第3話考え直すホムンクルスちゃん
警戒心を維持しながら、ゆっくりと後ろに下がる。
めり込んだ私の右肘が抜け、ゴブリンがゆっくりと前へと倒れる。
その体が地面についたタイミングで、キラキラとした光の欠片へとかわりながら、ゴブリンの体が宙へと消えていく。それはまるで先程砕けて消えたスキル・ピラミドゥと同じ光。
私は不思議な気分でそれを眺める。
その欠片がすべて消えたところで、まだ何かが光っているのが目につく。
ゴブリンがいた場所には、細長い針状の物が一つ、落ちていた。
「これは、ええっとなんでしょう。……スキル・ラビッシュ?」
これは、知識にあった。
スキル・ピラミドゥもレベル一の物はこういった針状に、そしてレベル二の物は三角形の板状になるようだ。
こういったレベル一や二のスキル・ピラミドゥは、手にしても誰も習得しようとはしないクズスキルしか覚えられず、特にスキル・ラビッシュとよばれているらしい。
「どうせこれも、そもそも習得できないのでしょう。それより急ぎ、周囲の状況の確認をしなければいけません」
そのままスキル・ラビッシュを投げ捨てようとした所で、ふと気がつく。
このままスキル・ラビッシュを無視するように仕向けられている可能性があるのでは、と。最初に与えられたスキル・ピラミドゥの習得に失敗させスキル習得自体が無理なのだと、私が考えるように誘導させられていたのではないだろうか。パパによって。
なぜなら、その方が、私がより苦労するから。
「与えられた知識では所詮、クズスキルしか習得出来ないとはいえ、念のため確認だけはすべきですね。スキル・ラビッシュ、データプリパレーション」
同じように展開する魔法陣。
「習得出来るスキルは──悪食、ですか。残念ながら知りません」
私はしばし手の上の針をじっくりと見つめる。この世界に生まれてからの、全ての経験をゆっくりと思い返し、決める。
「習得、ダメかも知れませんが──スキル・ラビッシュ、インストール」
私は、ゆっくりと針の先を左腕に押し当てる。
──そもそもスキル自体を覚えられないのであれば、これは不要品です。失っても惜しくない。ダメでもともとです。それに、ダメなら少なくともスキルについて、きっぱり諦めがつくでしょう。
じっと私は成り行きを観察する。
回転を始める針。
ゆっくりとそれが私の腕の中へと潜り込んで来る。
──いよいよです。
針の半分がちょうど腕に潜り込んだタイミング。先ほどの水操作のスキル・ピラミドゥが弾き出され消えてしまったのと同じぐらいの時だった。
がきんという、金属音が響く。
「ダメで……は、ないのですか?」
そのまま同じようにスキル・ラビッシュも弾き出されるかと、諦め顔で見ていた私の目の前で、針が半ばまで刺さったまま止まっている。
私はそっと刺さったままのスキル・ラビッシュに触れる。
「抜けませんし、刺さりません。ただ、ちょっと邪魔です。あっ、スキルはどうなったのでしょう?」
私は知識を探り、フレーズを確認すると、呟く。
「スキルステータス、オープン」
針が刺さったままの左腕。その針を中心にして丸い魔法陣が再び現れる。
急ぎ、それに目を通す。
「悪食の、スキルがあります!! 低レベルのスキルなら習得できるのですね。パパは知っていてレベル三のスキル・ピラミドゥを残したのでしょうか」
ふつふつと、再び沸き上がる煮えたぎる感情。
私はそれを一度抑えようと再び魔法陣に目を向ける。すると先ほど気がつかなかった物が、目に留まる。
「なんでしょう、スキルの悪食という文字が点滅しています」
そっと点滅している文字に、触れてみる。
すると次の瞬間、メッセージが表示された。
【このスキルを消去しますか。はい・いいえ】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます