プロローグ こうして異世界へ
少女が森で目覚める少し前……
……
「おーい!美月!!今日は母さんとの結婚記念日だから、家族でレストラン行くぞ!覚えてるか!?父さん、夕方には帰るから、お前も寄り道しないで学校から早く帰って来いよ!」
「もう!分かってるってば!!!」
母の事が大好きな父は、自分達の結婚記念日に朝からウキウキで幸せそうに顔を綻ばせ美月に話しかけてきた。
学生の頃、母親に一目惚れした父親は、猛アタックの末、母と付き合える事になり、約10年間の交際を経て結婚した。
父は、母と常にラブラブで、ご近所ではオシドリ夫婦として有名だった。
3人家族の為、ことある毎に、美月も一緒に駆り出され、半ば強制的に付き合わされている。
面倒くさそうなフリをしながらも本当は、そんなに嫌ではない美月だった。
父親は、身長が170㎝前後で、中年太り気味の優しそうな顔の男性だ。
争い事が嫌いで、母親と喧嘩している所を美月は見たことが無い。
母親は160㎝位のスラットした女性で、娘の美月から見ても綺麗な母親である。
基本、言いたい事はしっかり言う母親で、見た目は虫も殺さなそうなのに、おっとりした顔して毒舌な、ちゃっかりした母親だった。
そんな母親に父親は、完全に尻に敷かれていた…
美月は、そんな父親にそっくりだった…
そんな両親を持った美月だが、両親の結婚記念日の今日に至るまでも、何日も前から父は「何処のレストランにするのがいいかなぁ?」とか「プレゼントは何が喜ぶかなぁ?」とか、ウザい程、聞かれまくっていて「いい加減に母親に聞け」と、キレたのが3日前の話だ!!
それからまだ数日しか経ってないので、忘れられるはずもないのに、朝っぱらから更に念を押された美月は、父親に若干のウザさを感じつつも、そんな父を少し可愛いと思ってしまう、ファザコン気味の高校生だった。
***
美月は、父親に適当に返事をしつつ、学校へ向かう準備をはじめる。
朝ごはんを、家族3人で食べ終えて、仕事に向かう父親を横目に美月は、黒く肩下まであるセミロングの髪を整えて制服に着替える。
黒髪、黒目に、157㎝と、平凡な見た目に、平凡な体型の美月は、準備が終わると急いで学校に向かった。
***
「美月、おっはよーう!今日、学校終わったらみんなでカラオケ行かない?」
中学からの親友の安藤玲子に朝から挨拶されて、軽い雑談をしながら教室に向かう。
安藤玲子も少し茶色がかった黒髪のロングヘアで黒目、背は少し高めだが、あまり目立った特長は無い女の子だった。
安藤玲子は、中学生の時に同じクラスになってからの親友で、中学のときに入ったテニス部も一緒だし、通う高校も同じになった事で、更に絆が深まった気がして、毎日2人で一緒に居る。
日々の行動を共にする事が一番多い親友の玲子は、今も美月と楽しそうに並んで歩いている。
……
「ごめーん!玲!今日は、両親の結婚記念日で、学校か終わったら家族で食事に行く事になってるんだ。」
美月は、玲子の方を見ながら両手を胸の前でパチンと合わせて戯ける様に軽く舌を出して謝った。
「あんたのところ本当に仲良しだね〜(笑)私もそんなふうに愛してくれる彼氏が欲しいよ…!」
玲子は羨ましそうにしみじみ呟いた。
玲子も美月も産まれてから16年間、彼氏も好きな人もいた事が無い。
もちろん告白された事もないし、中学生の頃は部活に青春を捧げていた。
中学時代、部活に青春を捧げてしまった美月は、高校生になったら絶対に好きな人を作って、リア充生活を送ろうと一念発起して(彼氏を作るのに有利になるかも!!)なんて思い、高校生になってから料理部とテニス部を掛け持ちし出した。
それにもかかわらず、気がつくと美月は…女友達と過ごす日々を送っている……
美月は、どうすれば彼氏が出来るのか完全に迷走中で、暇さえあれば玲子と2人で学校帰りに寄り道して、素敵な男性との素敵な出会いを探している。
「はぁー何処かに素敵な出会い無いかなぁ…」
そんな事を考えている間に、今日もまた美月の平凡な1日は過ぎて行く……
***
学校が終わり、急いで帰宅した美月は、靴を脱いで、洗面所に向かいながら母親に話しかけた
「ただいまーお母さーんお父さん帰って来た?」
急いで学校から帰宅した美月は、父親が帰宅すると色々とうるさいので、母親にまだ帰って来ていない事を確かめると、父親が帰宅する前に支度を始める。
この間、母親と一緒に行ったデパートで買って貰った花柄のワンピースを着て、髪をハーフアップすると、母親の元へ向かい、父親が帰るまでの僅かな間に2人で楽しくお茶をしながら、今日あった事などを話し合った。
いつもの様に、全く彼氏ができる気配がないと母親に愚痴をいっていると、すぐに父親が帰って来た。
「おーい帰ったぞー!用意出来てるか?」
父親は帰ってくるなり美月達に声をかける。
「出来てるよー!今、行くー!」
美月も少し面倒くさそうに父親に返事をすると、母親と玄関へ向かう。
そのまま家族で車に乗って、レストランへ向かい出発した。
母親も心なしか楽しそうで、いつもより小綺麗な紺色の膝下のワンピースに、髪の毛を軽くアップにした姿で微笑みながら父親の隣に座っている。
そんな両親を前に、美月も少し嬉しくなり、3人で他愛もない会話をしながら車を走らせていた。
もうそろそろ店に着きそうな所まで来たとき、ちょうど赤信号になったので、一旦停車して信号が変わるのを待つ……信号が青に変わったので、父親は車を発進させた。
瞬間、母親の焦った様な叫び声が車内に響いた。
「あなた横ーーー!!!」
母親の突然の叫び声と、横から聞こえる大きなクラクションの音で驚いた美月は、慌てて横を見ると、すぐ横に大きなトラックが迫っていた。
嘘……
ぶつかる……
美月がそう思った瞬間に、凄い衝突音とともに意識が途切れていく。
美月の意識が完全に途切れる瞬間、両親の声を聞いたような気がしたが、そのまま意識は闇の中へ。
『どうか美月だけは……』
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