第4話驚くホムンクルスちゃん
私はスキルの表示された魔法陣をまじまじと見つめる。
気を取り直し、目を閉じて改めて自分の中に詰め込まれた知識を探ってみる。
「やはり、人間のスキルの習得は、三つが上限です。そして一度習得したスキルは絶対に変えられない、となっています」
私は目を開けると、相変わらず表示されている消去しますかという文字をゆっくりと指でなぞりながら呟く。
──これもパパが面白がって間違えた情報を私に詰め込んだのでしょうか。でも、だとするとおかしいです。私がこの情報までたどり着いた時点で、与えられた知識に疑問を持った状態になっているのは明白。ここにこんな嘘の情報を入れておく意味は無いはずです。
「──もしかして、パパの知識がもともと間違っています?」
もちろん、これを含めて全てがパパの思惑通りという可能性もある。とても大きな騙しの一環。
しかし私はパパも間違うんだという事に、今のところしておく事にする。万が一、パパと邂逅を果たし、その顔に一発叩き込んだあとで間違っていたと告げるのを楽しみにしておくのだ。
その時だった。ふっと、荒れ果てた部屋の中で再び空気が動いたような感覚を感じる。
それは先ほどの透明なゴブリンが現れた時と同じ感覚。
私は優しく左こぶしを握り、体へとひき寄せる。魔法陣が消えるのを待たずに、拳を繰り出す。
なんとなく、右前方へと向かって。
ここまで、ほぼ無意識の動作だった。
ぱぁんと、肉を打つ心地よい音。
その時には、すでに足が前へと向かう。
加速する私の体。
拳への感触で、殴った対象がどこまで飛んだかの目算がつく。
軽くジャンプをすると、空中で右膝から着地をする姿勢をとる。
私の体が落下し始めたタイミングで、透明化が解けたのだろう。首が変な方向に曲がったゴブリンの体が目に見えるようになる。
地面を擦りながら後方に移動しているその体を縫い止めるようにして、右膝をその腹部へと叩き込む。
──先ほどの顔を潰した時よりも柔らかいです。
手応えの弱さに追撃をと構えるが、どうやら不要なようだ。
ゴブリンの四肢がビクッとはねると、すぐにその動きを止める。私の膝の下で、その体は光へとかわり始めていた。
立ち上がりながら、地面を見る。また、スキル・ラビッシュが落ちている。
「こんなに簡単に手にはいるのですね。だから低レベルのスキル・ピラミドゥを焦って使うと後悔するだろうという、パパの算段だったのですね」
スキル・ラビッシュを拾い上げる。
私はスキルステータスを再び表示させて、変わらずに点滅している「悪食」の文字を確認する。
「パパには残念でしょうけど、その目論見は私には意味がなかったようですね。スキルを外せるのは私がホムンクルスだからでしょうか? せっかくですから、このスキル・ラビッシュを使って、実際にどうなるか試してみましょう」
私は少しわくわくしながら新しく手にしたスキル・ラビッシュについても習得の一連の流れを行う。
「やはり、習得出来るスキルは悪食ですか。同じモンスターからは同じスキルが出るのでしょう。──スキル・ラビッシュ、インストール」
左腕の、最初の悪食のスキル・ラビッシュ近くに、新しく手にした二本目のスキル・ラビッシュを構え、唱える。
展開する魔法陣。スキル・ラビッシュが回転しながら、左腕へと潜りこみはじめる。
その時だった。
なぜか、最初の半ばまで刺さったスキル・ラビッシュを中心にして、二つ目の魔法陣が現れる。
次の瞬間、重なりあった二つの魔法陣がぐにゃっと変形するとひとつに混ざりあう。二本のスキル・ラビッシュがかっと閃光を放つ。
「きゃっ!」
私は思わず悲鳴をもらしてしまう。
気がつくと、二本刺さっていたはずのスキル・ラビッシュがきえている。
かわりに、一枚の鋭角や三角形の板状の物が左腕に途中まで突き刺さっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます