のと間違えたとか??)


 色々頭を悩ませて考えたところで、正解が分かるはずもなく、答えなど出ないので、とりあえず自分が女の子だとバレた方がマズイと本能的に感じ取ったのか、仮に男が、美月の事を男の子だと勘違いしていても、そのままにしていようと決意する。


 そんな事を考えていた美月は、自分が入っている檻の前方、少し離れたところにある同じ様な檻の中で、何かが動いた気配がしたのを感じ、気になってその檻の中を、じっと見つめだした……


……


……


(あっ……やっぱり何かいる……!!)


……


 美月がその檻の中をじっと見つめていると、檻の中に置いてあった、薄汚れた布の塊がモゾモゾと動き出した……。


 すると、動き出した布の中から犬のような三角形のピンとした、フサフサな耳が顔を出した!!!



(!!!!!動物…???)


 布の塊の大きさからして、犬にしては、少し大きそうな動物が、包まれている布から目が離せなくなった美月は、息をするのを忘れてしまったかのように、丸まった布をじっと見つめている。


(大型犬か何かかなぁ?なんかドキドキする!)


 そんな事を、美月が考えていると、耳の近くまで被さっていた布が下に落ちていき…


……


……


……


(えっーーー!!!人ーーー間ーーー!?)



 落ちた布の中から現れたのは、三角形のフサフサした耳と、フサフサの大きな尻尾が生えている、美月より少し大きな男の子のようだった!!


(何…???何なの…????コスプレ君………!?どういう事……?????ずっと檻に入ってると強制的に動物の耳とかつけられるとか…!?まさかの…動物のコスプレ好きな変態屋敷…!!!???)




 美月が軽く、パニックになっていると、その犬のような耳と尻尾をつけた男の子が、ゆっくりこちらに振り向いた。


 薄暗い部屋の中で、はっきりとした顔は分からないが、男の子が、こちらを向いている事だけはわかったので、美月は思い切って男の子に話しかけた。


「こっ…こんにちは…!」


 美月は、少しビクビクしながら男の子に話しかけると……男の子は、特に何も言わないけれど、頭の上の耳だけはピクピクと動いた。


(耳が動いた!!!)


美月はビックリして、男の子の耳を凝視しながら、どうしても気になって仕方がない事を男の子に聞いてみた……


………


………


「ねぇ……あなたの…その耳って本物……!?」


………


………


………



2人の間に沈黙が落ちる……



………



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