第12話納得するホムンクルスちゃん

  目の前に現れたのは、ゴブリンの上半身に、下半身が蜘蛛のようになった姿をしていた。

 私は与えられた知識の中に、似たものを見つける。


 ──アラクネです……か?


 私はゴブリンの場合でもアラクネと呼んでも良いのか、疑問に思いつつ、鉄パイプを構える。


 視線は目の前のアラクネ(仮)から外さないようにしつつ、出来るだけ周囲の状況の把握に努める。


 ──私たちが降りてきた階段は完全に崩落しています。そしてフロアの配置がこれまでと違います。このフロアは、部屋のサイズから見ても、この大きな一部屋だけのようです。


「グギャーッ!!!」


 叫び声をあげるアラクネ(仮)。

 その声に反応したのか、バリバリという音が上から聞こえる。

 天井付近をみると、いくつもの白い球体が吊り下がっている。


 ──あれは、卵?


 その蜘蛛の糸で天井から吊り下げられた卵にひびが入っていく。次々と割れていく卵。

 ぼとり、ぼとりと、割れた卵から人の形をした何かが落ちてくる。


「ゴブリンっ」


 私はすぐそばに落ちてきたゴブリンへと鉄パイプを振るう。

 生まれたてとは思えない俊敏な動きでそれを後方へと飛び退き、避けるゴブリン。


 ──速い、です! でも、これぐらいならっ。


 飛び退いたゴブリンへと追撃の踏み込み。そして、鉄パイプの中程を握っていた持ち手をスライドさせるようにして、端を握る。


 ──間合いに、とらえましたっ


 下から掬い上げるように、そのゴブリンの顔面に鉄パイプを叩き込む。

 たしかな、手応え。

 縦に回転するように、ゴブリンが吹き飛ぶと、その体が光へと変わる。


 現れたスキル・ラビッシュはいったん放置、すぐにアラクネ(仮)へと向き直る。


 すると、不思議な光景が目に飛び込んできた。

 生まれたてのゴブリン達がアラクネ(仮)の元へと集まっている。

 なにやらアラクネ(仮)が腹部をゴブリン達へと向けると、糸を噴出している。


 くるくると糸がゴブリン達へと巻き付いていくにしたがって、ゴブリンの数が減っていく。


「ぷぅっ!」

「ええ、姿が消えています。あれもスキルなのでしょうか」


 残念な事に、今、目の前で起きていることについての知識は、私の中には無い。

 しかし、スキルと考えるのが妥当だろう。


 私はいましがたの戦いで乱れた呼吸を必死に整える。

 そうしているうちに、あれだけいたゴブリン達の姿はすっかり消えてしまっていた。


 ──これまで倒してきた透明なゴブリンは目の前のアラクネ(仮)の子、だったのでしょう。


「ぷぅ! ぷぅ!」


 敵の接近と警戒を告げる、ぷぅの声。

 それを合図に、透明なゴブリン達との戦いが始まった。

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