第6話とっさに走り出すホムンクルスちゃん

「ふー。もう入りません」


 先ほどまでの、腹部をぎゅっと掴まれたような感覚はすっかり無くなった。かわりに、不思議な満足感を感じながら私は自らの腹部を撫でる。

 壁が、すっかり見通しが良くなっていた。


「さて、あまりここにばかりいても仕方ありません。パパの居所の手がかりを探してみましょう」


 壁に開けた穴を通って、部屋から出る。どうやら廊下のようだ。


 その時だった。ガンガンっと、どこからか物音がする。


 動きを止め、私はじっと耳をすます。


 ──これは、あちらからですね。あまり穏やかな音ではありません


 振り返り、視線の先にあったのは、一枚の半開きのドア。どうやら私がいた部屋の隣の部屋から、音がしているようだ。


 ──また、ゴブリンでしょうか?


 私は二度のゴブリンを倒した成功体験からそこまで警戒することもなく、半開きのドアへと近づいていく。

 ガンガンという音が大きくなる。

 何かを叩いている音のようだ。


 ひょいっとドアの隙間から部屋の中を覗く。


 そこには二体のゴブリンがいた。二体のゴブリンは手にした鉄のパイプのような物で、何かを叩いている。


 ──透明じゃありません。攻撃をしたりされたりすると見えるようになるのでしょうか。ゴブリン達が叩いているのは……


 ゴブリンのうちの一匹が、鉄パイプを振り上げ、立ち位置を変えたタイミングで、何を叩いているのか見えた。


 培養槽だ。

 私が寝ていた物と同じタイプの物。


 私はそれを見て、自然と駆け出していた。

 部屋に入るときに私の体で押されたドアが壁に激突して大きな音を立てる。

 その時には、もう、目の前には鉄パイプを振り上げたゴブリンの背中。右足で踏み込み、左膝を上げる。


 ドアの激突音でビクッと動きを止めたゴブリンの、背骨の真ん中辺りへと左膝をえぐり込むようにして、めり込ませる。


 体を逆くの字に折って吹き飛んでいく一匹目のゴブリン。

 それを見届ける事なく、とんっと着地すると、私はもう一匹のゴブリンに向かう。


「遅いです」


 半身になって、思いっきり一歩踏み込むと、腕を伸ばす。まだこちらを振り返る途中のゴブリンの顔に、拳をめり込ませる。

 こちらを向きかけていたゴブリンの顔がくるりと戻り、そのまま勢いよく反対側まで回る。

 ごきりという音を立て、首が回りきり、そのまま崩れ落ちるゴブリンの体。


 これまで同様光となって消えたあとに現れたスキル・ラビッシュを先に二つ拾っておく。


 それからゴブリンの叩いていた培養槽の様子をみようかと近づいた時だった。

 培養槽の上蓋が、ゆっくりと開き始めた。

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