第11話駆け抜けるホムンクルスちゃん
私は、一歩、階段へ踏み出した姿勢のままピタリと動きを止める。
吐ききった息をぴたりととめ、全神経を集中させる。
──ぷぅのあんな声、はじめてです。これは……
気配を、空気の流れを、全身で感じ取ろうと試みる。
何も感じ取れないまま、じりじりとゆっくりと感じられる時間の流れ。
その時だった。足へと伝わってくる、ほんのささいな振動。
私は、気がついた時には思いっきり階段の下へと向かって、ジャンプしていた。
踏み出し瞬間、ぼこりと足元がへこむ。
そのへこみが逆に急激に盛り上がり、裂け、階段の床を突き抜けるようにして、鋭く尖った物が飛び出してきた。それを視界のすみに捉えると、私はすぐに前に向き直る。
私の眼下を流れる、階段の段差。
目前に迫る、踊り場の床。
そこへ、両手両足を使い体勢を崩しながらも転ぶことなく踊り場への着地に成功する。手にしたままの鉄パイプを床に叩きつけるようにして立ち上がる。
ぷぅがしっかりとくっついて来ている事を、まず確認。
次に、ちらりと後ろを確認。
そしてすぐさま踊り場から下へと駆け出す。
「蜘蛛の、脚?」
階段の上の床を突き破ってきたものと同じものがすぐに、踊り場の床をも突き抜け、飛び出してくる。
黄色く黒い点々が散った、その蜘蛛の脚のような物は、明らかに私の身長よりも長い。
太さも、少なくとも私の胴回り程度はありそうだ。
それが次々と私のいた階段の段から、まるで追いかけるようにして、突きだされてくる。
間一髪。
無事に階段を駆け降りる。
私が下のフロアへと到達した、ちょうどそのタイミング。穴だらけになった階段が、崩落する。
もうもうと巻き起こる砂ぼこり。
私は押し寄せる砂ぼこりから、自分の顔とぷぅを守るように両手を交差させて持ち上げると、顔を伏せる。
ぴしぴしと腕に当たる細かな砂礫。
これを吸い込んでむせること。
目に入って視界を奪われること。
そのどちらもが、致命的な隙を作ってしまうと本能的に理解する。
私の腕に当たる砂礫が収まりきる前、その砂ぼこりを突き抜けるようにして、敵の本体が、姿を現した。
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