第十八夜「宇宙の雪」
宇宙空間にも雪は振る。いや、振ると言うよりは漂うという方が正しいだろうか。 この宇宙の雪は、宇宙船やステーションから不法に放り出されたゴミである事が多い。
ステーションの窓から見ている限りは、きらきらと輝いて、中々ロマンテックな風景になったりもするのだが、船外作業に携わる人間や、ある時は船そのものにもダメージを与える事が有る。
レーダース達にとってもこの、宇宙を漂う雪は、あまり有難い代物では無い。宇宙空間に漂って、探査だけに意識を集中する彼等にっとって、この有難くない雪は致命傷になってしまうと気が有る。
イーグルは、今日もステーション外で探査活動を行っていた。と、突然、ヘルメットの中にアラーム音が鳴り響いた。同時にステーションの管制センターからも通信が入る。
「聞こえるか、イーグル」
「はい。イーグルです」
管制官では無く管制室責任者からの直々の通信だった。これは異例な事だ。
「イーグル、良く聞いて欲しい」
「はい、何か?」
イーグルは短く返事をした。責任者からの口調で、彼が伝えようとしている内容はかなり深刻なものであることを感じることが出来る。
「君の近くの軌道を、大きめの雪が通過しそうな気配だ。そのままそこに漂っていると衝突する可能性が有る」
「分かりました。直ぐに引き上げます」
「いや、それが、突然現れた雪で君の引き込みが間に合わない可能性が大きい。そういう訳だから、コントロールフックを外して、暫く自由遊泳して欲しい。もう少し、早く連絡できればよかったんだが、こちらの不手際だ、申し訳ない」
ステーションからデータが送られ、バイザーの内側に投影された。白い影がかなりの速度で自分に向かってきているのがわかる。しかしこの程度なら、楽に
「そうですか、分かりました。暫く自由遊泳をしてやり過ごします」
「準備が出来次第救助船をよちらに向かわせる。安心してくれ」
「了解です」
その通信が切れると同時にフックが外され、イーグルは宇宙空間の闇に放り出された。彼にとっては久々の自由遊泳だった。
何の支えも無くなった時に感じる開放感と不安感がイーグルを包む。そう思えるのは確実に助かる見込みが有るからこその余裕から出てくる物であろう。
イーグルは簡易推進装置を噴射して自分の向きを宇宙ステーションに向けた。其処には沢山n雪が漂っていた。イーグルは地球で一度だけ見た事が有る雪景色に重ね合わせて、暫くの間それを眺めた。宇宙の雪は神秘的にも見えたが、しかし、地球の雪景色はそれを遙かに凌ぐ美しいものだと思った。しかし、その実態はゴミでしかない。イーグルは思う、見た目の美しさだけに惑わされてはいけないのだと。
雪はやがて、ステーションを離れ、永遠に彷徨う旅に出て行く。もしもこれを見つけた生命体がいたらこれを見て何と思うだろうか、知的生命体の痕跡だと思うだろうか、それとも、下等な生物の過ちだと思うのだろうか。
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