第十九夜「群体の意思」

 イーグルは、彼等が群体で有る事を認識できてはいた。地球の海の中で生きる小魚がたくさんの群れを成して巨大な意思を生み出す。その、群れの大きさは、巨大な生物単体を締め出してしまう位、強大な意志の力に成る。

 イーグルは、それと同様な生命形態を持っている生物とコンタクトする事が出来た。

「君達は、個人で動く事は無いのかい?」

 群体は答えた。レスポンスがひどく遅い。

「我々は、全体の意思を最優先に考えて居る。集団の生命と治安が一番の重要課題だ。」

「成程、たしかに、それは重要な事だ。けど、もし、全体と異なる事を唱える者が現れたら、君達はどうするんだい?」

 イーグルの意思に、ざわざわとノイズが入る。ひどく不快だ。そしてそれが治まった頃に返答が有った。

「そんな、治安が悪くなる様な事は、全体の意思が許さない。したがって、そんな事を考える物は淘汰とうたされる。」

「淘汰?随分、物騒な行動に出るんだね。」

「いや、行動で示す訳では無い。大きな意志の力で異論を唱える者を説得するんだ。決して、手出しはしないよ。」

「それは、随分なストレスに成るんじゃ無いかい、その異論を唱えた物にとって。」

「それは、そんな異論を唱える者が悪いんだ。私達はあくまで全体の意思を重視する。」

 イーグルの心の中は違和感で一杯に成り、やがてそれは、怒りと言う意志で有る事に気付いた。

「地球の言葉に、“出る杭は打たれる”という言葉が有るんだ。全体と違う事を唱えると、それは異物と判断されて淘汰される。あまり、良い表現に言葉じゃ無いんだけど、君達はこの言葉をどう思う?」

「…それは、正しいい日じゃ無いのかな。だって、その物は全体と違う事を考えて居るのだろう。と、いう事は秩序が保てなくなるということに成るじゃ無いか。」

「前に進む為に正しい意見で有っても、それを否定するのかい?」

「もちろんだ、全体の意思が全てに優先する。」

「成程。君達と僕関係に成る訳だね。」

「君は、我々の意思と異なる考え方を持っているのかい?」

「…絶対多数の言う事が全て正しいとは思わない。それが個人で構成される集団ならばなおさらの事だと思うけど。」

 群体は何か言いたそうだったが、イーグルは、自らコンタクトを中止した。そして溜息をついて思った、嫌な気分だと。そして、彼等が異論を唱える者を尊重する柔軟性を身に付けてくれる事を切に思った。満場一致とは、意外と問題なことなのである、裏返すと、だれも間違いに気が付いていないのかもしれないということだからだ。

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