第一章〜幼少期〜 1 ここは何処、私は誰?


 森の中で目覚めた美月は未だに森を彷徨っていた……


(ここは、いったい何処なんだろう???)



 美月は草木が生い茂る、薄暗い森の中を民家や人がないか探し歩いたが、ゴツゴツした石や岩も多く裸足の為、擦り傷などで足が痛み出し、薄暗いので視界も悪く、よく知らない森の中を、右に行けばいいのか、左に行けばいいのかも分からずに、途方に暮れてしまっていた。


(はぁ…もう足が痛すぎる…!!何でかは分からないけど、私、自身が小さくなってるから全然 歩いても進まないし!!だいたい何で私…裸足なのよーーー!!!)

 

 とりあえず足が痛むので、近くに20〜30㎝ほどの座り易そうな岩の上に腰掛けて、今、着ている洋服の裾を裂いて即席の靴下でも作ろうかと考えた。


 美月が今、着ている服は、半袖の膝下のベージュのワンピースみたいな布で、その下には薄手のサルエルパンツみたいな物を履いている。

 なんとなくアジア系の服に近いようで着心地は悪くない。


 そんな事を思いながら美月は、スカートの裾の部分を必死に裂こうするが手が小さい上に、握力も以前より全然少ないので、布がまったく裂けていかない。


「ふぬぬぬーー!!!」

 (あぁーもう何この体!!!全然力入らないじゃん!!いっその事、ズボンの裾を結ぶ?でも、そうすると脱げてきちゃうし、余計に歩きずらい…!しかも半分脱げた所を誰かに見られたら恥ずかしすぎる!!ゲッ……ヤバっ!!!暗くなってきた!!)


 このままでは、夜になってしまうと焦る美月は、頭を抱えながらどうすればいいか必死で考えるが、全然いい考えが浮かばずに、呆然と目の前の大きな木を見上げながら、途方に暮れてしまっていた。


 そんな時、何処からか分からないが、微かに、サヤサヤと水が流れている様な音が、聞こえた気がした。


 逸る気持ちを必死に落ち着かせ、耳を澄ませた美月は、やはり何処かで水が流れていると確信した!!


 痛む足を抑えて必死に水の音がする方に歩いて行くと、少し開けた場所に日の光を受けて銀色に輝く緩やかな水が流れている川を発見した。


(やったーーー!川だーーー!!!)


 川を見つけた美月は嬉しくなって、痛む足の事も忘れ、小走りで近づいて行きながら、汚れている手足や顔を洗おうと思い、川の中でも比較的浅くて緩やかな流れの場所を探し出した。

 

 キラキラと光を反射して、石や細かな砂の形でさえも、ハッキリ分かるほどの澄んだ水を覗き込んだ美月は、その場で固まってしまった。


 ……


 エッ………


 嘘でしょ…


 誰………?


 コレ…???



 覗き込んだ川の中に、薄ぼんやりとしていて、はっきりとは分からないが、薄い髪色のボブヘアの小さな可愛い幼女が映っていた。


 混乱した美月は自身の思いを打ち消すように頭を振り、辺りを見回すが、周りには誰も居らず、水の中の少女は美月と同じ様な動きをしている。


(エッ…まさか…この、5歳くらいの幼女が私…!?もしかして、あのトラックと衝突した後に、一度死んで、転生したとか!?そんな小説みたいな事、本当にあるの???そうだとしても、この少女の記憶なんか全然無いし……私と一緒に事故にあったお父さんやお母さんは…どうなったの??それに小さい私(?)の両親は??なんで私は1人なの??)


考えれば考える程、混乱していくのと同時に、言いようのない寂しさや、悲しみが込み上げてきた美月は、呆然と、自分の目の前に映っている少女の姿を眺める事しか出来なかった……



………



 どのくらい時間がたったのかは分からないが、 ハッと我に返った美月は、辺りが一層、暗くなっているのに焦りを感じ……まわりを見回した。


そんな時、何処かで誰かの話し声が聞こえた気がした。

  

(何処かに人が居る!!)


 そう思った瞬間、美月は、ありったけの力を振り絞り必死に声がした方に走り、叫んだ


「誰かー!誰か居ますかー!?」


 幼い姿の美月が必死で叫ぶ声に、気が付いた二人組の男性が、少し驚いた顔を浮かべた後、美月の方へゆっくり歩いて近づきいてきた。


 彼等は小声で何かを話をしている。


「おい、子供だぞ…!!」


「まさか…….なんでこんな所に子供が1人で……?」


「すげー!!ラッキーじゃねぇか、このままコイツを連れて行けば大金が手に入るぞ!!」


男達が歩きながら、何やら不穏な話をしているが、森で目を覚ましてから、自分の現状を理解出来ずに、混乱している美月は、やっと見つけた美月以外の人間に舞い上がり、男達の会話に全然気が付かない……


 これで色々、教えてもらえるし、警察などで保護して貰えるように、手伝ってくれるかも知れないと、期待を胸に話しかけた。


「あの…道に迷ってしまったみたいで、此処が何処だかも全然分からないんですけど教えて頂けますか?」


 美月は幼女には似つかわしくない喋り方で、男達に尋ねると、男達はニヤニヤしながらいやらしい顔で近づいて、1人の男が、美月の前に立つと、有無を言わさず美月を片手で持ち上げて、そのまま片側の肩に担ぎ上げた。


(えっ、ちょっと待ってどういう事?)


突然の事に何が起きたか分からない美月は、パニック状態の為、声も出せずに目を白黒させて男に担がれていく…


  男達が少し歩き出したところで、流石にマズイと我に帰った美月は、抵抗しなければと思い、小さな手足をバタつかせて男達に叫んだ。


「ちょっと下ろして下さい!!!何処に行く気ですか!?私をどうする気ですか!?」


 必死に声を掛けるも、無視をしながら、機嫌が良さそうに歩いて行く男達に、焦りを感じた美月は、男達から離れようと、より一層手足をバタつかせて抵抗した。


 男達から逃れようと必死に対抗していた美月は、勢い余って、隣を歩いている男の顔に思い切り手が当たってしまい、少し焦って、一瞬動きが止まってしまった。


 手が当たってしまった男は、少しイラッとした顔をしながら美月を睨むと、怒鳴りつけた。


「いってーーな!!このガキ!!!少しうるさいんだよ!!面倒くせぇから黙ってろ!!!!」


 そう言いながら男は、ポケットに入っていた薄紫色の液体が入った小瓶を取り出すと、美月の鼻の近くに持ってきて匂いを嗅がせてきた。


 咄嗟にマズイと思った美月だが、小瓶の中の、甘ったるい空気を吸い込んだ瞬間から、美月の意識は、段々と薄れていく。



 薄れいく意識の中で美月は、父と母の顔が浮かび、家族3人で平凡でも楽しかった日々が走馬灯の様に思い出された。




   助けて………




 そう思った瞬間…美月は また、意識を手放した……

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