竜宮の部屋

 ウラシマの居室は、先の垂直の回廊を更に上へ進み、4つ目の角を曲がった先にあった。

「こちらでございます」

とナギに促され、ウラシマは部屋に入った。

部屋は正六角柱の空間になっており、室内にはいくつかの調度品が見えた。しかし、そのどれもが地上にあるものとは随分違った形をしている。

「部屋のものはどうぞご自由にお使いくださいませ。何かご入用のものがありましたら、どうぞ遠慮なく申し付け下さい」

とナギは言った。

必要なものと言われても、何が部屋にあるのかもよくわからない。

「ひとまず、部屋を見て回りたい。何かあれば、聞くから」

とだけ伝えた。


 ナギが出ていったのを見届けて、ウラシマは改めて室内を見回した。

「そうか、ここにも上下の別はないのか」

照明器具らしきものは一切見当たらない。どうやら壁自体がうっすらと光っているらしい。その光は竜宮に来るときに亀が発したものと同質で、浮世離れした雰囲気を室内にもたらしていた。六角柱の各辺には丸柱が見えており、それは朱塗りになっていて、海藻や魚が浮き彫りされている。そして、部屋の中央には一辺が50cmほどの立方体がぴったりと静止していた。どうやら机のように用いるものらしい。全体として、浮世離れした貴族の邸宅を思わせた。


 また、調度品の中に棚らしいものがあった。それは10段ほどの引き出しがついており、六角形の一辺を占めていた。3mほどの高さの天井まで届いており通常では手が届かない。しかし、自由に泳ぎ回れる身ならば何の苦もないであろう。ウラシマはその一つを引き出してみた。中にはナギが着ていたような衣類が収納されていた。それを見て、ウラシマは自分がいかにも場違いな服装をしているような気がした。ウラシマの服装はといえば、薄汚れたかすりあわせに寒さを凌ぐための綿入れを羽織り、腰蓑と魚入れの籠をつけているのみであった。そこで、用意された服に着替えることにした。


 ウラシマはナギが着ていたような、西洋風を思わせる上下に着替えた。体の大きさに合っているかは不思議と気にならず、何気なく手に取ったものがぴったり合っていた。また、着方も手に取っただけで頭に自然と浮かんできた。着替え終わると、室内の片隅にある回転楕円体をしたものが目についた。触れてみると、自然に手が滑り込み、なめらかな心地よさに包まれた。そのまま、腕、肩、足と包み込まれてゆき、全身がすっぽりと覆われた。そのあまりの心地よさにウラシマは程なくして眠りに落ちた。

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